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ロックバンドは脈々と続く ~赤い公園の解散に寄せて~

2021年5月28日、赤い公園が解散した。

昨年、Gt.津野米咲がこの世を去ってしまってからも、赤い公園の音楽はずっと残り続けるし、COUNTDOWN JAPAN 20/21が開催されていたら、そちらでまた新たなスタートを切るものと思っていたので、解散と聞いたときは正直ショックだった。

でも、先日のラストライブ、自分は配信からだったけれど、観終わった後は今でも不思議と幸せな余韻が続いている。
そんなライブを振り返ってみたいと思う。

だがその前に少し時間を遡って、5月4日のVIVA LA ROCKについても触れておきたい。
この日は米咲さんのもう一つのバンド活動だったともいえる、VIVA LA J-ROCK ANTHEMSの出演日で、そのアクトで最後の曲として披露されたのは、赤い公園の『Canvas』だった。

「今年は赤い公園の曲をやりたいね」というメンバー皆の意思、そしてそれならボーカルはあの人しかいない、と抜擢されたのは、かつてこのJ-ROCK ANTHEMSで、何を隠そう米咲さんの推薦で初出演を果たしたBiSHのアイナ・ジ・エンドである。

ANTHEMSの曲はメンバーたちの会議によって決まるのが通例らしいが、『Canvas』はアイナ自身の選曲。
彼女もBiSH以降、『きえないで』で初めてソロとして羽ばたいていくことになるのだが、この曲のアレンジには米咲さんの「このコードはこうするといいよ」というアドバイスが盛り込まれており、またANTHEMSのバンマスでもある亀田誠治さんもこの曲のプロデュースをきっかけに、後に「THE END」という大作を手がけるに至る。

いわば米咲さんはアイナのソロ活動のきっかけともいえ、また亀田さんも彼女のおかげでアイナと出会えたと語っている。
きっとそんな彼女を想い、上を見上げながらアイナが熱唱した『Canvas』。
この曲は亀田さんにとってもプロデュースに携わった思い入れの深い曲で、メンバーのピエール中野氏、加藤隆志氏、伊澤一葉氏とともに、ANTHEMSでの思い出も噛み締めるように皆が演奏していたのが印象的だった。

このときモニターにも米咲さんの過去の演奏シーンが映っており、「一緒にいる感じ」と亀田さんも後のコメントで語っていたように、この『Canvas』ではANTHEMSのメンバーの横でギターを弾いてくれていたようで、エモーショナルな加藤さんのギターにも乗り移っていた気がした。

そんな光景を見て、ああ、あなたの音楽はちゃんとまだここに生きているんだなぁ…とグッときて、めちゃめちゃ泣けた。
何度もこのnoteでも取り上げている通り、BiSH好きでもある自分だけど、いち赤い公園ファンとしてアイナに、そしてANTHEMSの皆さんにありがとうと伝えたい。

このライブは自分も後にアーカイブで観たのだが、赤い公園のメンバーも配信を観ていたようで、当日まで知らされずサプライズ的にアイナ×ANTHEMSの映像を観た3人はかなり驚き、感動して喜んでいたようだった。
そう、ちょうどこの5月4日は、3年前に赤い公園がまさにVIVA LA ROCKで新ボーカルの石野理子をお披露目した記念日でもあった。
KOIKIなプレゼント。

さて、それから3週間あまりの時を経て、ついに5月28日、この日が来てしまった。
赤い公園 THE LAST LIVE「THE PARK」。
できることなら会場の中野サンプラザで目撃したかったが、ガイドライン下での開催ということもあり、そのキャパシティにこれまで12年間で付いてきたファンたちが収まるはずもなく…チケットは取れなかったので、配信で見届けることに。

仕事を18時過ぎに終え、急いで帰途を行くも開演には間に合わないので、もう電車の中からスマホで配信チャンネルにログインし、イヤホンで聴きながら帰ることに。
アーカイブがあるのも知っていたが、もう二度とないラストライブ、最後の瞬間だけはどうしても時間を共にしたかった。

