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【読書】考えるライオン

昔の方が強かった。スポーツの世界でよく聞かれる言葉だ。
もちろん昔の人発信で、ほとんどの場合たわごとだと感じてしまう。例えば、陸上競技とか水泳に関して昔の選手と今の選手を比べたとしたら、こんなことは言えない。カール・ルイスはボルトより速かったという人はいない―――数値記録が残っているのだから。 (もちろん、もし同時代に闘わば、という設定はないことが前提)。
野球でも、サッカーでも、昔より今の方が進化もしているし、強いのは間違いない。 が、しかし! 釜本邦茂だけは、日本サッカー史上最強で、今の日本代表に入ってもエースストライカーなんじゃないかと思う。リアルタイムでメキシコ五輪を見た世代なので、バリバリの釜本を知ってはいるが、こちらが大人になってから目にする釜本伝説の方が、さらに凄い。
この本、この章の冒頭にも、釜本のFKの直撃を受け、壁に入っていた敵ひとりが吹っ飛んだ話。壁の中に入っていた味方も「俺に当てないでくれ」と祈った話。釜本のシュートを受けたキーパーの指が裂けた話と続くが、それが昔は凄かったという昔自慢ではなく、「ああ、釜本ならそうだったんだろうな」と思わせる説得力がある。ちなみに、タイトルの「考えるライオン」とは、釜本が子供の時に何になりたいか尋ねられた時に、一貫して「ライオンになりたい」と答えていたことに由来する。

藤島大 著 スポーツノンフィクション選「熱狂のアルカディア」(文藝春秋 刊)より
2015年2月4日三枝芳彦のFacebook投稿文を加筆修正

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