見出し画像

ホスピタリティケア③4つのステップ

 The Harmony Inc.の認知症ケア『ホスピタリティケア』のご紹介、第三章です。
 前回の記事「ホスピタリティケア②ホスピタリティとは」では、The Harmony Inc.の認知症ケアに導入したホスピタリティの精神、それは「ゲスト様に気を使わせないこと」そのために「サービス提供者側が気を遣うこと」と、「ゲスト様を特別扱いせず、ゲスト様に特別扱いしてもらったと感じてもらうこと」であるとご紹介しました。
 
 今回の記事では、その精神を実現するために行う4つのステップをご紹介します。


1.まずはしっかり「見る」

 当社代表の髙橋が大手飲食企業でサービスリーダーとして勤めていたとき、自身のチームに繰り返し言っていたことがあります。それは「ゲスト様に『すいません』と呼ばれたらダメ」ということです。
 ゲスト様は常に様々なサインを発しています。例えば読んでいたメニューを閉じたら注文が決まったサイン、グラスの飲む傾きが大きくなったら水がなくなったサインなどです。それらを見逃さず、ニーズの発生をキャッチし、先回りしてサービスを行うことがゲスト様の満足感に繋がるのです。

・認知症ケアへの応用
 
認知症ケアの現場でも「見る」ことから始まります。転倒リスクがあるゲスト様が立ち上がろうとしていることや、不安そうにキョロキョロされているゲスト様の姿などをいち早くキャッチして応対することで、転倒や不安が増大することを予防できます。

 まずはしっかり「見る」ことです。そして発せられているサインをキャッチする力を磨いていくことが重要です。それは例えばケア記録を書くなどの直接的なケア以外の仕事をしているときもゲスト様から背を向けない等の小さいことから努力することが出来ます。

 またゲスト様の中にはサインを出すのが苦手な方もいます。そういった方々に対してはこちらから積極的に声をかけ、声なき声を拾っていくことも大切です。

 ☐ 場をしっかり見ているか?
 ☐ ゲスト様に積極的に声をかけているか?

2.先回りする。

 上で述べた「見る」ことでゲスト様の何らかのサインをキャッチしたのであれば、すぐ動くことです。「すいません」と呼ばれる前にサービスに入るのが重要です。
 ここで重要なことはゲスト様のニーズを決めつけて動かないことです。
 「今の時間ならトイレだな」とか「また『帰りたい』って言ってくるな」とかです。

 まず一言めは「どうかされましたか?」でいいのです。そのうえで中々ご自身の言葉でニーズを表すことが苦手なゲスト様に対しては「おトイレ行きましょうか?」や「お散歩行きましょうか?」と言葉を繋げればいいのです。
 また一番ダメなのは見ていても動かないこと、ゲスト様から言ってくるのを待つことです。それはゲスト様に気を使わせていることになります。サービス業はゲスト様に気を使わせてはダメで、サービスを提供する側がフルに「気遣い」を発揮する仕事です。

 ☐ 気が付いたらすぐ動く。先回りする。
 ☐ 決めつけて動かない。一言めは「どうかされましたか?」

3.説明する。

 例えば飲食店でオーダーした料理がなかなか来ないとき、お客様はイライラされることが多いと思います。ときには激高される方もいらっしゃるかもしれません。しかしそれは料理が来ないことではなく、「何故料理が来ないのかわからない」「説明がない」ことにイライラされているのです。
 もし完全にこちらのミスだったとしてもきちんと状況を説明して謝罪すれば、そこまで怒る人はいません。もちろん中には怒ったままの人もいるでしょうが、少なくとも何も説明なしの状況よりも格段に少なくなります。

・認知症ケアへの応用
 
認知症ケアの現場でも「説明する」ことは重要です。
 認知症はその症状により怒りっぽくなることがあったり、ケアを拒否される方もいらっしゃいます。しかしその場合もただ症状で怒っていたり、ケアを拒否しているのではなく、現状がわからないことに対しての混乱や苛立ちであったり、わけがわからない状態で他人が介入してくることへの恐怖の反応であったりします。

 しっかりとゲスト様が何故イライラされているのかを把握し、現状の説明や今後の見通しをお伝えすることや、これから行うケアについて前もってアナウンスすることで、ゲスト様も今どうなっているのかと今から何が行われるかが理解できるので、怒りは収まるし、ケアに対する拒否は軽減させることが出来ます。