そして開演時間、いきなり幕の向こうから理子さん(Vo.石野理子)の歌声が聞こえてきて『ランドリー』からライブはスタート。
幕が上がり彼女の姿が見えた瞬間、額を出した髪型に米咲さんが重なって、いきなりグッときてしまった。

そしてこの日、米咲さんの代わりにギターを務めるサポートメンバーの1人目は、我らがBase Ball Bear、小出祐介。
"我らが"という言い方をしてしまうのは自分が赤い公園ファンである以前に長年のベボベファンであるからだが、その贔屓目を抜きにしても、リスペクト溢れる完璧なギタープレイをこの後も見せてくれる。

後のMCで「ロックは継承されていくもの」という言葉が出てくるが、この日も米咲さんが愛用していたエレキギターを引き継いで演奏していた。
そんなギターで2曲目『消えない』の切り裂くようなギターリフが掻き鳴らされるもんだから、人通りのある帰り道で既に泣きそうだった。

ひかりさん(Ba.藤本ひかり)のクールなベースラインで曲が終わると同時に、うたこす(Dr.歌川菜穂)が軽快なドラミングを始めて『ジャンキー』へ。
赤い公園の音をこれまで途切れさせず、全キャリア通して支えてきたリズム隊2人の音は、昨年夏の配信ライブ以来の舞台でも、ブランクを感じさせず頼もしく響いてくれる。

そしてライブタイトルにも冠されている通り、『Mutant』『紺に花』と、最新アルバム「THE PARK」の曲たちが畳み掛けられる。
余談だが、某インタビューで星野源さんが『紺に花』を2020年のベストソングの一曲として挙げていた。
まさかこのアルバムがラストアルバムになってしまうとは思わなかったが、最後まで誰もが唸るような名曲たちを生み出し続けている。

このあたりから2人目のサポートミュージシャン、堀向彦輝 a.k.a. hicoも鍵盤で演奏に加わってくる。
hicoさんは、レコーディング等々でこれまでも赤い公園の音づくりに関わってくれていた方で、満を持してこの日は、彼女たちのラストライブに生演奏で花を添えてくれる。
前に傾いた鍵盤を駆使するプレースタイルは独特だが、優しく見守るように、かつ軽快に赤い公園を支えてくれていた。

そして先述のVIVA LA J-ROCK ANTHEMSでのカバーが記憶に新しい『Canvas』からは、3人目のサポートメンバーとして、tricotからギターのキダ・モティフォが参加。
赤い公園とほぼ同期であり戦友ともいえる彼女もまた心強く、この曲やその後も各曲で小出氏とツインギターを披露してくれた。

ここまで観てもこの後も、イントロや間奏、アウトロの各所で赤い公園のメンバーと同じか下手したらそれ以上に、小出氏やキダさんのギタープレイが目立っていたので、いかに赤い公園のライブでギターが大きな役割を果たしていたかを改めて思い知らされる。

米咲さんが作り奏でるメロディーラインは複雑かつ高度であることは、音楽知識の無い自分でも分かるぐらいなので、曲によってはサポートギター1人では対処し切れないのであろう。

そんなことを書いているそばから、ここでメンバー紹介とともに、小出氏の一時離脱が告げられる。
「この後仕事がある」「バイト行ってきます」というやり取りを、ようやく自宅につき荷物を下ろしたりガサゴソしながら聞いていた自分は、ベボベのツアーとも並行中で多忙を極める彼のことなので、本当にここで別仕事のために離脱してしまうのか…と思ったが、そんなことはなかった(笑)

ここからキダさんのギターが歪みまくり、ロックバンド・赤い公園の姿をあらわにしていく。
『絶対的な関係』から間髪入れずそのまま『絶対零度』へなだれ込むという、この"絶対"つなぎは、去年の夏の配信ライブでも披露されたが、今回も実に鮮やかだった。

