ゲゲゲと遭遇⑧

午前中に何か文章を書くって習慣がまったくない僕だけど、今朝は面倒な仕事を一つ済ませて、洗濯をして、今は録画した乃木坂工事中を見ながらnoteを書いている。

毎回、スマホのアプリを開き、下書きなしに書き始める。昔からの持論なんだけど文章は一筆書きが一番煌めくと思う。生きてるだけで頭の中は思考でいっぱい。それを生活しながら文章に精製し続ける。そうすれば、生きることは書くことになっていく。その溜まりに溜まった想いを、一度に出しきることが出来た時に、きっと素晴らしい文章が生まれるんだと思う。

はい、じゃあ毎度お馴染みの謎の前戯はこの辺で、そろそろ本番を始めましょうね。僕が水木先生のお宅にサインを取りに行くところからです。


うだるような暑さを背に、額に汗を滲ませ僕はいつのまにか慣れ親しんだ水木先生の家に続く一本道を歩いていた。午後になって急に昨日の寝不足がこたえだした。なんだか景色が歪むようだ。疲れ、寝不足、暑さ、精神的な不安、喉の渇き、全部合わさって僕は珍しく疲弊していた。

三度目のピンポンを押す。

ピンポーン

はーい。と返事の後にまた布枝さんが出て来てくださった。そして、ドアが開くなり布枝さんは珍しく語気を強めて僕に話しかけた。

「ちょうどさっき水木が職場に出て行ったのよ!惜しいわね。本当にさっきよ。もう少し早かったら会えたのに!」

僕は思わずポカンとしてしまった。仕切りに布枝さんは僕が水木先生に会えないことを気遣ってくれていた。

ただ僕は正直なところ、水木先生に会いたいと思う反面、不甲斐ない自分が見透かされてしまいそうで会うのが怖かった。昨夜の彼女との喧嘩で表面化した自分の情けない状態、かたやラバウル戦記に書かれていた若い頃の水木先生の凄さ、比べたら一目瞭然だ。

そんな無能な僕がどのツラ下げて、水木先生の前で小説家を目指してるなんて言えるのか、、言える訳がない。穴があったら入りたい、どころではない、頑丈な梁と紐があったら首吊りたいって心境になってしまう。

そんな僕の心を知ってか知らずか、布枝さんは僕の渡した「妖怪辞典」と「続・妖怪辞典」を持って来てくれた。そして、水木先生が書いてくださったサインのページを見せてくれた。

僕はそれを見て言葉を失うほど感動してしまった。

そこには僕の大好きな一反木綿が描かれていた。そしてもう一冊には

これまた大好きな鬼太郎が、、

僕は小さい頃から大好きな漫画家さんのサインとイラストに高揚していた。あまりの嬉しさに布枝さんの前ということも忘れてイラストを見つめていた。

そんな僕を優しく見守りながら布枝さんは色々と話してくださった。

水木先生も鳥取から上京して、漫画家を目指して東京で色々と苦労した。だから長野から出て来て小説家を目指してる子が来たわよと伝えたら喜んでいたわ。と。そして、普段はイラストなんか描かないのに、あなたの話をしたら頑張って欲しいと言って描いたのよ。と言われた。

嬉しい言葉だった。でもその反面。辛かった。僕みたいな全てが中途半端な人間が、こんなご厚意に応えられるのか、、いや無理だ。

小さい頃から憧憬していた漫画家さんのサインを貰えた嬉しさと、小さな自分が努力も熱意も足りないくせに、おこがましくも夢を語ってしまった恥ずかしさと、二つの感情が入り混じって、僕はどんな表情をしていいのか、今自分がどんな表情になっているかもわからなかった。

布枝さんはまたお茶を出してくださった。そして、水木先生が散歩しながら職場に行く話なんかを僕にしてくれた。楽しい時間だった。

本当に布枝さんは屈託のない表情でお話をしてくださる人だった。僕の中に渦巻いていた卑屈な心も、布枝さんと話していると不思議と和らぐようだった。なんだか、同じ目線で語って、同じ目線で聞いてくださる方で、僕は話してるうちにどんどんと自分の感情が整理されていくようだった。

そんな素敵な時間を過ごした後、僕は上司からの電話に気づいた。そろそろ営業の迎えの車がやってくる時間だった。

そろそろ帰らなくてはいけない。僕は布枝さんにそのことを言った。すると布枝さんは、また水木がいる時にいらっしゃいねと言ってくださった。本当にどこまでも優しい人だ。僕から水木先生にお礼を言う機会を作ってくださったのだ。僕は嬉しかった。そして、またお礼に伺います。と告げて僕は水木先生のお宅を後にした。

これが、僕が最後に水木先生の家に行った日の思い出だ。

そして、僕は水木先生にサインのお礼ができないまま、水木先生は亡くなられてしまった。

いつか、いつか、水木先生の前でも恥ずかしくない自分になれたらお礼に行こうと、、そう思っているうちに、それは叶わない夢になってしまった。


はい。今日はここまで。

全く意味不明ですよね。これだけの事をしてもらっておいて、お礼に行かないなんて無礼なクソガキですよね。当時の僕は。

でも、それには色々と理由があるんです。まぁ、理由というより言い訳みたいなものなんですけどね。僕は若かった。いや、若かっただけじゃない。僕はダメなやつだ。でもその後悔を持ち続けているからこそ、僕は僕でいられるのかも知れない。

最後に、その後の僕の話と今の心境。そして、僕の一番好きな芸人さんである有吉さんのラジオ、有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMERで水木先生のネタが読まれた時の話を書いて、この「ゲゲゲと遭遇」は終わりにしたいと思います。ラストは近々更新します。

読んで下さってありがとうございました。

おわり

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