熊谷美広

音楽ライター歴30年を越えました。ジャズからアイドルまで幅広く手がけていて、特にフュー…

熊谷美広

音楽ライター歴30年を越えました。ジャズからアイドルまで幅広く手がけていて、特にフュージョンについては第一人者と言われてます。また音楽的知識の豊富さは業界内でも知られています。他にも番組の構成やライブの企画などもやってます。

マガジン

  • Lost Liner Notes

    ライナーノーツ(Liner Notes)とは、日本盤のCDやLPの中に入っている解説文のことです。私はこれまでに延べ1,000作を越える作品のライナーノーツを書かせていただきました。ただライナーノーツの寿命は短く、日本盤のCDが廃盤や生産中止になったり、復刻される時に新規原稿に切り替えられたりして、現在も読んでいただけるものはとても少なくなってしまっています。しかし自分としては毎回すごく力を入れ、いっぱい調べ物をして、思い入れたっぷりに書いてきたつもりなので、それをもう読んでいただけないことをとても残念に思っていました。そこでかつて私が執筆し、しかし現在では読めなくなってしまっているライナーノーツを復刻させていただくことにしました。過去に執筆したものですので、現在の状況にそぐわないものもあり、一部加筆訂正しています。需要があるかどうかはわかりませんが、読んでいただけると幸いです。

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1970年代後半に一世を風靡した、ジャズに、ポップス、ロック、R&Bなどの音楽の要素を取り込んだ“フュージョン"と呼ばれる音楽。今では“オワコン"扱いもされていたりもしますが、コッソリと生き残ってますし、サンプリングのネタとして多用されたり、コード進行やサウンド・メイキングがポップスなどに影響を与えたもしてます。
ということでここでは、フュージョン・ファンの眼から見た名盤というのをワタシなりに挙げ

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昨年、惜しまれつつ他界してしまったチック・コリアですが、「チック・コリアの代表曲は?」と聞かれたら、多くの人が「Spain」と答えるのではないでしょうか。この曲はチックの楽曲の中でも「La Fiesta」と並んで最もファンの間で人気が高く、多くのミュージシャンに取り上げられて、今ではジャズのスタンダード曲のひとつになっています。1970年代のジャズ・シーンが生んだ名曲のひとつだといっていいでしょう

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この間、知人と「Tell Me A Bedtime Story」の話になったんですけど、そういえばこの曲のどこがすごいかということを知らない人がけっこういるよね、という話になって、そこでそんな人のた

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ジャズ事件簿 【熊さんのジャズ雑談】

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レコードに残されたジャズの珍事件ジャズという音楽の大きな聴きどころが、アドリブ=即興演奏です。しかしその場で即興演奏を行なうということは、様々なアクシデントやハプニングも起こりやすくなるというリスクもはらんでいます。そしてそれによって演奏がさらに盛り上がったり、予想しないような名演が生まれることもあれば、逆に演奏が破綻してしまったりすることもあります。しかもジャズは基本的にダビングや修正を行なわな

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フュージョン・ミュージックの歴史

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この文章は、廃刊となってしまった音楽雑誌「ADLIB」の2006年1-12月号に連載していたものに、加筆・訂正したものです。

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1976年6月29日、“ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル”で“ハービー・ハンコックの追想”というプログラムが組まれた。これはその名のとおり、ハービー・ハンコックのそれまでの活動の中から代表的な3つのグループによる演奏を展開するというものだったが

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【Lost Liner Notes】 ハービー・ハンコック / カルテット (1981年)

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Herbie Hancock / Quartet

これは1992年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。

1981年7月、“ライヴ・アンダー・ザ・スカイ”のハービー・ハンコック=カルロス・サンタナ・バンドのステージのオープニングとして、ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスのトリオとともに1人の若いトランペッターが登場してきた。メガネをかけ、アフ

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【Lost Liner Notes】 ハービー・ハンコック / ミスター・ハンズ (1980年)

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Herbie Hancock / Mr. Hands

これは1997年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。

ハービー・ハンコックのファンの人に、“ハービーのアルバムの中でいちばん好きなものは?”という質問をすると、例えば“大名盤”とされている、ブルーノート時代の『処女航海』や、1970年代の『ヘッド・ハンターズ』を挙げる人もいる中、『スピーク・ライク・ア

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【Lost Liner Notes】 ハービー・ハンコック / モンスター (1980年)

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Herbie Hancock / Monster

これは1991年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。

この『モンスター』をはじめとした1980年代前半のハービー・ハンコックのアルバムというのは、ハービーのファンはもちろん、ジャズ/フュージョン・ファンの間でも評価が低いというか、みんな“見て見ぬふり”をしている作品が多い。1978年の『サンライト』でヴォ

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【Lost Liner Notes】 ハービー・ハンコック / マン・チャイルド (1975年)

【Lost Liner Notes】 ハービー・ハンコック / マン・チャイルド (1975年)

Herbie Hancock / Man-Child

これは1998年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。

『ヘッド・ハンターズ』をはじめとするハービー・ハンコックの1970年代前半の作品たちが、クラブDJらに頻繁にサンプリングされたり、フロアでプレイされたりするようになって、若い世代の音楽ファンにも再評価され、新しいファン層も広がってきている。この『マ

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【Lost Liner Notes】 ハービー・ハンコック / マジック・ウィンドウズ (1981年)

【Lost Liner Notes】 ハービー・ハンコック / マジック・ウィンドウズ (1981年)

Herbie Hancock / Magic Windows

これは1994年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。

熱狂と興奮の1970年代も終わり、1980年代の声を聞く頃から、アルバムでいうと『フィーツ』あたりからハービー・ハンコックは“迷走”の時期に入る。1978年の『サンライト』で、ヴォコーダーという“武器”を得てヴォーカルを使いこなせるようにな

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【Lost Liner Notes】 リターン・トゥ・フォーエヴァー / 浪漫の騎士 (1976年)

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これは1991年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。

チック・コリアとスタンリー・クラークの2人をリーダーとした“リターン・トゥ・フォーエヴァー"(以下RTF)は、その時代時代で様々なフォーマットで活動していた。1972年にリリースされて記録的な大ヒットとなった『リターン・トゥ・フォーエヴァー』から端を発する第1期(1972~73年)、そして突然ハードなエ

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【Lost Liner Notes】 チック・コリア / シークレット・エージェント (1978年)

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Chick Corea / Secret Agent

これは2005年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。

1975年、チック・コリアは当時活動していたリターン・トゥ・フォーエヴァー(以下RTF)とは別に新たなるソロ・プロジェクトを始動し、アルバム『妖精』をリリースする。この作品はRTFのロック・テイストのサウンドとは異なり、ギターレスでホーンやストリン

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【Lost Liner Notes】 チック・コリア / フレンズ (1978年)

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Chick Corea / Friends

これは1991年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。

この『フレンズ』は、数あるチック・コリアのアルバムの中でも、最も人気のあるものの1枚だ。このアルバムのようなリラックスした、そしてハートウォーミングなチックの作品というのも、実はけっこう珍しい。そういう意味でも、とてもレアな作品だといえるかも知れない。
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