見出し画像

月下美人屋敷狂①

月下美人とは...花には強い香りがあり、花を見なくても、漂い始める香りで咲き始めたことがわかるほど。初夏から秋まで開花を続けるが、連続的に咲くのではなく、2~3回ほどにまとまって開花する。蕾は、大きく育った株の茎葉の各節につくが、株の栄養状態によっては、しだいに落花してしまう。
メキシコから中米にかけて分布し、樹木の上に着生して育ち、近縁種のクジャクサボテンが昼間開花するのに対し、月下美人は夕方から咲き始め、朝にはしぼんでしまう。
花言葉は...
「ただ一度だけ会いたくて」
「儚い美」
「儚い恋」
「艶やかな美人」

私、探偵の月ヶ瀬 侑が今回遭遇した事件に絡むこの月下美人という美しい花。まさにその花言葉の通り儚い思いにかられた女の情念...いや執念が生み出した恐ろしい事件であった。
発端は、半年前の1月初旬に遡る。正月明けの1月5日、私の勤める善道探偵事務所に子供の行方不明者を探して欲しいという依頼が駆け込んできたのである。それが1件だけであれば単純な失踪事件もとい家出ではないかと思われたが、私そして所長の伊藤、事務員の貴子はまさか同じ内容で3つの家族が同時に依頼へ来たことに目を丸くせざる得なかった。この探偵事務所始まって以来のことである。我々はそれぞれの家族から事情を聞き、3日以内に調査をやるやらないの返答をすると言って家族たちには帰ってもらうことにした。
調査依頼はこうである。
2023年12月、横浜市瀬谷区の中臣はるか(13)が帰宅途中に姿を消す。消す直前に母親に電話をかけようとしたらしく、母親の携帯が1コールだけしたのだという。
同年同月、大和市の白幡杏子(10)が児童公園で同級生らと遊んでいる最中、突然と姿を消す。いなくなる寸前、公園内の女性用トイレに入る姿を目撃されたのが最後であった。なお不審な長身の女性の目撃情報があったという。
同年12月中旬、先の2件の失踪事件から瀬谷区、大和市内では集団下校が実施された。その際に草間由美(12)が自宅マンションへ入ったきり行方不明になった。この件に関しては当初、両親に疑いの目がいったが当日、父親は仕事、母親も近所の主婦と話し込んでいたというアリバイが証明された。
以上3件が、この3月までの間に起きた事件である。当探偵事務所では、この失踪事件に関して調査を引き受ける事となった。
しかし今にして思えば、この事件が私いや善道探偵事務所にとって忘れることのできない事件になろうとは、このときはまだ知る由もなかったのである。

「月下美人屋敷狂い」
脚本家 故・上原正三氏に捧ぐ...

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?