宗像幸彦
日本フリーランスの旅【第3回 名古屋編】永谷正樹さん
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日本フリーランスの旅【第3回 名古屋編】永谷正樹さん

宗像幸彦

名古屋にやってきた。
今回話を伺うフリーランスは、永谷正樹(ながや まさき)さん。東海地方をメインに活動するカメラマン・ライターだ。永谷さんは僕が出版社に勤めていた20代の頃からお世話になった方で、自分がグルメサイトの編集に携わっていたここ数年は名古屋の飲食店や食品メーカーの取材記事をかなりの数手がけていただいた。
名古屋のグルメ情報に関していえば、だいたいのことに通じている、自分にとっては地域の顔のような存在である。
 
そんなわけで、今回は「名古屋めしに詳しい永谷さんに美味しい名古屋めしをたくさん紹介してもらいました!」と思わず書いてしまいそうになるが、話はむしろ逆だ。
彼は毎日更新しているブログで、2021年5月に「脱・名古屋メシライター」宣言をしている。

 このジャンルでは第一線で活躍し、名古屋メシの案内人として東京のマスコミでも名が知れ渡っていた彼は、地元の食とどう向き合っているのか。その真意を聞いてみたくて、名古屋までやってきたのだった。

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▲名古屋市営地下鉄の駅にて。ま、アピールの仕方としてはそうなっちゃうよな

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▲名古屋は完全なクルマ社会ゆえ、ほぼマイカーで移動。車内で昔自身が勤務していた編プロ時代の話で盛り上がる。当時はグルメ取材から風俗店の撮影まで幅広く手がけていたせいか、裏ネタを話出すと枚挙にいとまがない

味噌カツではなく「美味いトンカツ」として味わってほしい

「お連れしたいお店があるんです」と案内いただいたのは、若者の街・大須にあるとんかつ屋。何度も取材で訪れているという「すゞ家 大須赤門店」である。

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▲創業は昭和22年。四代続く歴史のある店だ

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▲品の良い洋食屋さんといった感じの落ち着いた店内

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▲価格設定も手頃な方だと思う。ロース派なので、迷わずロースカツ定食を注文
 
永谷:僕ね、ここのトンカツ食べて泣いたことがあるんですよ。めちゃめちゃ精神的にヘコんでいた時だったんで、美味さが余計に身にしみたというか。
 
美味しすぎて泣いた、とSNSに投稿することはあっても実際に味で涙を流したことあったっけ。記憶を辿る間もなく、目の前にロースカツ定食が運ばれてきた。

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 ▲いわゆる名古屋的な味噌カツではなく、正統派のとんかつだ
 
さっそく食べてみると、これがめっぽう美味い。衣はサクサクしていて香ばしく、豚肉はほどよい厚みで噛むほどに甘さを感じる。何より味噌ダレが深い味わいで、全然押し付けがましくなく引き立て役に徹しているのがいい。
名古屋のトンカツといえば、味噌ダレがダラッと無遠慮にかけられたいわゆる「味噌カツ」をイメージしがちだが、まったく別物だ。
 
弱っている時に思わず泣いちゃうっていうのはちょっとわかる気もする。

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▲トンカツは味噌ダレにつけて食べる方式。タレは自然の甘みを出すため、砂糖ではなく擦り下ろした干し柿を加えているそうだ
 
永谷:これをあえて「名古屋メシ」として紹介するのって、ちょっと乱暴なんじゃないかってずっと感じていました。自分としては、あくまでも「美味いトンカツ」として食べてほしい。お店のご主人だって、別に「名古屋メシを作ろう」と思って調理しているわけじゃないですから。

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確かに、自分の食後感も「名古屋メシを食べた」ではなく「むちゃくちゃ美味いトンカツを極上のタレにつけて食べた」だし、そのまんまの情報として脳内にインプットされるだろう。
 
永谷:名古屋メシというジャンルにカテゴライズしてアピールすること自体を否定はしません。集客する上である程度のキャッチーさは必要だと思いますし。ただ、自分としては
ひとくくりにされることで抜け落ちてしまう大事な部分をきちんと伝えたい。そう考えた場合、名古屋メシライターと名乗るのは無理があると気づいたんです。

