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スレイト・オブ・ガルラジ

神楽邸の物置の奥にある不思議な石盤。そこには時たま不可解なものが映るという。信じるか信じないかは貴方次第…

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駿河湾、漁船の上
「凪紗さん!もう少し右です!」
白糸結の普段の印象からかけ離れた大声が夜の駿河湾に響く。彼女が見つめているのは魚群ソナーだ
「はいよっ!しかし本当に良いのかね…?これどう考えても『密漁』だよ?あたしに至っては船舶の無免許運転のおまけ付きだし」
「いいんです!仲間との絆より大事なものなんてありませんから!」
「まーた結の変なスイッチが入っちゃってるや…こうなったら止められないし文字通り乗り掛かった船だ!待ってろよすず!世界一うまい生しらす丼食わせてあげるからなあ!」

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玉笹家 キッチン
ひとりの少女が正座をしている。そしてひとりの少女が仁王立ちしている
「いつになくそわそわしてると思ったら今更バイト先の義理で渡す用のバレンタインチョコを作りたいと…しかも10や20じゃきかないと…アンタ夏休みの宿題の頃から進歩が無さ過ぎない…!?このバカ美!」
「面目次第もありません…どうか私めにお助けを…神様仏様彩乃様…!」
「はあ…あたしだって自分の作る奴があるんだから暇じゃないんだから…明日あたしが大学から帰ってくるまでに甲府までチャリ漕いで材料買いに行ってきなさいよ!?」
「みーちゃん、のーちゃん、わたしも手伝うから一緒に作ってもいい…?奈桜ちゃんに贈りたいから」
「花菜!天使過ぎる…!そうだその様子も録画して『三姉妹でチョコ作ってみた!』の動画を作ればバズるの間違いなし…!」
「調子に乗るなバカ美!」

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カグラヤアジト キッチン
「ふーこれで完成だね!ありがとうアカリ、徳ちゃん。助かったよ!」
「いえいえお安い御用ですわ。わたくしもお父様や爺やに贈る用のチョコレートを作る必要はありましたし。それはそうととくちゃんさん、先程からチョコを作るときにわざと出来の悪いものを作って『いやー出来が悪いのがあるし捨てるくらいなら食べちゃうかー!』って言いながら食べてませんでしたか…?」
「(ギクッ!)そそそそんな事ないに決まってるじゃんアカリちゃん…!あたしがいくら食い意地張ってるからってそんな美味しいチョコなら先行で味見したいなーとか思ってそんな事するわけないじゃない。おねーさんを疑うの…!?」
「ほぼほぼ自供と取っていいよねアカリ…」
「ええ。とくちゃんさん、食べた分は動かないとですわね。運動負荷30で行きましょうか」
「嫌ーっ!おーたーすーけー!」

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美容室ウォルナット 入口前
日付が変わるや否やインターホンが連打された。お母さんも慌てて飛び起きた。モニターを見てみると見知った金髪。呆れて声も出なかった
「うーっすミル!ハッピーバレンタイン!」
「今夜中の0時ですよ…もう少し常識とかそういう観念を覚えてくれると助かるんですが…」
「ごめんごめん。今日の事を考えてたらいてもたってもいられなくてさー!はいチョコ。じゃあ渡すもん渡したし帰るね。おやすマンデー!」
「今日はフライデー!」
バイクのエンジン音を唸らせながら帰ろうとしていた吉田さんが振り返る
「あっそうだ。それ本命だかんねー!」
颯爽と去っていった。…は!?本命!?
「本ッ当に吉田さんは…!」
今夜は眠れなさそうだ

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美容室ウォルナット 店内
「こんばんマンデー!ってどうしたのさミルそんな長いウィッグ被って座りながら参考書読んでるなんて」
「また用も無いのに人の家に押しかけてきたんですか吉田さんは。さっきうちの美容室に昇天…?ペガサスミックス盛り…?とかいう髪型にしたいって予約の電話が入ってお母さんが練習台が欲しいから座ってるだけであとは何しててもいいって事でアルバイトです」
「そっかー。じゃあ終わったら鍋しようよ具材は持ってきたしバイトが終わるまでに支度はしとくからさ」
「本当に暇を持て余してるんですね…嫌とは言いませんけどこんな頻繁に私だけじゃなくてお母さんの分までタダ飯奢ってお財布保つんですか?」
「その辺はホラ、東京にいた頃にある程度貯めてるし…?最近昔の知り合いのツテでちょっとお手伝いとかしてるからまあね?それと頑張ってるミルを応援してあげたいのはあたしの正直な気持ちだから」
「…ッ!照れるような事をさらりと言わないでくださいそういう所ですよ本当に!」

