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PEDROという浪漫チックな人間交差点

これまで3度にわたりこのnoteでBiSHについて語ってきた。
彼女たちの魅力に気付いたのは去年だが、今、急激なスピードで自分にとって一生を左右するぐらいのグループになりつつある。

一方で既に長く追いかけ続けている、いわば人生の伴侶ともいえるバンドがいくつかあって、その一つがBase Ball Bearだ。
かれこれ完全なる3ピースでの活動・ライブが確立されて久しくなるが、それまでは度々サポートギタリストの力を借りることもあった。
その中の一人が、最近では再結成されたNUMBER GIRLでも話題の田渕ひさ子さんである。

これまでにも田渕さんがベボベをサポートしてくれた際に何度か、そのギターの音を自分も肌で感じているのだが、その音色とアレンジの感動があまりに凄まじかったのを覚えている。
そして時が経ち、そしてついに去年、COUNTDOWN JAPANで初めてNUMBER GIRLのライブを観たときには、それはそれは心が震え上がったものだ。

そんな中、BiSHの一人であるアユニ・Dと田渕ひさ子が、ドラマーの毛利匠太とともに3ピースバンドとして活動しているのが、今回取り上げたいPEDRO。

まさかBiSHを追いかけていたら、アユニを通してこんなにカッコいいバンドに出会えるとは。
まさか再び田渕さんのギターに魅了されるとは。
まさかこんな形で好きなミュージシャンたちが交わるとは、思ってもみなかった。
意外なところでまた交差するもんだ。
本当に音楽好きでいるとこういうことがあるから、人生って浪漫的。

さて、PEDROが始まったきっかけは以下の動画を見ていただければわかるが、BiSHでは既にアイナ・ジ・エンドとセントチヒロ・チッチのソロシングルのリリースが決定している中において、次の可能性として持ちかけられたものだ。

しかも歌だけではなく、楽器も演奏するバンドを作るという。
アユニがベースを少しだけ触ったことがあるという話から、ベースボーカルを務めることになるのだが、この時点ではほぼ初心者に近い状態。

しかし何とデビュー日が既に決まっており、それまでにベースの習得が必要となり、同時に作詞、また歌も担当する。
BiSHの活動とももちろん並行しながらである。
常人には到底成し得ない活動だ。

しかし、以前のnoteでも取り上げた通り、この努力の人はやってのけた。
アイナ/チッチの両A面シングルと同時に、予定通りPEDROとして「zoozoosea」をゲリラリリース。
そしてその直後には、田渕さんをサポートギタリストに招き、同じステージでのライブを実現させたのである…。

ここではNUMBER GIRLの代表曲『透明少女』もカバーし、歌いこなしている。
多少、演奏の荒さやボーカルのブレはあるが、立派なバンドのボーカリストである。

こうして2年前、PEDROはスタートしたのだが、アルバムのリリースやロックフェスへの出演、そしてツアーを経ていくうちに、いつしかアユニのソロプロジェクトからバンドへと様相を変えていく。

ここにはやはり、直後にNUMBER GIRLのギタリストとしても復活した田渕さんの存在が大きい。
一度のサポートに留まらず、作品やツアーの度にPEDROのギターを務めてくれる。
そんな彼女にアユニもどんどん影響され、刺激を受け、やがてアユニにとって田渕さんは本当に特別な存在になっていく。

田渕さんのすごいところは、ナンバガでギターを務めるもはやレジェンド的なミュージシャンでありながら、他にもtoddleやLAMAといったバンドも掛け持ちしているにも関わらず、どこまでも謙虚にオファーを受けてくれるところだと感じる。

ナンバガ再結成前ではあるが、Base Ball Bearでも、当初ギタリストが1人抜け危機に瀕していた中で手を貸してくれ、ベボベのイベント「日比谷ノンフィクションⅤ」を皮切りに、出演する夏フェスでもほぼ毎回サポートギターを務めてくれた。

しかも、田渕さんなりの色を加えたギターアレンジで…。
どんな曲を演奏するときにも徹底的に研究し、一切手を抜くことが無い。
やっぱり本当に凄い人は陰での努力を怠らないのだなぁと思い知らされる。

「増補改定完全版 バンドBのベスト」でも、『祭りのあと』のリテイクver.に参加してくれ、存在感を示しながらも原曲をよりアップデートする、めちゃめちゃカッコいいギターを弾いてくれた。

話が逸れてしまったが、そんな田渕さんの存在が、アユニたちを刺激し高め合い、PEDROをどんどんバンドにしていくのだ。

そしてこれもまた驚くべきことであるが、そんなバンドでドラムを務めるのは、なんと男子大学生だ。
音楽プロデューサーの松隈ケンタ氏率いるスクランブルズの音楽スクールでドラムの腕を磨いている毛利匠大。