名古屋めしライターという肩書きでは、名古屋めしにカテゴライズされる料理としてしか語ることができない。いや、できるという人もいるだろうが、私にはできない。

自身のブログでも彼はそう綴っている。自身も名古屋メシライターとしてさまざまな媒体で仕事をしてきただけに、反省の念もあるのだろう。数多くの取材を経た者だからこそ辿り着いた境地なのかもしれない。

意外だった名古屋人のきしめん離れ
 

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▲星が丘製麺所の「太門」(680円)。ころ(名古屋で言う冷たい汁麺のこと)だからか、麺のコシとムロアジを使った出汁の味わいがよりくっきり
 
そもそも名古屋メシと言う言葉はそもそもどこから生まれたのだろうか。調べてみると「2001年頃、名古屋の飲食チェーンが東京で展開する際、ご当地料理を名古屋メシとして売り出した。由来はすでに市民権を得ていたイタメシに引っ掛けたもの」が定説のようだ。
つまり、意外にも地元ではなく東京で生まれて広まった言葉である。さらに愛知県で2005年開催の「愛・地球博」を控えた時期だったこともあり、伝播力に拍車がかかった。

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永谷:名古屋メシという言葉が生まれてからかれこれ20年経っているわけで、いろんなところで便利に使われすぎて、あまりに一人歩きしすぎちゃった感は否めませんよね。ただ、グルメ目的で名古屋に来る人ってどれくらいいるんだろうってのが正直な実感で。たまたま仕事の出張とか、好きなアーティストのライブを名古屋に見に来たついでにじゃあ食べてみようかっていうくらいのもんじゃないかな。
 
意外だったのは、地元の人間すらもいわゆる名古屋メシに親しんでいるかというと必ずしもそうでないところだ。
たとえば、きしめん。
 
永谷:きしめんは手打ちするのに時間も人的なコストもかかるせいか、実は名古屋でも出すお店が減ってきています。そんな中でも頑張っているお店はあって、たとえば千種区に去年オープンした星が丘製麺所なんかは機械打ちにして冷凍も最新の技術を使っていていつでも変わらないクオリティで出せる工夫をしています。
 
その言葉に偽りはなく、取材翌日に星が丘製麺所で食べた冷やし麺「太門(タモン)」は非の打ち所がない美味さだった。
 
永谷:このお店はおしゃれな雰囲気もあるので若いお客さんも多いんですが、「生まれて初めてきしめんを食べたら感動したので、近所でも探して食べてみよう」って名古屋市内の子が言ってるのを聞いてこっちが逆に感動しましたね。
 

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▲オリジナルグッズや冷凍食品スペースが併設された星が丘製麺所。どれも気の利いたデザインばかり

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▲永谷さん激推し、大久手山本屋の玉子入り味噌煮込みうどん(1100円)。数ある山本屋チェーンの中でもここだけは手打ちにこだわっている。実際、時間が経ってもまるでのびない麺で最後まで美味しくいただけた
 
永谷:AKB48って「クラスの10番目に可愛い子を集めることで大きな力に変えた」みたいな話があったじゃないですか。受け止め方はさまざまだとは思いますけどね。名古屋メシという言葉も生まれた当初は一つ一つのインパクトが弱いからこそのネーミングだったと思うんです。でも、20年経ってそろそろソロで行けるんじゃないかって思うんですよね。各々、実力も十分に備わってるわけですから。

派手なモーニングだけが名古屋の喫茶文化にあらず
 

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名古屋の食文化といえば、欠かせないのが喫茶店文化である。
永谷さんが連れてきてくれたのは、コンパル御器所(ごきそ)店。コンパルといえば名古屋では知らない者がいない喫茶チェーンだが、初めて訪れた者すらどこか懐かしさを感じる雰囲気だ。

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▲昭和の喫茶店にタイムスリップしたような店内。デートで利用する若者もいれば、一人でボーッとスポーツ新聞を眺めるお年寄りもいる。特にこの御器所店は繁華街からも遠いせいか、市民の息遣いが聞こえてくる場所でもある