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白山市 焼肉店
「うおーっマジでアタシ達も食べていいんスかアネキ!これ能登牛っスよ!」
「おう行ったれ!ミルの壮行会だからな!しみったれた事は言わねえ!」
「ミルさん!これ良い感じに焼けてるんで持ってってください!」
「はあ…ありがとうございます」
「海瑠、野菜も食べときなさいよ。ただでさえアンタちっちゃいんだからバランス良く食べとかないと大きくならないわよ」
「お母さんに言われんでもそれ位はするわ!」
どうしてこうなったのだろう。受験直前だし景気付けに焼肉をご馳走してやるよ!と電話がかかってきてお母さんに晩ご飯要らんわと告げて出てきたら家の前に族車の行列ができていた所から既におかしかった。あまりの事態にお母さんも店から飛び出てきた。
そこからは怒涛の勢いだった。お母さんは吉田軍団とあっという間に意気投合しひとりのバイクにタンデムしてついてくる事になった。何故かお母さんも古めかしい型ではあるが自前のヘルメットを持っていた
「ミルー?どうした心ここにあらずで」
「お母さんがヘルメットを持っていたから思い出したんですけどお父さんも昔はバイクに乗ってたんですよね…」
「あー…人に歴史ありって奴だな。まあミルもいつか今使ってるヘルメットをそんな風に引っ張り出す日が来るのかもね」
「そんなもんですかね…?」
「そんなもんだよ。ホラホラもっと食え食え。せっかく奮発した能登牛なのにアイツ等に食われちまうぞ!」

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カフェテリアばんざい カウンター席
3人の少女が向かい合っている。ひとりがカウンターの内側でコーヒーを淹れ、ふたりが客席でカップの中身を飲み干している
「これが呑まずにやってられるかー!ちーちゃんおかわり!」
「春花っちはそろそろ自分が何杯目のコーヒーなのかを数えた方が良いと思う。トイレが近くなって帰れなくなるぞー」
「でもでもちーちゃん、折角色々と卒業記念放送とか企画してたのに全部休校でおじゃんだよ!私たちの青春放り投げられちゃったんだよ!」
「全部に同意する訳じゃないけど春花がそう言いたい気持ちもわかるわね。何かしらの形でオカジョ放送部の最後の活動、私もしたいわ」
「おおう、真維さんまで。では良い事を教えてしんぜよう。なんと我が家の奥には機材がある。そして放送部員が3人もいる。あとは父さんの首を縦に振らせれば良いだけの話ではないかね二兎くん」
「ちーちゃん!」
「智加ちゃん!」
「まあ公開するかどうかは後で考えるとしてさ、宙ぶらりんのままは私もイヤだからさ。みんなでやろまい」

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白糸家 自室ドア前
準備は完璧です。親御さんに事情を説明して深夜のうちに私と凪紗さんは白糸家に侵入しサプライズバースデーの支度を終え今はバズーカ型のクラッカーを手に結さんの部屋へ突入しようとしている所です
「物音もしないから合図で突入しよう。1、2の3!」
「「結(さん)!ハッピーバースデー!」」
「ひゃあう!?」
バズーカの引金を引く前に響いたのは結さんの呆けたような叫びでした。え、何で?
「すずさん!凪紗さん!何かやるなら事前に言ってくださいよ!夜中にずっとゴソゴソ音がするから強盗だと思って寝れなかったんですから…!あと一歩で警察呼ぶとこでしたよぉ」
私と凪紗さんは顔を見合わせ
「まあ順番がずれたけど今日は一日結のお祝いをする日って事で!」
「そういう事です。覚悟しておいてくださいね」
引き金を引き大きな音が家中に響きました

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玉笹家 双子部屋
「あーやーのー!ひーまー!」
布団の上で少女が転がりながら叫ぶ
「一日中寝っ転がってゲームしている人間の分際で何を今更…バイト先も閑散期になってるから仕事ないって話は聞いてるけどさあ」
「そうなんだよそれに花菜も『各教育機関のごこういで色々な教材を読ませてもらえるならやるしかない。いつやるの?今でしょ!』って言いながらずっと部屋に篭って勉強してるしさー!もう暇で死んじゃうから何とかしてよー!」
「なら前に買ってもらったギターでも弾けばいいじゃん。ずっと部屋の角に転がってるやつ。『駆け出しアイドルがギター弾いてみた』とか投稿すればそれなりにウケるんじゃないの」
「そういうのは安売りするもんじゃないの。ここぞという時にやるもんなのよ。はーこれだから素人は困るな」
「うわっムカつく。なら庭で変な運動でもしてれば?人の事ぽちゃ乃とか言って煽ってたけど寝っ転がってばっかりじゃアンタの方がぽちゃ美になるわよ」
「なら下でダンスレッスンしてくる。ちょうどこの前録画した音楽番組あるし」
ドタドタと足音を響かせながら彩美は部屋を出ていった。小一時間もしたら飽きて「お腹すいたー!夜食が食べたーい!」とか泣きついてくるだろうから何か軽食でも作ってやるか。花菜もずっと机に向かってるからホットミルクとかを用意してあげよう。そんな事を考えながら私も部屋を飛び出した

