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Mr.Childrenがいるという、ここにある景色を讃えて

「このアルバムで最後にしたい」

12/2リリースのアルバム「SOUNDTRACKS」発売前の予告動画で桜井さんが語っていた言葉。

もちろん、"現時点では"という枕詞があったので、それぐらいの気概で持てる全ての力を注いで作ったということだと解釈してるけど、思えばここ数年のMr.Childrenは、いよいよ終わりを意識しているような段階に入ってきてるのかなと感じることが多かった。

「いつまで僕らはMr.Childrenでいられるだろうか」
「せめてあと10曲はみんなをハッピーにできる曲を作りたい」

そんな言葉を度々ツアーのMCで話していたし、MVが先行公開された『Documentary film』を聴いても、歌詞に"終わり"という言葉が出てくる。

でもだからこそせめて今この瞬間を、今からでも遅くはないできることを…と終わりに向き合うことを考えさせてくれるし、でもその上で「大丈夫」って肯定してくれるような、とてつもなく大きな包容感のようなものを4人のダイナミックな演奏から感じて、アルバムを聴くのがとても楽しみになった。

順番が前後するけれど、『Brand new planet』の映像が公開されて観たときも、「Against All GRAVITY」のあのMCからの『皮膚呼吸』に続いてる感じがしてグッとくるものがあった。
終わりが近付いていることを悟りながらもまだ、"消えかけの可能星"を見つけようとしているんだなぁと。

同時に、心して聴かなければ…とも思った。
大好きなライブ・フェスの相次ぐ中止や、ライブハウスの閉鎖、訃報の数々…本当に今年は今まで以上に自分も、ずっと続くものばかりではないということを思い知らされたし、そういう意味でもやっぱり好きな音楽に対してはこちらも妥協したくない。

そうして発売前から様々な想いを巡らせながら、待ちに待って迎えた12月1日、アルバム店着日。
仕事を終えてタワーレコードに向かうと、大々的な展開により胸が高まる。

このワクワクはいつになっても変わらないし、思えば今までのMr.Childrenの新譜を買いに行く瞬間のことも鮮明に覚えている。
もはや、人生の一大イベントだ。

彼ら曰く、最高傑作。
いざ聴いてみると、ミスチルも未だにもがきながら身を削るように音楽をやっているようで、だからこそ誰の人生にも寄り添うサウンドトラックになり得るアルバムだなと感じた第一印象。

初っぱな『DANCING SHOES』のイメージとは違う幕開けに度肝を抜かれ、CM曲で聴いていたときから穏やかでゆったりした印象だった『others』の不穏な歌詞に衝撃を受け、そしてそこまでの全てを讃えて肯定するような終盤『The song of praise』のハイライト感がたまらない。

"誰もひとりじゃない きっとどっかで繋がって~"
の部分から、歌声とバンドに一段階ギアが入って、力強く人生を応援してもらってるような気持ちになり、涙が溢れてくる。

渾身の一撃を喰らったような、そんな聴後感。
でも、ドキュメンタリー映像「MINE」を観ると本当に楽しそうに、のびのびとレコーディングをしていて、そんなロンドンやロサンゼルスでの日々は、30年近くキャリアを重ねているMr.Childrenでも未だ味わったことのない刺激に満ちていたようだった。

ナタリーのインタビューでは、前作「重力と呼吸」より肩の力は抜けていると語っていたけれど、あのレコーディング風景を見ていたら、そりゃ、これを越えるアルバムは出来ないわ…と逆に、冒頭の桜井さんの言葉の重みが増したようだった。

そしてまた、繰り返しアルバムを再生する。
Mr.Childrenを長年聴いていていつも思うのは、聴けば聴くほど味わい深いなぁということ。
一回目には気付かなかった発見があったり、だんだん良さに気付いていくことが往々にしてある。

「SOUNDTRACKS」もまた、一曲ごとに衝撃が大きかった初聴きに比べて、2回目以降はだんだんとアルバムのストーリーが見えてきたりもして、"終わりを意識した最高傑作"というざっくりした印象はあったけど、それがよりはっきりと感じられるようになってくる。

自分の限界が見えてきた中でもまた新しい刺激を探して、ラストスパートへ向かう。
余生を一瞬一瞬大切に過ごしながらも、やがて人生が終わっていく。
そしてまた次の世代へ…。

特にこの、終わりから次世代へ向かっていく「諦め」と、ある意味夢を託す「希望」のようなものが、『losstime』『Documentary film』『Birthday』…という流れに表れているような気がする。

先日のNEWS ZEROでの対談でも、シンガーとしての限界を感じ、最近は上手い人がたくさんいて、自分はスタメンになれないだろう…と語っていた。
『others』は言ってしまうと、他に旦那・彼氏がいる女性との不倫の曲なのだけど、これも一歩踏み込んで捉えると、シンガーとして一番の男にはなれないという諦めを歌った曲なのかもしれない。

上手いシンガーがどんどん出てきている中で、自分達Mr.Childrenはだんだんメインでは聴かれなくなっていくのではないか。
でも、リスナーが片時でも自分の歌を聴いてくれる、その一瞬を分けてくれる。
だから、たとえ一瞬だとしても"時が止まった"ように幸せなのだと。

その一瞬を大切にしたい。
せめて一瞬でも記憶に残りたい。

終わりを、そして自分の立ち位置を悟ってこそ分かる尊さがある。
そんな、もう一番にはなれない"小さな歯車"だけど、それでも日々を讃えて生きていこうよと『The song of praise』が鼓舞してくれる…。
このストーリーに気付いた瞬間、また涙。

同時に桜井さんは「時代を越えて慈しまれる仏像のような曲を作りたい」とも語っていて、「あくまで主役はリスナーで、その人の人生のサウンドトラックとして寄り添えればいい、でもそれは同時に誰かの人生の中で鳴っていたいというエゴでもある」という主旨のことも言っていた。

「俺には俺の良さがあるはずだ」と、残された一瞬一瞬で印象を残したい、聴かれ続けたい、という想いは、アルバムからひしひしと伝わってくる。
それはかつて、"生きている証を 時代に打ち付けろ"と歌った『I'll be』や、"今 僕のいる場所が 探してたのと違っても 間違いじゃない きっと答えは一つじゃない"と歌った『Any』にも通ずる部分がある。

自分には自分のやり方で、生きている意味を残す。
いつの間にか、Mr.Childrenを通して人生観を考えさせられるような、そんなアルバムが「SOUNDTRACKS」。

こうして、弱さや切なさ、エゴも諦めのようなものもそのまま飾らずに曲にしてくれるからこそ、ミスチルはいつもどんな人の日常にもサウンドトラックとして寄り添ってくれる。

だからずっと好きなんだよなぁ。

ファン歴も14年程を数えるようになった自分だけど、そんなことに改めて気付くことができて、また一つ、好きなアルバムが増えた。

Mr.Childrenがいるという、ここにある景色を讃えて、これからも自分の人生を生きていきたい。