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▲このイスのフォルムに思わず見惚れる
 
永谷:名古屋の喫茶店っていうと、メディアはどうしても派手なモーニングを取り上げてこれが喫茶文化だ!って言いたがりますよね。かつては自分もそうでした。ただ、そういった店が今も生き残っているかというと意外と残ってない。もちろん、頑張って続けている店もありますけど、大盤振る舞いのモーニングを継続するのって相当大変なんですよね。豪勢なモーニングだけが名古屋の喫茶文化かっていうと全然そうじゃないんですよ。
 
ネタとして取り上げたものは、ネタで終わってしまうことも少なくない。そうではなく、市民が日常的に利用し、日々の句読点を打つような喫茶店こそが長く愛される存在なのではないか、と永谷さんは言う。
 
永谷:僕なんかが高校時代に行っていた喫茶店って今でも続いてるんです。じゃあどういう店かって言うと、まぁ取り立てて個性がないめちゃめちゃ普通のお店というか。緩い空気感があって、なんてことないピラフが美味い。そういえば、最近は喫茶店のピラフにハマっちゃって。ナポリタンとかオムライスとかってブームになったりしたけど、ピラフって誰も振り向かないじゃないですか(笑)。

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▲コンパルのミックスサンド(650円)。観光客にはエビフライサンド(980円)が人気だが、永谷さんは圧倒的にミックスサンド派。野菜がシャキシャキしていて申し分ない味だった

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▲いただく前に必ずブログ用に写真撮影

究極の名古屋式日常食「チャーラー」

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▲愛知県一宮市『ジャンボラーメン 愛ちゃん』のチャーラー。食べ盛りの中高生の頃、永谷さんが友達とよく食べに行っていた店のチャーラーと酷似しているという。ラーメンの丼は、子供用の洗面器くらいの大きさで大満足。(写真提供/永谷正樹) 

永谷さんが喫茶店のピラフ同様、ハマっているのがチャーラーだ。チャーラーとは、町中華などでよく提供されているチャーハンとラーメンのセットのこと。なんだ、それなら名古屋じゃなくても全国にあるじゃないかと思うかもしれないが、チャーラーという名称が名古屋以外のどこにあるだろうか。全国にあるけど、名古屋にしかない。そんなチャーラーの食レポを趣味でブログに上げまくっていたら、最終的にチャーラーの連載をしてほしいというオファーがあるメディアから舞い込んだというから世の中何があるかわからない。

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▲永谷さんのおすすめのスポット、円頓寺商店街。ここは名古屋でもっとも古い商店街なんだそう。こちらはその中にある銀座街

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▲夕暮れ時の銀座街。何を撮っても絵になる
 
永谷:ラーメン店の取材も長年やってきたんですが、つけ麺が流行り出したあたりからちょっとついていけなくなった部分もあって、自分にとって本当に美味しいラーメンってなんだろうって考えた時に、頭に浮かんだのは子供の頃によく食べていたいわゆるオーソドックスなしょうゆ味だったんですよ。親が共働きだったので土曜の昼に学校から帰るとテーブルにメシ代として500円が置いてあって、それで食堂行って食べていました。
 
食べ盛りの頃によく食べたラーメンとチャーハンのセットが無性に懐かしくなり、市内でチャーラーを食べまくっているうちに「チャーラーは名古屋特有」という事実に気づいた。
 
永谷:チャーハンとラーメンのセットなんて全国にあるんですけど、自分としてはしょうゆ味のラーメンしか味的に成立しないだろうって思い込んでいたんです。だけど、面白いのは博多でとんこつラーメンのチャーラーを食べても文句なしに美味い。チャーハンがちゃんとそれに合う味にローカライズされてるんですよね。身近すぎて気づかなかったけど、意外と奥深いものなんじゃないかって思いました。

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▲長野県飯田市『新京亭』のチャーラー。「行き先を決めずにひたすら国道19号線を走り、昼食に立ち寄ったのがここ」と、永谷さん。長野県といえば蕎麦だが、「昔からラーメンやチャーハンを出している店は、その土地で暮らす人々の等身大の姿というか、飾らない“素”の部分が見えるような気がする」と語る(写真提供/永谷正樹)
 