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愛知県 釣船茶屋
「「真維ちゃん(さん)お誕生日おめでとう!」」
呆気にとられている少女に「本日の主役」と書かれたたすきと釣竿が渡された
「真維ちゃんのお誕生日に何をしようか私たちは考えました!」
「受験も終わって全てから解き放たれた真維さんには好きな事を心ゆくまで楽しんでもらいたい。そう思った我々は色々と調べてこの釣った魚をその場で捌いて調理してくれるお店で限界まで釣り欲を満たしてもらおうと計画しました。さあ真維さん心ゆくまで釣ってくれい」
「二人とも…ありがとう。でもここお高いんじゃないのかしら…それと夜遅くなると帰りの心配も…」
「帰りに関してはお父さんが迎えに来てくれることになってます!真維ちゃんのお父さんにもお話してあります!」
「お代に関してはあたしと春花っちで計画して予算を用意したので大丈夫。オカジョからカフェばんへのスポンサー費と称して父さんからも毟り取ってきたので気にせず釣って大丈夫ですよ真維さん」
「…そう。なら心ゆくまで!」
少女は腕まくりをしてから釣竿を握り直す。さあどれから釣ってみようか。選びたい未来は両手では足りないくらいにある

4/1

神楽菜月の日記帳より
四月一日
今日はアカリの誕生日だ。徳ちゃんと共謀してとっておきのおもてなしを計画していたのだが意外な人物から申し出があった。父さんだ
「俺が旅立った頃はあんなちっちゃかったアイツの娘がこんな立派なお嬢さんになったんだから祝わせてくれよ!」
と強弁するのでささやかな女子会に中年のおじさんが混ざる非常に気まずい絵面になってしまった。別に嫌だった訳ではない。ボクの無二の友人を祝ってくれているのだから。ただそれでも、心から滲み出てくる気持ちは止まらなかった。これが世に言う反抗期の始まりなんだろうなあ
それでも、ボクらに見せてくれた今日のアカリの笑顔は積み上げてきたもの分の価値はあったから、今日はとても良い日だった。それはそうと帰り際にアカリから渡された「スポンサーとしてささやかな我儘を聞いてくださる?券」はいつどんなタイミングで使われるのだろうか。それだけは少し怖い

5/2

玉笹家 双子部屋
玉笹彩美のPCのメールBOXにそのメールが届いていたのはもうそろそろ週末も近い頃の真昼間だった。差出人は吉田文音。かつてガルラジで凌ぎを削った仲ではあるが直接的に仲が良いかと言われるとちょっと疑う感じだ。今期アニメの放映そのものが絶望的な為クソアニメお気持ち長文スクショ四枚も投稿できず暇を持て余していた彩美が中身を開いてみるとそれは招待状だった。オンライン飲み会。山梨だろうと石川だろうと東京だろうとどこでもできるめっちゃオシャなやつだ。彩乃に自慢してやろう。そう思って階下に向かおうとすると彩乃が凄い勢いで階段を登ってきた
「あっ彩美。今メールが来てさ!吉田さんがオンライン飲み会をしようって」
「今あたしの所にも来てた。彩乃おつまみよろしく。映えるやつね」
「それはまあ作るけどアンタは部屋をちゃんと掃除しなさいよ!?配信の視聴者さんみたいに広い心の持ち主だと思わないでよ!?あと自分のお酒くらい自分で買ってくること!」
「はいはい」
「はいは一度!」
「はーい」

「という事でお集まり頂いた皆さま誠にありがとうございます。言い出しっぺの吉田文音です。去年の今頃無職になって晴れて一年。天気の良い日はバイクで高速を走って天気の悪い日はミルに鬼電をする悠々自適ライフをエンジョイしてます。では次の方」
「えっこれそういうシステムなんですか!?徳若実希です。最近は海外遠征とか行けないのでカグラヤも普段はサブっぽい活動の占いとかヨガの配信とかそういうのが多くなってます」
「はーい!令和最初のマーベラス!セクシー!エーンキュートアイドル玉笹彩美でーっす!メイドさんのお仕事はお店が休業なんでストップしてますがほぼ毎日歌ってみたとか踊ってみたとか配信やってまーす!」
「双子の片割れ、玉笹彩乃です。最近は大学のゼミの教授からオンラインで講義を受けたりしてます。花菜もたまに参加してるんですよ。あと彩美がやれやれ煩いんで最近お料理動画のチャンネルを作りました。こんな感じですかね」
「金明凪紗です…内々定を貰っていた企業が今回の不況で倒産しました…晴れて無職です…」
「「「「あっ…」」」」
「気を取り直して!乾杯の音頭は金明さんにお願いしたいと思います。いつものアレで!」
「そうね!こんな時くらいはパーっとやりましょ!週末は、あなたと!」
「「「「「カンパーイ!」」」」」

5/5

菜月の自宅 玄関
 ドアを開けて現れた配達員のお兄さんは台車に沢山の段ボールを載せていた
「えーとこちらのでっかい箱が神楽…達筆で読めない。神楽様からのお荷物、こちらの細長い荷物が穂波様、こちらのクール便の荷物が徳若様からです。受け取りのサインかハンコお願いします」
「はい確かに。ありがとうございました」
「毎度ご利用ありがとうございます。失礼します」