続く『ショートホープ』『風が知ってる』『透明』『交信』ではまた雰囲気を変え、ムーディーであったりゆったりとした曲調の中にも激しいセッションが混ざり、静と動が複雑に絡み合う、このクセになるサウンドはやっぱり津野米咲にしか出せない味だなと。

思えば『風が知ってる』はビバラで理子さんお披露目時に一番最初に歌われた曲で、当時は自分も映像で観ていたけど、誰だこのボーカルは?という雰囲気の中、まだアイドルネッサンス時代の名残を感じさせるショートボブの、初々しかった彼女の姿が思い出される。
それが今や、バンドを、亡きメンバーの意思さえも背負って立つ、堂々たるフロントマンだ。

昨年のつらい別れを予感していたかのような歌詞とMVが印象的な最新曲『pray』は、満を持してライブ初披露となったが、ワンコーラス目が歌と鍵盤のみでしっとり始まり、2番からバンドが加わるという、よりダイナミックで感動的なアレンジに。
ここで小出氏もさりげなくバイト(?)を終えて戻ってきた。

そしてここから3人のみとなり、改めて理子さんの口から、赤い公園はやっぱり津野米咲あってのバンドであり、彼女亡き今、バンドを続けていくことはできないというメンバー皆の総意で解散を決めたことが告げられる。

分かってはいたものの、実際口にされるとこれが現実か…と悲しい気持ちも募るが、何よりこの日は3人とも、赤い公園の曲たちをもう一度届けるんだ!楽しい時間にするんだ!という強い気持ちが前面に出ていたので、この日しかないライブ、こちらもまずは楽しむのみだ。

そこからはもう、ソーシャルディスタンスを促す注意書きのイラストを描いた石野画伯いじりや、「さんこいち」という即席バンド名を御姉様方2人がボロクソ言う件、ギターを「トミ子」と擬人化してふざけていた米咲さんに、一番年上のくせに~と突っ込む思い出話、変わらず楽しい空気感が漂っていて、ずっとこの時間が続けばいいのにな…と、時折爆笑しながら何度も思った。

そしてそんな「さんこいち」による一曲目は『衛星』。
ここではなんと、学生時代では別バンドでギターボーカルを務めていたといううたこすがアコースティックギターを披露。
さらに続く『Highway Cabriolet』では鍵盤も務め、ドラムだけでは無い多才さに、最後の最後まで驚かされる。

打ち込みサウンドで作られた『Yo-Ho』では手拍子で客席も演奏に加わり、皆で楽しい空気感を作ろうという一体感は、配信で観ていた自分も思わず身体を揺らしてクラップしてしまう程。

サポートメンバー3人が再びステージに集結すると、ここからライブはハイライトへ。
せっかくのツインギターなので面白いことをと、怒涛のメドレーに突入。
『今更』『のぞき穴』『西東京』『ナンバーシックス』を次々とダイジェスト式に畳み掛け、『闇夜に提灯』ではイントロをキダ→小出→キダ→小出と交互にギターリフで掛け合う流れに痺れた。

何せ12年間で本当にたくさんの曲を量産してきた赤い公園。
米咲さんの生み出した曲たちは本当に振り幅も広いので、それらを2時間半程のセットリストに凝縮しようと思うと、メドレーになるのは無理もない。

そしてこのメドレーの勢いのまま『KOIKI』『NOW ON AIR』と、これまでキャリアを通して何度も演奏されてきたキラーチューンが続くと、いよいよ終わってしまうのか…という寂しさも芽生えてくるが、そんな気分さえも、そこどけ~!と振り払って駆けていくように、『yumeutsutsu』へとなだれ込んでいく。

そして個人的に大名曲だと思っている『夜の公園』は、小出氏の歪むギターで一層エモーショナルなミドルバラードとなり、クライマックス感が凄かった。
このライブ終盤の最後の最後まで、ロックバンドとしての生き様を燃やしまくる赤い公園の姿にはめちゃめちゃグッとくる。

