『サメと泳ぐ』

(ネタバレがあります。ご注意ください)

   今回の同行者は高3の息子である。夏休みはどこも行けなかったし旅行がてら…と息子に観劇のついでに寄りたいところを聞いたところFateの聖地を指定された。北野異人館の鶏の館と神戸大橋。アニメオタクと舞台オタクの兵庫遠征である。
 追加公演のぴあ先行発売で2階席だった。あいにく今をときめく田中圭の細かい顔の造形などはまったく分からなかったけど(足が長いのは分かった)、一段高い位置にドーン(野波真帆)の部屋があり、さらに一段高い位置にバディ(田中哲司)の部屋があったので、2階席からはとても見やすくて正解だったかもしれない。
 ガイ(田中圭)は映画会社のナンバー3であるバディのアシスタントとして採用された。バディはさまざまなハラスメントを日常的に行って今の地位をキープしていた。ガイは自分で考えることを許されず、ただひたすら人格を否定される。映画の企画をバディに取り合ってもらえなかったドーンはガイを食事に誘う。かつて見た映画の話に意気投合した二人は恋愛関係になるのだが、それを察知したバディがガイを使ってドーンに揺さぶりを掛ける。
 ガイは基本的に人を信じやすい。そして素直だ。バディはそんなガイにいろいろな思い込みをさせる。激しいパワハラをしつつ、本心は君にしか明かさないといった態度でガイを信じさせる。バディの言葉を信じてバディの片腕になったつもりのガイは態度もでかくなる。権力を動かしているような気になったガイに欲が出ている様子がよく分かる。男尊女卑が当然のようにまかり通っている世界。バディと同じくナンバー3としてしのぎを削っている相手は女性だ。敵が女性だという時点でバディは最後に勝つのは自分だと思っている。だがそれを確実にするためガイを通してドーンを陥れようとする。その手口は女性を下に見る社会じゃないと成り立たない。ドーンは男尊女卑の社会で生き抜くためにそれなりの手段は使っていたようだ。だけど彼女は人としてのプライドをしっかり持っていた。それが見えたとき一気にドーンに感情移入してしまった。そうなるとバディはくだらない策略にすべてを掛けている姿が滑稽でしょうがないし、ガイに対してはなぜドーンの言っていることが分からないのかとイライラしてくる。ただバディの策略は確実に効果があるもので、ドーンに対してダメージのあるポイントを的確に狙ってくる。ガイはバディを妄信しているので、その部分を無意識で心の底からの言葉でドーンに投げつける。そのセリフを聞いたとき思わず「あー、こいつダメだ」と声が出そうになった。出たかと思った。ドーンはガイに別れを告げる。ドーン側から見るとそれは正しい結論だと納得のいく場面だ。
でもガイには分からない。ドーンと別れることになった理由がバディがウソをついていたからだと気づくとすべてバディのせいにして復習をする。ガイは自分に正直に振舞っているので悪いのは自分ではないのだ。途中でドーンに肩入れしてしまったため結末は意外だった。最終的にガイはどこまでもダメな男だった。ドーンと同じようにガイには最後にいい男になって欲しかったし、ドーンの言葉は私がガイに対して言いたい言葉だった。聡明なドーンは途中で見切りをつけたけど、私は長い暗転が終わって明るくなるまでその希望を捨てられなかった。バディは細かくて器が小さい男に見えていたけど最終的にすべて彼の思い通りになった。それはバディにとってなるべくしてなった結末だろう。
息子にあの結末は意外だったなぁと言うと、いや、結末はあれしかないだろ。と言われた。理由もきちんと述べられた。そうか、客観的に見れていなくて勝手にミスリードされてたんだなぁ。

『サメと泳ぐ』
原作:ジョージ・ホアン
上演台本:マイケル・レスリー
演出:千葉哲也
翻訳:徐賀世子
出演:田中哲司、田中圭、野波真帆、石田佳央、伊藤公一、小山あずさ、千葉哲也

東京会場
日程:2018/9/1(土)~9/9(日)
会場:世田谷パブリックシアター

宮城会場
日程:2018/9/11(火)
会場:電力ホール

兵庫会場
日程:2018/9/14(金)~9/17(月) ※16日18時公演をみました
会場:兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホール

福岡会場
日程:2018/9/20(木)~9/21(金)
会場:ももちパレス 大ホール

愛媛会場
日程:2018/9/28(金)
会場:松山市総合コミュニティセンター キャメリアホール

広島会場
日程:2018/10/4(木)
会場:JMSアステールプラザ 大ホール

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