 リビングまで運んだ荷物を開封する。父さんから送られてきた箱に入っていたのは奇怪な彫り物。メッセージカードには極寒のロシアの山奥の妖怪像だと書かれていた。資料も同封されているので研究にピッタリだ
 アカリから届いた箱にはフォーマルな感じの服が入っていた。「先日嫁いだ姉がかぐりんさんのお祝いにと作ってくれた」と書かれている。それとは別に入っていたアクセサリーはそれに合わせてアカリが選んでくれたようだ。女子力を感じる逸品。落ち着いた頃にこれを着て出掛けに行きたいな
 徳ちゃんからの箱には…案の定柏餅が入っていた。「かぐりんのお誕生日だし出来立てのものを持って行きたいけど泣く泣くクール便で送ります。あっちゃんと手作りだからね!悪くならないうちに食べてね!」と書かれたメッセージカードを読んで思わず笑みが溢れる。相変わらず色気より食い気だなあ
考え事をしながら柏餅を一口かじる。徳ちゃんは粒餡派か

5/23

玉笹家 双子部屋
「はいどーもわに!令和初のスーパー美少女アイドルYouTuber彩美ちゃんです!まずはこんな時間に配信を見にきてくれてありがとう!今日は重要なご報告があります…いや一般男性とかそういうのじゃなくて。今日はマイスイートシスター大天使こと花菜のお誕生日ですどんどんぱふぱふー!あっスパチャありがとうございます!という訳で今日は聖なる日なので夜通し花菜の誕生日を祝う配信をしようと思います!まずはこの部屋の片隅に転がってたギターを使って花菜のバースデーソングを…」
「うるさい!今何時だと思ってるのこのバカ美!またご近所に迷惑かける気!?」
「みーちゃん、のーちゃん。なんか騒いでるけどどうしたの…?」
「ほらバカ美のせいで花菜起きちゃったじゃない!花菜、お誕生日おめでとう。今日はお姉ちゃんと一緒に寝ようか。ほらお部屋に戻ろう?」
「あっズルい彩乃!あたしが先に言いたかったのに!違法行為だ!花菜ー!愛してるよー!」
「ズルくあーりーまーせーん!スーパー美少女アイドルYouTuber彩美さんは公約通り夜通し歌ってくださーい!あたしが花菜を一日中お祝いしてますので」
「ゴメンなさい今夜の配信はここまで!歌の配信は夕方に時間を改めてやりたいと思います!バイバイフライデー!(挨拶)」

6/5

??? ???
「はーい…EXCO中日本の…田ゆきのです。あらお久しぶりです元気してましたか?そうですか元気そうで何よりです。それで本日はどうなさったんですか?ふむふむ…なるほど昨今の不況で懇意にしていた制作会社さんが潰れてしまってスタッフが足りないと。それであの人に連絡を取りたい…わかりました。その旨を彼女に連絡させていただきますね。それでは結果は後日連絡する形で。はい。ではお疲れ様でしたー」
地獄耳のお姉さんは何でも知っているのですよ。捨てる神あれば拾う神ありですねー。連絡したら驚くだろうなあ

6/13

さわやか 店内
「どうしたんですか渚沙さん急に奢るだなんて。競馬で万馬券でも当てたんですか」
「ふっふっふ聞いて驚くなよ二人とも。なんと!ラジオの制作会社への就職が決定しました!」
「「ええっ!!!」」
「だってこの前就職しようとした会社が潰れたとか言って泣きながらわたしとすずさんに一晩中クダを巻いてたじゃないですかどうしたんですか!?」
「それがさー。何か急に手紙が届いてこれこれこういう理由でラジオ制作の人員を募集しています。お噂を聞いて声をかけさせてもらいました。如何でしょうか的な事が書いてあるから慌ててスーツ着て本社のある東京まで行ってきたのよ」
「…という事は渚沙さん東京に行っちゃうんですか?」
「当面の間はテレワーク主体になるからこっちにいると思うけど東京に旅立つ日も近いかもしれないわね…だからこそきちんとみんなで喜びを分かち合いたいのよ。すみませーん店員さん生中もうひとつくださーい!」

6/16

白山市 商店街
「ミル…さん?」
学校の帰りにお母さんからおつかいを頼まれたので商店街に寄ったら急に背後から声をかけられた。ミルミルのファンなのかなと一瞬思ったけどそれにしては呼び方が不思議だ。そう思いながら振り返ると私と同じ制服を着た少女が犬を連れて立っていた。ラジオのブースでも見た記憶がないけれども…誰だろう
「姉がいつもご迷惑をおかけしています。吉田文音の妹です」
「ええっ吉田さんの妹!?実在したんですか!こちらこそいつもお世話になってます…」
「実在って…こっちに帰ってきてから下の姉は働こうとしない以外は本当に生き生きとしていて暇さえあればミルさんの話をするんですよ。後輩だったんですね。今度購買の裏技とか教えてあげます」
他にもローカルなあるあるトークを繰り広げていると後ろからバカでかい声が響いてきた
「おーいミルミル!それとアネキの妹さん!ちーっす!学校の帰りっすか!送っていきますよ!」
「姉の舎弟の人…それじゃあ犬の散歩にならないでしょ」
「そっすかー。ミルミルはどうします?」
「私は…お願いします。吉田さん…の妹さん、今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いしますね」
「はい、それではまた学校で」