 「認知症だから何もわからない」ということではないのです。そもそも「認知症だから何もわからない」と考えることはゲスト様をゲスト様として扱っていない姿勢の表れです。ゲスト様をゲスト様として扱っていれば、説明を行うことは当然のことだとわかります。

 ☐ 今の状況、その理由、今後の見通しについてきちんと説明する。
 ☐ 「認知症だから何もわからない・どうせ忘れる」とは絶対考えない。

4.代わりを提案する。

 もし、例えばあなたが飲食店で働いているとして、お客様からメニューにないオーダーを受けたらどう答えますか?「申し訳ございません。当店ではそのメニューは取り扱っておりません。」と言って断るでしょうか。

 ホスピタリティの本質は「NOがないこと」です。何故ならゲスト様のニーズに「NO」と答えてしまったらゲスト様は満足されることなく終わってしまうからです。
 ただし「NOがない」ことは「何でもかんでも受け入れる」ということではありません。上の例で言えば、材料がないからといって今から市場に仕入れに行ってでも絶対オーダー通りのものを作る、ということではありません。
 オーダー通りのことは出来ないが代わりのことでゲスト様を満足させられないか?と諦めずに追求すること。それが「NOがない」ということです。上の例でいれば、テイストが似た別のメニューを提案する等です。

 ただ単に断っていたらそこで満たされることなく終わっていたゲスト様のニーズが、別の提案を行うことで満足できるチャンスを得られます。ゲスト様も「ただ断られた」という体験から「何とかニーズに応えようとしてくれている」という体験に変わり、その体験が満足感を呼びます。

 しかしこれはただ別の提案を行えばいいというものではなく、しっかりとゲスト様のニーズの本質を捉えていないと全く検討違いの提案を行うことになってしまい、逆に不満足に繋がってしまいます。「このメニューを望まれているということは、今こういった味付けのメニューを食べたいと思われているのではないか。」ということがきちんとわかっていて初めて「似たような味付けであればあのメニューができる」と代わりに提案できるアイデアが出てくるのです。

・認知症ケアへの応用
 
この「NOがない」ことは実は認知症ケアの本質をついたものです。

 例えば認知症のゲスト様の中には頻回の帰宅要求をされる方がいらっしゃいます。それを「帰ることは出来ません」とただ断るだけではゲスト様の混乱を招いたり、怒らせてしまったりします。そうではなく、「何故帰りたいと訴えられているのか」というニーズの本質を考えることで、満足してもらえる別の提案ができるようになります。

 例えば「帰りたい」の訴えの裏には、「この場所に居心地の悪さを感じている」という気持ちが隠れているかもしれませんし、何らかの理由で家族のことを心配していて帰りたいと思っているのかもしれません。そのような背景にまで考えが及ばせることがニーズの本質の把握に繋がります。そうすることによって、直接的には応えることが難しいゲスト様の要求に対して、別の有効な提案をすることができ、その提案はゲスト様の心にまで届きます。反対にニーズの把握が出来ていない小手先だけの提案はますますゲスト様を混乱させたり怒らせたりしてしまいます。

 しっかりと情報収集することや想像力を働かせてニーズの本質を捉えることが肝心です。そして、何よりも大事なのはゲスト様に喜んでほしい・満足してほしいと思う心です。その心があればゲスト様の要求に対して「NO」ではなくて「どうしたら喜んでもらえるか・満足してもらえるか」といった思考と行動が始まります。それがホスピタリティです。

 ☐ ゲスト様のニーズにはNOで答えない。代わりの提案を行う。
 ☐ ゲスト様についての情報収集がしっかり出来ているか?
 ☐ ゲスト様のニーズの本質を捉えることが出来ているか?


 以上がホスピタリティの視点と技術をベースにした4つのステップです。
 The Harmony Inc.ではこの4つのステップを繰り返すことでゲスト様の満足を日々追求しています。
 しかし、『ホスピタリティケア』はこれだけではありません。
 これだけで終わってしまったらただの口先・小手先のケアになってしまいます。ケアを行うにあたってはしっかりとブレない軸が必要です。
 次回はその「ケアの軸」についてご説明したいと思います。


※参考文献のご紹介
 新川義弘『愛される接客 サービスの質を向上させる52のセオリー』日経BP社
 髙橋がホスピタリティを学んだ大手飲食企業出身の方が書かれた書籍です。ここに書かれていることが『ホスピタリティケア』の参考になっています。

<著書『フォロバ100%』Amazonにて販売中✨>


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?