ベース初心者から始まったアユニとともに、ドラマーもフレッシュな若手を…ということで抜擢された彼だが、レジェンドの田渕さんに引けを取らないほど時にパワフルに、アユニの成長スピードに比例するように時に軽快に、ドラムを叩きPEDROを底から支えてくれている。

この、BiSHの1メンバー、レジェンド、男子大学生という異色の3人が化学反応を起こし、奇跡のバランスで成り立っているのがPEDROというバンドだ。
『NIGHT NIGHT』のMVを観ても、PEDROが単なるアユニのソロプロジェクトでは無い、3ピースロックバンドであるということが分かる。
自分も実際このMVを観て、PEDROにハマっていった。

アユニ自身も、"PEDROというバンドとして聴いて欲しい"とあるインタビューで語っており、始動してから2年、ほぼこの3人でレコーディングやライブを行っているが、見とれてしまうほど見事なバランスの3ピースバンドだ。
一瞬、アインシュタインの稲ちゃんが加入し、4ピースになるタイミングもあったが…。

PEDROを語る上で欠かせないのが、アユニ自らが作詞する歌詞だ。
BiSHでもメンバーたちの歌詞がよく採用されるが、PEDROではすべての曲の歌詞をアユニが作詞している。

自ら経験したことや感じたことはもちろん、最近では他の映画や音楽等からインスピレーションを受けながら物語を創造していたりもするようで、彼女にしか書けない世界観の歌詞がたくさん生まれている。

個人的には『おちこぼれブルース』と『感傷謳歌』の歌詞にめちゃめちゃグッときた。
胸が締め付けられるような切なさと、前に進んでいく強さを感じるポジティブさの両面で感動的な歌詞を書いてくるので、良い歳した大人でもやられてしまう…。

そして、今年リリースされたアルバム「浪漫」でアユニはついに、作曲も2曲手掛けることになる。
自粛期間にベースのみならず、ギターも購入して弾いている動画をTwitterで見かけたが、それが結実した形だろうか。
その1曲がまた初めて作曲したとは思えないクオリティで、普通にアルバムを代表する表題曲になったのだから凄い。

この『浪漫』のスタジオライブ映像は、アユニの作詞作曲センスだけでなく、バンドとしてのPEDROの3人のアンサンブルが一番わかりやすく、カッコよさが伝わると思うので、是非とも観ていただきたい。

そして先日、満を持して初めてPEDROのワンマン、「LIFE IS HARD TOUR」のファイナルに行ってきたが、やはりPEDROは正真正銘の3ピースロックバンドだった。

田渕さんのジャキジャキ刺さりまくるギターはやっぱり半端ないし、そこに食らい付く毛利君のドラムさばきも見事だし、そしてその強力すぎる2人に後押しされて駆け抜けるアユニのベースボーカル、本当に観ていて気持ちよかった。

このツアーは、自分にとっても久しぶりのリアルワンマンライブだったが、PEDROにとってもコロナで中止となってしまった「GO TO BED TOUR」を経ての久しぶりの有観客ツアーであり、アユニも「生きてて良かったと思わせてくれてありがとう」と漏らすほど、人と人とが向き合う空間の意義を噛み締めているようだった。

BiSHでもそうだが、やはりライブというのはミュージシャンと観客とが互いに向き合い、言葉や音以上に想いやエネルギーを交換する場だと思うし、それがあってこそ、ロックバンドは存在し続けられると思う。

実際に自分もこのライブで、アユニのベースが心臓の底まで響いてくるような感覚を味わい、生きてて良かった~!と思うことができたから。
本当に最高のライブだった。

さて、ここまでPEDROについて語ってきたが、もはやBiSHのアユニ・Dという看板をすり抜けて、バンドとしてオススメできるので、是非とも上記のリンクをはじめとした曲たちを聴いていただけたら幸いだ。

何より、自分にできることをどこまでも追求し、不可能をも可能にする人たちが集まったバンドなので、だからこそ今回の有観客ライブも成功させることができたのだろうし、観ていて本当に尊敬の念と生きる力がわいてくる。

普通に生きていたら交わらないであろう3人の、いわば人間交差点ともいうべきPEDRO。
自分も冒頭に語った通り、BiSHにハマリ、また田渕さんがBase Ball Bearを助けてくれたからこそ、このバンドに辿り着けたと思う。
こういう浪漫チックなことがあるから、音楽好きはやめられない!