永谷さんを見ていると、誰もが気づかない地元の面白さを伝えられる人がローカルで生き残っていくような気がしてならない。脱・名古屋メシ宣言したからこそより視界がクリアになったのだろう。

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▲チャーラーではないが、今回の名古屋出張で僕の舌に計り知れないインパクトを残した人生餃子の「皿台湾」(写真は日曜限定のセット)。濃い味付けとピリピリとした辛さの効いた「強い味」だった。
 
永谷:愛知県の産業って自動車を頂点とする製造業がメインなんです。広島県呉市のヤマトミュージアムとか行くと、当時の技術者に愛知県人めちゃめちゃ多いわけですよ。名古屋港の貿易黒字がずっと日本一なのも自動車があるから。ただ、一方では食材が豊富な地域でもあるんです。畜産も盛んだし、三河湾では新鮮な魚が獲れて、豊橋あたりでは野菜の生産量も多い。ただ、地元の人ですら、このレベルの高さに気づいていないフシがあるんですよね。魚介専門店でも地魚と日本海産だったら、みんな日本海産のお店に入っちゃうんで(笑)。そういう食材王国としての愛知県をもっと知ってほしいなって思うし、自分も伝えていきたいですね。

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▲名古屋の台所とも言える柳橋中央市場。手取り早く地の美味いもん(特に海鮮系)を食べたいならここの敷地内にある食品センターへ行くべし

迷路のような篠島の街並み

ここまで読んでもらえて感謝しきりである。最後におまけとして今回の名古屋出張で個人的に印象に残ったスポットを紹介して終わりにしたい。
 
取材の翌々日、名古屋市内の駅から名鉄で知多半島の河和駅まで行き、そこからフェリーで島巡りをして東京へ帰った。愛知県に島があるのかと思う人もいるかもしれないが、これが結構良かったので機会あればぜひ行ってみてほしい。
 
あとは本文抜きでキャプションで進めるので気楽に読んでやってください。

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▲名古屋中心部から名鉄線で約1時間、終点の河和駅で下車。そこから10分ほど歩いた河和港にて高速船の周遊乗船券を購入

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▲最初の目的地である日間賀島へ向かう高速船の甲板にて。仲間内でキャッキャ騒いでいた若い男の子が子犬みたいで妙に可愛げがあった

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▲高速船に乗ること約20分で日間賀島に到着。見ての通りタコが名物らしい

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▲そんなわけで、タコしゃぶを食べてみた。弾力があってなかなかイケた。「乙姫」というお店にて

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▲日間賀島は愛知県民にとって「身近なハワイ」みたいな場所なのだろう。歩いているだけでも開放的な気分に浸れる

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▲日間賀島から再び高速船に乗り、第二の目的地である篠島に到着。正直そこまで期待してなかったのだが……

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▲篠島、実はめちゃめちゃ気に入ってしまった。特に素晴らしかったのは、漁師町によくある迷路のような路地

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▲歩いているとたまらない郷愁に襲われる。僕の育った天草の町にもこんな空間があったからかもしれない

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▲あたかもつげ義春の漫画の中を歩き回っているかのような錯覚をしてしまうのだが、住民にとってはあくまで生活の場ゆえ忍び足で。

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▲ふと見上げれば、こんなあくび顔にも出会えたり

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▲どこを向いても絵になるってこんなことか

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▲海のある風景がやっぱり好き
                         
大都市・名古屋からわずか90分ほどでこんな風景に出会えるとは予想だにしなかった。日間賀島も篠島も素晴らしいところなのでぜひ足を伸ばしてみてください。

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▲最後のおまけに、お土産を。  山本屋大久手店の味噌煮込みうどん、人生餃子のチャーシュー缶詰、星が丘製麺所の天然だしパック


 
 
 

 
 
 
 

 
 

 

 
 

 
 



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宗像幸彦
おもにエディター、ライター。 出版社勤務を経て、現在、制作プロダクション株式会社GUINGA(ギンガ)を運営。 https://guinga-inc.com/ 文筆、コピー制作、紙媒体・書籍・ウェブの編集、PR記事制作、ウェブ制作など。 熊本県天草出身、東京都杉並区在住。