ある時期から″理子ちゃん″から″理子さん″呼びに自分の中で変わるほど、彼女の3年間でのバンドマンとしての成長っぷりには目を見張るものがあったが、『yumeutsutsu』では髪を振り乱しながらヘドバンして頭を振りまくっていた。
ロックバンドのボーカリストがそこにはいた。

そしてMC、改めてメンバー3人それぞれの気持ちが語られる。

ひかりさんは「高校の視聴覚室から始まったバンドが、こんなに大きくなるなんて思わなかったです。たくさんの人に支えられてベースが弾けました!生きていればページをめくることができる。向こうの世界を下見してくれている米咲と楽しくまた音楽ができるように、こっちの世界でも楽しいことをたくさん見つけていきたいです。」と、未来への希望を語った。

うたこすは「ひかりさんが言ったように、赤い公園がこんなにたくさんの人たちに聴いてもらえるバンドになるとは思いませんでした。私自身も米咲の作る曲たちが大好きで、何度も救われてきて、それをドラムで自信もって届けられるようになりたいと思っていましたが、今日、ちゃんとそれができたと思います。本当に楽しかったです!」と、涙混じりに話した。

そして理子さんは「楽器隊の楽しく音楽をやるところに一目惚れして赤い公園に入ったけど、年下の私を大丈夫だよと受け入れてくれて、本当に感謝しています。でも同時に申し訳なさも感じていて、ボーカルが変わって戸惑う人も多かっただろうし、元からあるバンドだからこそ、私自身が成長した姿を見せなきゃと思ってやってきたけれど、東京ドームのようなステージに行きたいねという目標も叶えられなかった。でも場所とかじゃなくて、赤い公園がこんなにもたくさんの人の生活の一部になることができたということの方が大きいです。ありがとうございました!」と、立派に締め括った。

そして最後に…と披露されたのは、『pray』と両A面を成す最新シングル、『オレンジ』。
万感の表情で叩くうたこす、最後の一音まで大事に奏でるようなひかりさん、転調して音程が高い大サビまでずっと真っ直ぐな歌声を振り絞って歌う理子さん。
"最後くらいかっこつけたい"という歌詞が刺さるが、最初から最後までずっとかっこよかった。

「赤い公園でしたー!!!」

と、これだけたくさんの曲を歌っても全く衰えを感じさせない声量で高らかに叫ぶ理子さん。
若干二十歳、まだまだこれからだという可能性を感じさせてくれる。
拍手は一体感を帯びて鳴り止まず、そのままアンコールへ。

改めて赤い公園の3人がステージに登場。
するとおもむろにひかりさんが私物のフィルムカメラを取り出し、理子さんに「やめてください」と突っ込まれながらも、パシャりとファンで埋まる会場を撮影。
それをうたこすが笑って眺めている。
もはや歳の差も越えた友人のような微笑ましい関係と光景。
バンドは解散しても、この先もどうかずっと続いて欲しい。

そして、このままじゃ終われないよね!楽しく終わりたいもんねー!と、まだまだライブは続く。
ここでhicoさんも登場し、次は何の曲をやるか、会場の方の心の声を聴いてみましょう(?)と、ひかりさんが前方のお客さんを指し、教えて~!と念を送ってもらうように頼んだり、悩むような仕草をし出し、「こわいこわいこわい!」とまた突っ込まれている。

最後まで四次元なひかりさんワールドだ(笑)
そしてマイクの前に戻り、何の曲だった?と尋ねられると、
(『KILT OF MANTRA』でした)と小声で回答。
果たして正解は…?