6/22

玉笹家 双子部屋
コンコン。というノックの音がした。お父さんお母さんは今日は帰ってこない日の筈だから消去法で花菜だ。こんな夜更けにどうしたんだろうか。何か相談事だろうか。そんな事を考えながら向かいのベッドで爆睡しているバカ姉の前を通り過ぎ入口に向かう
ドアを開くとともに響く破裂音。顔に降り注ぐ紙吹雪。
「みーちゃん、のーちゃんハッピーバースデー!」
今が何時かを思い出して納得した。何とできた妹なのだろう。思わず抱きしめたくなるがドスン、とかドガッとでも形容するべき音を立ててバカがベッドから転がり落ちていた
「うわっ何何雷でも落ちたの!?っていうか彩乃何その顔!鏡見てみなよ!」
「アンタはさあ…今日が何の日かを思い出しなさいよ」
「って言われても今日は…そっか!」
「「カナーっ!ありがとうーっ!愛してるよー!」」
「くるしい…今年はわたしからふたりにプレゼントを用意しました!じゃん!」
「これは…グラスだね。但書がついてる。えーっと…お酒用のグラスだ。彩美と色違いのお揃いのやつ!」
「うん。いつかわたしが大人になった時に人でお揃いのグラスでお酒が飲めたらいいなって思った。ダメ…かな?」
「全然そんな事ないよ!かわいい妹の頼みだものお姉ちゃんなんでも言う事聞いちゃう!彩乃もそうでしょ!」
「うん。花菜のグラスは私達が用意するから楽しみにしててね!それはそうと折角貰ったんだからこのグラス使おうか彩美。今夜ばかりは夜食も許す。ちょっと軽いもの作ってくる」
「神様仏様彩乃様ーっ!じゃあバイト代でこっそり買って隠していたこの地元の蔵元さんの最高級のお酒を開けちゃおう!あっ花菜はまだ飲んじゃダメだからジュースね」
そうやって豪遊するから貯金ができないんだよこのバカ美…と思ったのは心の内に留めておく。今日くらいは喧嘩しないで仲良し三姉妹をエンジョイしたいのは私も同じだから。さーて何を作ろうか。二人の喜ぶ顔を思い浮かべながら私は冷蔵庫のドアを開けた

7/1

二兎家 春花の部屋
「智加ちゃん、手筈通りに行きましょう」
「りょーかい。じゃあ真維さんは飾りの方をよろしく」
私たちオカジョ放送部の面々は二兎春花誕生日前夜祭と称してお泊まり会を行なっていた。お互いがそれぞれの道を進んでいるのでガールズトークは止まる事がなかったが健康優良少女の春花は日付が変わる少し前にバタンと眠りについてしまった。とは言えラベンダーのお香を焚いたりお菓子の供にホットミルクを飲ませたりと合法的に睡眠を促進したのである意味作戦通りだ
私たちは事前にご両親に話を通して盛大なお誕生日パーティを行う事を計画していた。誕生日の朝目を覚ましたらそこは既にパーティ会場になっている!そんなサプライズをする為に予め用意しておいた飾りや当日来れない人から預かってきたメッセージを飾り付けていく
「いつか私たちの好きな事をできるお店を開きたい」
そう願った少女の道のりは時代の荒波に流されていきなりずっこけそうになっている。それぞれの道を進むことになった私たちが彼女にしてあげられる事は何だろう。沢山相談し過ぎて春花から「最近ふたりが構ってくれない!」と拗ねられてしまった。念の為春花のご両親にも相談した。そうやってみんなの願いを込めたプレゼントをトランクから取り出し枕元へ置く
どうかこれが彼女の未来を切り拓く手助けとなりますように。大きな口を開けて眠る春花の寝顔を見ながら時計の針が天辺にたどり着いた

7/26

美容室ウォルナット前
バイクのエンジン音が止むと共にヘルメットを脱ぎながら見えた顔はいつも通りの吉田さんだった
「よーっすミル、お誕生日おめでとう!」
「夜中にいきなり家の前に来いとかいったい何の用なんですか。まあ察しは付いてましたけど」
「そんなつれない事言うなってー。そんなだとヨシヨシちゃん泣いちゃいますわー!?」
「うわっマジでその流れはやめてください誕生日になってまでミルミルの事は思い出したくないので」
「じゃあ素直に受け取ってよ。ほい」
吉田さんから投げ渡されたのは何かの鍵、ひゃくまんさんのキーホルダーとなんかよくわからないマスコットがついている
「何ですかこれ」
「ひゃくまんさんと、徳光ピーコちゃん。手先の器用な妹に手伝ってもらったアタシのお手製」
「いやそっちの方ではなく何の鍵なんですかって話ですよ」
「バイク」
「へ?」
「だからバイク。アタシが昔先輩から譲ってもらったお古だけどきちんとレストアして新車当然にしているからちゃんと乗れるよ。だからこれもほい」
そう言って渡されたのは封筒。開けてみると近隣の自動車学校の申込書が入っている
「免許取るまではアタシの家で預かっておくから取れたら一緒にツーリングに行こうよ。バイクに乗って見える景色がアタシからミルへの誕生日プレゼントだから」
「…ありがとう…ございます。一年前の話、覚えていてくれたんですね」
「おっ珍しく殊勝なミル。かわいいなー!」
「そうやって茶化すからいつも怒ってるんですよ!全くこれだから吉田さんは…気晴らしにコンビニまでアイス買いに行きましょう。わたしはハーゲンなダッツを食べたい気分なので」
「えーアタシはガリガリ君な気分。ほら乗りなよ。もうあと何回乗れるかわかんない特等席なんだからさ」

