空が見たくて

今ずっとある小説を書いているんだけど、それは、俺が22の時にヘマしてブタ箱に入ってた時の話なんです。

当時を思い出しながら書いてるんだけど、結局俺は25日間檻の中にいたの。持ち前の太々しさで序盤は生意気言って警察官に喧嘩売ったり暴れたりしたんだけど、15日経ったころから急に参っちゃったんだよね。

悪いことしたって自覚も全くないし、未だに罪の意識なんて一つもないのよ。実際に俺はある一言だけ言えばなんの罪にも問われなかったんだよね。でも、それを言わないと自分で決めて、前科だろうが、裁判だろうが、何でもやってやるって気概が最初はあったの。

だから若いなりに殺気だって周りを威嚇して、人殺しから窃盗犯から詐欺犯からヤクザまで、クソ味噌一緒の留置場で粘ってたの。

くさ飯食って、一日中ヒマなブタ箱の中で時間潰して、お巡りと検察官に取調べされて、外とも全く連絡取れずに、同房の頭のおかしい犯罪者とだけ会話して、ただそんな暮らしをしてたの。

テレビもケータイもないから情報はないし、タバコも朝に2本吸えるだけだし、酒も飲めない、好きなものも食えない、人とも会えない、セックスもできない、そんな生活の中である時ショッキングなことが起きたの、朝顔洗う時に鏡に写った自分の顔にギョッとしたのよ。すごいやつれてて。

でも弱味なんか見せたら周りに舐められるだけだし、同情なんて誰もしてくれないのよ。あと唯一会える弁護士の先生も最初は俺を出すために頑張ってくれてたけど、俺がある証言を拒んだせいで、俺の有罪が確定しちゃって、それ以来面会にも来なくなってたの。

接見禁止がついてた俺には他に面会もなくて、周りは札付きの犯罪者だらけで、警察は敵だし、なんか一人なんだなって思ったのよ。

そんな時に最後の取り調べがあって、おっさん刑事に言われたのよ。今から証言変えると確かに心象は悪いけど、まだ間に合うぞって、お前はまだ若い、肝も座ってる、執行猶予が付くからって甘く考えても、前科が付くってのは大変なことだぞ。よく考えろよって。

その時になんだか俺は正直落ちそうになっちゃったんだよね。なんか揺らいだのよ。自分が決めたことは何だってやれるって自信があったのに、なんか急に不安に襲われて、悲しくなっちゃって、その場で泣き出してしまいそうになったの。

俺は悪いことなんてしてない。真面目に生きてきたし、若いなりに考えて生きてきた。他人を貶めたり、迷惑かけたこともない。むしろ褒められることばかりしたきた。だから、やっぱり喋ります。って言いそうになっちゃったの。

しばらく沈黙が続いて、俺はやばいこのままじゃ泣いてしまうって思ったの、でもここで泣いてしまったら残りの人生ずっと他人に許しをこう人生だなって思って、踏みとどまったの。

それで、俺は今までの証言は一ミリも変えない。今さら喋ることは何もない。って言ったの。

そしたら、その刑事はため息ついて、わかったよ。好きにしろって言って最後の取り調べは終わったの。

それからまた檻に戻って、あぁこれですべて終わったなって思ったの。あとは起訴されて、弁護士に保釈金だけ用意させて、ここから出て、1ヶ月後に形だけの裁判やって、執行猶予くらって終わりだなって。檻の中の生活もあと一週間の辛抱だなって。

そこからの一週間がとにかく長かった。狭い檻の中にいると頭が狂いそうになるの、ストレスで動悸もするし、外の世界と遮断されてるから不安は募るばかりだし、でもそれらを外に出すのはプライドが許さないし、だから余裕ぶって過ごすフリはしてるの。

朝起きて、くさ飯食って、時間潰して、昼にくさ飯食って、時間潰して、夜にくさ飯食って寝るの。そんな生活の中で23歳の誕生日まで迎えちゃってさ。毎年、誰かしらに祝ってもらってたのに、その年は檻の中で一人迎えたの。

そんな生活の中でいつも思ってたのが、あぁ空が見たいなってこと。小さい頃から田舎で育ったからよく空を眺めてたの。東京来てからも一人で散歩しながら空見るのが好きで、でも檻の中の生活だと空というか、外すら見れないの。

だからとにかく空が見たいなって思っていたの。毎日、毎日、ただ空が見たいなって。

檻から出たのは25日目の夕方だった。11月の空はもうとっくに暗かった。

あんだけ出れなかった檻から出されると、お巡りはすごいアッサリしてるの、手続きはすべて終わってるからじゃあ帰れって感じでポンっと警察署から出されるの。

ケータイはなぜか証拠品で押収されてるし(このケータイから証拠なんて一つも出なかったのに)、警察署の周りには駅もないから、俺は取り敢えず外を一人で歩いたんだよね。タクシーを探して。

歩いてたら自販機を見つけて、無性にコーラが飲みたくて買ったんだけど、炭酸と甘味が強すぎて全然飲めなかった。そこからタクシー乗って近所の吉野家で降りて食った牛丼は味が濃すぎた。

そのあと公衆電話から当時の彼女に電話したら、死んじゃったかと思ったと泣かれた。それからアパートの部屋に帰って、タバコ吸ったの、それでまだ20時前だけど眠ることにしたの。

なんだか何もしてないのに疲れ切った状態で、布団に入ったの、それであることを強く思ったの「檻の中でも外でも、人は永遠に一人なんだな」ってこと。そして、とにかく眠ろうってこと。生きていくって事は難儀な事ですね。

意味もなく書いた駄文。

おわり

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