"一人じゃないのさ KILT OF MANTRA"

お見事正解、アンコール1曲目は『KILT OF MANTRA』。
笑顔で行進しながら歌う理子さんを見てると気持ちが上向くけど、本当にこの曲の持つ明るさには去年、自分も救われてきたし、きっとこれからもことあるごとに聴いて励まされると思う。

ここで再びギターの2人も登場。
最後なのでサポートメンバーの皆さんもぜひ挨拶をとメンバーに振られ、
キダさんは一瞬悩むように間を置きながらも、「赤い公園が大好きです!」と叫ぶ。

本当にその言葉以上にこの日のキダさんのプレイはアツく、また特にメドレーでは誰よりも飛び跳ねたり拳を振りながら楽しそうに演奏してくれていて、赤い公園への愛がバシバシ伝わってきた。

続いてhicoさんも、首を傾げて悩みながら、「赤い公園が大好きです!」と茶目っ気交じりに声色を変えて叫び、笑いを誘った。
赤い公園の、常に場が明るく和むような雰囲気は、そんな風に周りの人にも受け継がれている。

そして、これは期待大です!ハードル上がるな~!伝説のMCくるか~?と煽られまくる小出氏。
元々予定されていたCDJでもサポートを引き受けるはずだった彼は、そのリハーサルまで遡ると、足掛け半年ほど、赤い公園のサポートギタリストとして期間を過ごしたことになる。

メンバーに「落語家みたい」といじられるほど、もはや赤い公園の一員のような形でこの半年感、彼女たちの支柱になっていたが、かつてはベボベもギタリストが一人抜けてピンチを迎えていた頃、逆に米咲さんが遠征先までサポートギターを引き受けに駆け付けてくれたこともあった。

また小出氏が楽曲提供やプロデュース面で大きく関わっていたアイドルネッサンスが解散してしまった際も、元メンバーの理子さんを赤い公園の新ボーカル候補の一人として推薦し、それを快く受け入れてくれた。

直接言及はしていないが、そんな恩義や感謝の気持ちもきっと強くあって、今回赤い公園のサポートギターとしての重責を全うしてくれたのだと思う。
そしてこう語ってくれた。

「ロックとかバンドって、継承されていくものだと思うんです。普段はBase Ball Bearというバンドをやってますが、そのバンドと赤い公園のこれまでの関係性とか、この半年間リハを重ねてきたこととか、キダさんや堀向さんと皆で過ごした時間とか、メンバーみんないいやつだったなぁってこととか、米咲ちゃんの作る曲が素晴らしかったこととか、それらを全部引き連れて、これからもバンドを続けていきます。絶対バンドやめねぇからな!って気持ちです。」

この言葉に赤い公園とファンの皆、どれだけ多くの人が救われたことだろう。
チャットモンチーが完結したときも同じようなことを語っていたという小出氏。
本当にずっとブレずに信念を貫いてくれている。

長年ベボベを見てきているから分かるが、このバンドは常に変化を受け入れ進化しながらも、芯として持っているものは一切変わらない。
チャットの想い、赤い公園の想い…と背負うものは増えていくが、その芯の強さ、そして何より関根孃や堀くんという心強いリズム隊が両脇をガッチリ固めてくれているから、ベボベならきっと大丈夫。

サポートメンバー3人の挨拶が終わり、hicoさんが鍵盤を叩き始める。
「何の曲かわかるかな?」という問いかけとともに徐々に増えていく音に合わせて、

″もしもあなたが 悲しくって俯いてしまった時には せめて咲いてるタンポポでありたい″

と歌われ『黄色い花』であることがわかる。
そして次の瞬間、金テープが発射され、6人揃って最後の演奏が華々しくスタートした。
理子さんが歌いながらメンバー1人ひとりの元に駆け寄って笑い、サポートメンバー皆も各々、ソロパートを炸裂させ、さらに曲を華やかに彩っていく。
何より理子さん、ひかりさん、うたこすが本当に本当に楽しそうだった。
今後ことあるごとに悲しくて俯いてしまったときには、この瞬間を思い出せるように、一生忘れないでいたい。

そしていよいよ本当のラストスパート。
hicoさんとキダさんが一足先に責務を果たして舞台袖に戻ると、「赤い公園でした~!」と叫び高速のギターリフが始まり、12年間のラストを飾る曲は『凛々爛々』。
派手に疾走するこの曲で締めくくるとは、凛としながらも明るく楽しい彼女たちらしい。