8/26

手取川海瑠の自室 通話中
「もうさー、どこにも行けないとなると暇で暇で嫌んなっちゃうよねー!」
「いや私は夏休みめっちゃ短いので学校行ったり忙しいんですけど吉田さんが定職にもつかずにフラフラしてるのが悪いのでは?」
「いつまで経っても切れ味の変わらないミル、好きだぜ。それはそうとミルと海行きたかったー!ナンパとかされて困ってるミルをカッコ良く助けたかったー!」
「はあ!?暑さで脳がやられたんですか。まあ行きたかったのは私もですけど…」
「代わりに今度スイカ割りやろーよ。実家から貰ったやつあるし」
「実家で思い出しました。学校で妹さんから伝言貰いました『なんか実家に色々荷物が届いてて邪魔だから引き取りに来てください』だそうですよ」
「あっやっべ。その辺片付けたらにしよっか。じゃあねミル、おやすマンデー」
「いやマンデーじゃないし!って切れちゃった」
さてと、来週までにやっとかないといけない宿題でも終わらせておかないとな。やりたい事をやる為にも

8/31

吉田文音の実家 居間
「ただいまー。って帰ってきてたんですか姉さん」
家に帰ると一人暮らしするために実家を出ていった姉が寝っ転がっていた
「この前ミルから伝言もらったし?久しぶりにパパ達の顔も見たくなったから帰ってきたよん」
「荷物は姉さんの部屋にあるんで持ってってください。あと誕生日のお祝いは先日郵送で送ったんで今渡すものはないです。おめでとうございますの言葉だけです」
「あーそれなら午前中に届いてた。ありがとね」
転げ回っている姉のそばにラッピングされた袋がある事にふと気付いた
「いつになくご機嫌な顔ですけどなんかあったんですか?」
「まあねー。さっきミルから誕生日プレゼント貰っちゃった」
「自分の妹とさして変わらぬ歳の娘にガチ恋するのはどうなんでしょうかと常々言っていますがきちんと責任は取ってくださいね。わたしのかわいい後輩でもあるので。それはそうと何を貰ったんですか?」
「これから開けるところ。見る?」
「見ましょう」
姉が起き上がり包紙を丁寧に解く。こういうマメさと普段のアッパラパーな人格の乖離は本当にこの姉の特筆すべきところだと思っている
「出てきた出てきた。シャツがふたつだ。半袖と長袖。ミルから見たアタシっぽいセンスって感じなのかな?」
何か違和感を感じて逡巡する。思い出した。今から考えるとだいぶ季節外れの歌の歌詞にそんなのがあったな。随分とまた古風な事を、お母さんの入れ知恵だろうか。
「ミルさんの意図はわかりました。こう返してあげるといいと思いますよ…ごにょごにょ」
手取川海瑠の自室 メッセージの履歴
ミルへ
誕生日プレゼントありがとう。とても嬉しかった。大切に使います
何か妹から言われたんだけど「今度星を眺める時はミルのセーターを貸してね」だってさ
おやすマンデー!


「だっちゃかーん!」
全部バレてた。明日からどんな顔をして吉田さんに会えばいいのか。面白いアイデアだとお母さんの甘言に乗っかってしまった自分がうらめしい
けれども、喜んでもらえたならよかったかな
「海瑠ー!冷めちゃうから早くお風呂入ってー!」
「今いいところだったのにお母さんのだら!」

9/20

富士市 飲み屋
「という事で凪紗さん、お誕生日おめでとうございます。昼間ではありますが連休の日曜ですしグイッといっちゃってください。ささ」
「いやその…嬉しいんだけど2人は飲めないでしょ…?飲むなら結の好きなハンバーグ屋とかでもよかったんだけど」
「あっこれは商店街の皆さんからのプレゼントですよ凪紗さん。発泡酒とかじゃなくてちゃんとしたビール飲み放題!日本酒とかもいいよ!だそうです。そして私達からのプレゼントはこっちです!」
結から渡されたのはそう大きくない箱。包みを解いてみると出てきたのは紫色の万年筆。
「古来より紫色の雲は吉兆とされています。凪紗さんのこれからの未来に幸あれと私達からの願いを込めて選びました」
「限定品なので3人でお揃い!というのはちょっと厳しかったんですけどみんなで万年筆を贈りあって私達の心は離れていてもひとつ!ってできると良いですよねってすずさんと話したんです」
「すず…結…カンパーイ!」
泣きそうになってしまったので照れ隠しにビールを煽る。いつもラジオの時に飲んでたのんあるや発泡酒じゃないので一気に飲むと空きっ腹に回ってくる。でもそうしないと誤魔化し切れないくらいに嬉しかった
「ありがとう!お姉さんは嬉しい!今日は二人にもとことん付き合ってもらうから!覚悟しておいてよね!」
「「はいっ!!」」

