ハイド・アンド・シーク

 遂にこの日が来てしまった。例年だったらるりちゃんに藤島慈特製愛情たっぷりチョコを渡して、逆に私が大沢瑠璃乃特製愛情たっぷりチョコを貰う。そんな日。日本とカリフォルニアで離れていても形だけはそういうやりとりを続けていて、でも今年はちょっと違う。だって私達ケンカ中だから

「慈せーんぱい!」
「花帆こーうはい。どうしたの?」
「はいこれ、バレンタインですから!」
「おおっ、うさぎちゃん型のチョコだ。凄いじゃんこれ。作ったの?」
「はいっ、さやかちゃんが出張さや処を…あっこれ以上は言っちゃいけないんでした今のナシ!ナシです!」
「…?まーいーや。ありがとうね花帆コウハイ!」
「どういたしまして。期間限定かほめぐ♡じぇらーとももう折り返しですからね。慈先輩も美味しいもの食べて元気つけて頑張りましょう!」
「うんうん。花帆ちゃんの手作りチョコならめぐちゃん今すぐにでもライブできそうなくらい元気出ちゃうかも」
「…やりますか?」
「すみません言い過ぎました」

 今の眼はマジだった。すごく良い子だけれども時たまあの子は怖いところがある。
 コウハイが他のみんな(梢を含む)にも渡してくると言って走り去って行ったのを見送ったあと誰もいないのを確認して机の引き出しを開ける。はあ…どうしたものか。1人用意するのも5人用意するのも結局同じ事なので用意してしまってあるのだけれども…顔を合わせると皮肉を飛ばしてしまいそうで、そのままいつもの流れでケンカをしてしまいそうで、こういう時に誰にも隔てなく素直なコウハイの行動力を羨ましく感じる。
 あーでもないこーでもないとウダウダしていると外から何かが這うような、滑るような音が聞こえてきた。(スクールアイドルが直接呼称してはいけない黒いアレ)!?かと驚いたがアレがいかに大きくともそんな音はしないだろう。引き出しを閉じて部屋のドアを開けると…誰もいない。偵察っぽい影もない。隣の部屋の前に大きめの段ボールが置いてあるだけだしこれは多分お届けものかな…?私の所にもよく通販が届くし。何だったのかな…?と不安に感じてドアの裏を見たら「それ」はあった。あの子らしい私好みの可愛さとはちょっと…いや大分かけ離れた紙袋。これまた独特な包み紙を解くと出てきたのはチャウチャウの形のミルクチョコレートとメッセージカード。紫色の菊が描かれたカードに記されていたのはひと言。「待ってて」
 深くため息をついた後に机に戻って引き出しの中身を取り出す。どんな事があろうとも勇気を出してくれためぐ党の心意気に対してカッコ悪い藤島慈でいる事を他の誰が許しても私が許さないから。目的地の部屋に着いてドアをノックするが返事はない。いないのかな…?そこの隣の部屋にも大きめの段ボールがあった。どうも今年の蓮ノ空の流行は大きな贈り物みたいだ。まあそんな事もあるよねと思ってドアノブに袋を提げて自分の部屋へと戻った

 部屋に着いた頃にスマホが震えてメッセージが届いた。ありがとうと記された画面を見て素直じゃないなあと笑ったあとそれは自分も同じだなと気付いた。
 プレゼントのチョコを一口齧る。びっくりするくらいに甘ったるい。シュガーは思ってる3倍!って歌う私達らしい味。月末に見せると言うるりちゃんの「証明」が何なのかは正直わからない。るりちゃんと綴理が私やさやかちゃんと離れた事で自分なりの答えを見つけたように私と花帆ちゃんだって今回沢山のものを得ているのだから負けてられない。特訓だ!と私は可愛いコウハイへメッセージを書き始めた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?