自分は本当に出会うのが遅く、キャリアの後期で赤い公園をようやく好きになったので、初めて行ったワンマンでこの曲が新曲として披露されたのを目撃したのだけど、そのとき間奏でステージ前方に出てきた米咲さんが、ノリノリでキレッキレのギターソロを弾いてくれたのは今でも忘れられない。

個人的にも仕事で大きなミスをしていろんな人に迷惑をかけて落ち込んでいた時期だったのだけど、あのギターソロがモヤモヤを晴らしてくれたのだ。
そんなことを思い出しているうちにも迷いなく曲は疾走していき、″凛々爛々~!″とシャウトする理子さんに合わせ、ギタードラムベースも最後の最後、ありったけの音を注ぎ込み切って、ついに終わってしまった。

でもそこに残ったのは寂しさではなく、とても晴れやかな気持ち。
それはメンバー3人の表情も晴れ晴れして見えたからかもしれない。
3人で手を取り合って万歳した後、「はい解散!」と、未練も一切見せずステージをはけて行った。

最後まで自分のワールドに皆を巻き込むひかりさん、想いが溢れ感極まってしまったうたこす、誰よりも堂々としたボーカルとMCを見せてくれながらも一番年下な理子さん。
そんな3人が最後までしっかりやり切ってくれた。
米咲さんも長女として空から、あるいは中野サンプラザのどこかの空席から、見守ってくれてたからかもしれない。

赤い公園、本当に、お疲れ様でした!!!!

-赤い公園 THE LAST LIVE「THE PARK」セットリスト-

01.ランドリー
02.消えない
03.ジャンキー
04.Mutant
05.紺に花
06.Canvas
07.絶対的な関係
08.絶対零度
09.ショートホープ
10.風が知ってる
11.透明
12.交信
13.pray
14.衛星
15.Highway Cabriolet
16.Yo-Ho
17.メドレー(今更/のぞき穴/西東京/ナンバーシックス/闇夜に提灯)
18.KOIKI
19.NOW ON AIR
20.yumeutsutsu
21.夜の公園
22.オレンジ
en1.KILT OF MANTRA
en2.黄色い花
en3.凛々爛々

思えばバンドとしてのライブは去年8月の配信ワンマン以来、有観客ともなるともっと前なので、本当に久しぶりだったけど、そんな空白期間が一瞬で埋まるぐらい、会場も配信も皆で心を踊らせて楽しめたライブだったと思う。

それはきっと、あれからもずっと皆の中で赤い公園の音楽が絶えず鳴り続けていたからだろうし、これからもずっと鳴り止まず、残っていくのだろう。
自分もこのライブの余韻とこれまでの思い出は消えないだろうし、これからもたくさん曲を聴いて赤い公園との絶対的な関係を続けていきたい。

そしてSNS等を見ると、様々なミュージシャンたちがこのライブを現地で・配信で観ていたようなので、赤い公園の音楽や想いは、小出氏や冒頭で触れたアイナをはじめ、皆が継承していってくれるだろう。

特に印象的だったのは、ライブ直後に投稿された[Alexandros]川上洋平氏のInstagramストーリーズ。
赤い公園とはっきりは言及していないが、自分達でやりたいことを貫くロックバンドの良さ、そんなバンドが解散してしまう寂しさと、悔しいぐらい去り際がカッコよかったこと、そして[Alexandros]の曲も"日本いや世界中の耳に"届けるぞ!と、明らかに『NOW ON AIR』の歌詞を引用した決意表明が綴られていた。

Base Ball Bearも[Alexandros]もどちらも大好きなバンドだが、形は違えどそれぞれメンバーとの別れを経験している中で、それでも尚、彼らがバンドを続けてくれているのは本当に心強い。

翌週には早速Base Ball Bearが配信ライブを行ったが、ここでもライブ頭から終わりまで通して、米咲さんのギターを使ってくれていた。

こうしてロックバンドは脈々と続いていく。