10/10

カグラヤアジト
「とくちゃんお誕生日おめでとう!お昼前にアジトに来てね。遅刻厳禁!ってメッセージが届いたからきちんと来たけど何があるのかしら…誕生日祝いなのはバレバレだけどお姉さんとしてきちんと驚いてあげないと…」
ガチャリとドアの音がした
「ハッピーバースデーとくちゃーん」
かぐりんが入ってくる
「ハッピーバースデーとくちゃんさーん」
アカリちゃんが入ってくる
「「ハッピーバースデーディアとくちゃーん(とくちゃんさーん)」」
そして執事さん達がなんかものすごい大きなワゴンを押しながらやってくる
「「ハッピーバースデートゥユー!」」
かぐりんが幕をワゴンの引っ張る。ばさりと音を立てて現れたのは…牛の丸焼き!
「嘘やーーーっ!!!」
「本当だよ。いつもとくちゃんは美味しそうにご飯を食べてるのにダイエットは?とか煽ってばっかりだからね。今日くらいは心ゆくまで美味しいものを食べてもいいんじゃないかなってアカリと話をしたんだ」
「なんとびっくり、こちらの牛、松坂牛ですわ。ささ、遠慮せず好きなところから食べてくださいまし!」
「二人とも…ありがとう!お姉さん泣いちゃいそう…!それではいただきまーす!」


「って夢を見たんだけどそういうのは流石にないかしらかぐりん、アカリちゃん」
「ないよ。ボクからは父さんに頼んで見つけてもらった海外の占い道具で」
「わたくしからはとくちゃんさんの家の近くのスポーツジムの会員権をお渡ししますわ。美味しいものを食べるなら心ゆくまで運動してくださいまし。そしてこちらがケーキ」
「うう…でもこの少し感じる手作り感は…もしや!?」
「ご明察。アカリの監修でボクが作りました。お味は…どうかな?」
「最高!」

10/16

玉笹家 花菜の部屋
「はいもしもし玉笹です…カグラヤ…はい!その節は姉がお世話になりました。今日はどうしたんですか…?ああ…その件ですか…」

玉笹家 リビング
「あのさあ彩乃、来週の日曜って何か用事ある?」
「何よ藪から棒に。むしろアンタこそなんか用事あるの。あたしお客さんが来る予定なんだけど」
「ミルミル?」
「そうだけど…ってまさかアンタも」
「双子の被りがここで出ちゃうかー!かーっ!」
「アンタがカフェばんに行きなさいよバカ美。あっちの方が広いでしょ!?」
「いやそれがね、春花ちゃんがすずちゃんとカフェばんで打ち合わせする約束を早々に決めちゃったらしくてあのテンションの春花っちが横にいたら落ち着いて相談できん。ならウチくる!?って話になっちゃった」
ガチャリ
「あれ、どうしたの花菜。眠れなくなっちゃった?」
「みーちゃん、のーちゃん。来週の日曜にお客さんが来る話になったんですけれどもご都合とかはいかがでしょうか…」
「「花菜も!?!?」」

10/25

玉笹家 玄関
バイクをあらかじめ聞いていた庭先のスペースに停めてからインターホンを鳴らす
「て、手取川です」
「はーい。鍵開いてるんでそのまま入っちゃってください。徳光色の矢印が床にあると思うんで辿っていけばリビングに着くのでそこで作戦会議しましょう」
「え、徳光色…?」
彩乃さんが何を言ってるのかわからないがとりあえず中に入る。来客用のスリッパの前のスペースにカラフルな矢印が描かれている。赤と紫と緑。なるほど徳光色ってこういう事か。矢印通りに進むとドアがあったので開けると
「お久しぶり、白山市のサ店以来だね」
「あーそんな事ありましたね…あれからわたしも東京に行って大変さを実感したりしました。あっこれ母から渡すようにってお土産です」
「ありがとう。あたしからもお土産用意してるので帰りに渡すね。花菜はともかくバカ美まで今日うちで作戦会議したいって話になったからそれぞれバラバラに話できる場所を用意するのが大変で大変で」
「彩美さんの部屋ってないんですか?」
「あたしとバカ美は大きな部屋を二人で分けてるんだけどあいつの混沌としたスペースに来客が入ったら大惨事になるし片付け終わらなかったからあたしのスペースで話をする事になったのよ。」
「あー、吉田さんの部屋もたまに片付けに入らないと悲惨な事になってたりするのでなんとなくわかります…」
「なるほどねえ…ってグダグダ話してると始まらないし始めましょうか。まずはプリンセスミルミルをどうするかから」
「その話は無しで!」

10/30

富士川市 凪紗の部屋
「という訳で商店街のハロウィンイベントのお手伝いで私達チーム富士川が仮装をすることになりました。何を着るかは厳正なくじ引きの結果こうなっています」
「えっ、ちょっとなんでわたしだけメイドさんなんですか!?ただのコスプレじゃないですか!!」
「文句あるならあたしのと変わるかー。貞子だけど。結がどうしてもっていうなら今からウイッグ買いに走るけど」
「メイドさんでいいです…それはそうとすずさんは何の仮装なんですか?」
「キョンシーです。お札の部分にポエムが綴られていまして噛み付いた人間もまたわたしのポエムの素晴らしさに感動してキョンシーになってしまうのです」
「微妙に原典に沿った設定ですね…」
「何か不満でも?結さんもわたしのポエムの素晴らしさを味わいたいですか」
「ほらほらあんまり暴れないの。明日の成功を祈って今日はパーっとやりましょう。今日は何の日だか忘れてない?」
「あっ、そうか。じゃあわたしとすずさんはラムネで」
「「「週末はあなたとカンパーイ!」」」

11/25

玉笹家 花菜の日記帳
今日はいい双子の日です。みーちゃんとのーちゃんを観察して双子のシンクロニシティについての再研究をしようと思います
朝 のーちゃんは夜明けとともに目を覚まして朝ごはんやお弁当を作ったりしています。みーちゃんは…夜明け前にゲーム配信をやったまま寝落ちしたみたいです。みーちゃんのヨダレまみれのPCには配信終了の画面が映っていました
昼 わたしは学校だったので後から聞いた話ですがのーちゃんはオンラインで大学の講義を。みーちゃんもお昼前には起きてメイド喫茶のバイトに向かったみたいです。「寝起きで親子丼かっ喰らえるあの頑強さが羨ましいよ」とのーちゃんは言っていました。たまたまのーちゃんのお昼も親子丼にする予定だったそうです。シンクロニシティポイント+1です
夕 わたしが学校から帰るとのーちゃんが何か荒れていました。何事かと聞いてみると「バカ美が脱いだ服を洗濯機に突っ込まないから引っ張り出したら積みゲーや買ったけど放置しているおもちゃの山が崩れて直すのが大変だった」そうです。どうどうと宥めていると「たっだいまー!令和初のスーパーセクシーウルトラキュートメイドの彩美ちゃんは今日も滅茶苦茶大変で疲れたから労ってほしい!あれ、彩乃どうしたの?」と火に油を注ぐ感じでみーちゃんが帰ってきたのでのーちゃんがさらに荒れました
夜 晩御飯の後にみんなでババ抜きをしました。わたしが早々にあがってみーちゃんとのーちゃんがラスト1枚の駆け引きになったタイミングからゲームが千日手のような様相を見せ始めました。みーちゃんものーちゃんも互いにババを引くのです。これはノットシンクロニシティなのかな…と思いながら観察をしていると「よっしゃー!」と奇声を上げたみーちゃんがガッツポーズをしてのーちゃんが崩れ落ちました。みーちゃんに勝因を聞いてみると「あたしも彩乃も相手の行動の裏をかこうとして互いの読みにハマっていたみたいな動きになってたんだけど面倒だから何も考えずに直感で引いたら勝った」との事でした。意外とあったようです。シンクロニシティ

11/26

美容室ウォルナット 入口前
「おーっすミル!お風呂行こうぜ!…って何でいるの?」
「それはこっちの台詞です姉さん。いたいけな女子高生をどこに連れて行こうとしてるんですか」
「そりゃあ白山お風呂ランドに決まってるでしょ。今日はいい風呂の日だよ」
「はあ…そこで開き直れるのは見事ですよ。どうぞごゆっくりイチャついてきてください」
「なら一緒に来る?この前単発でやった仕事のお礼に貰った優待券余ってるし」
「あのー…吉田さん(姉)も吉田さん(妹)もわたしを蚊帳の外にして話を進めないで欲しいんですが」
「ん?何か用事あった?ついでに今度やる収録のネタ出しとかしようかなって思ってたんだけど」
「本ッ当に自分の都合をメインに世界を回そうとしてますね吉田さんは!…行きますけど」
「姉の悪行を未然に防ぐ義務が妹にはあるので私も行きます。しまった…私だけチャリですね」
「あたしの後ろに乗ればいいよ。ミルに2人乗りはまだ早いしメットも余ってるから」
「おかーさーん!吉田さんと銭湯行ってくるから晩御飯遅くなるー!」
「あんまり遅くならないようにねー!」

12/11

カフェテリアばんざい カウンター
「おはよう…って何があった!?」
寝ぼけ眼を擦りながら朝ごはんでも食べようかと思って降りてきた私を迎えたのはよく見知った、しかし異様なふたりだった
「「お帰りなさいませお嬢様」」
春花っちと真維さんが恭しくお辞儀をする。うちでバイトしている春花っちはともかく真維さんがこんな執事めいた格好をしている道理はない。頭の中に疑問符が沢山浮かび混乱している様子を見たふたりがクスクスと笑いだす
「もー気付いてないのちーちゃん。今日はちーちゃんのお誕生日だよ!」
すっかり頭から吹っ飛んでいた。そうかこれはふたりからの誕生日プレゼントという事か
「そっか。ありがとね、春花っち、真維さん」
「今日はおもてなしフルコースが待っているので楽しみにしててね智加ちゃん」
銀盆を持った春花っちがいつも見慣れたカフェばんのカップを差し出す
「それではお嬢様、モーニングコーヒーでございます」



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