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気付いたら自分の部屋が下北沢GARAGEだった

8月は配信ライブの数がグッと増え、有料・無料問わずたくさんのライブを観る機会があった。
そして、リアルなライブも少しずつ再開し、自分もようやく、先日投稿した通り半年ぶりにライブハウスに行くことができた。

だがやはりコロナ前の状況に戻るにはまだまだ時間がかかるし、当分は配信ライブがメインになってくるだろう。
今月、配信とリアル両方のライブを経験した身としてはやはり当たり前に、現場で観る生のライブには到底敵わないということを実感した。
現状、声を出せないなどの縛りはあるけど、それでもだ。

ただ、いろいろな配信ライブを観てきた中でも、
現場で観ていたときの感覚と近いなと感じられるライブもあり、特に一番オンラインの隔たりを感じなかったのがBase Ball Bearだ。
どのバンドよりもベボベはリアルにこだわるバンドだということを知っているので、正直配信ライブにはかなり葛藤もあったのではないかと思う。

5月~7月には「LIVE IN LIVE ~IN YOUR HOME~」と題して、8週にわたりリモートで演奏を繋ぎ合わせて作った仮想ライブ音源・映像を、毎週1曲ずつYouTubeに公開するという企画を行った。
"みなさんのお宅をめぐるツアー"というコンセプトで、ちゃんとMCのパートも用意しながら全8曲、3ピースでは初めて演奏される曲もこの機に何曲か含め披露された。

本人達がどう感じていたかは分からないが、とても素晴らしい企画であった一方、やはりどうしてもライブ感が損なわれしまうのは否めない。
そんな中、有料配信ライブというものがだんだんとこのコロナ禍において主流になってきた。
自分も8月に入ってから観る配信ライブが急増している。

そしてついにベボベも動き出した。
ベボ部(FC)限定ではあるが、バンドのホームである下北沢GARAGEでの配信ライブということで、「LIVE IN LIVE ~IN YOUR HOME, MY HOME GROUND~」と題して行われることになった。

これまでにも様々な岐路に立ち選択を迫られながら、変化をし続けてきたバンドだ。
「止まるわけにもいかねぇし、まずやろうよ」と。
やらないよりもやる方を選んだのであろう。

今年にベボベが行ったライブは2月の「C3」発売インストアイベント1本のみ。
バンドとしての正式なワンマンライブともなると、昨年の「Guitar! Drum! Bass! Tour」以来、なんと8ヶ月ぶりだ。

本当に待ちに待ったライブだった。
個人的には下北沢GARAGEでのライブを観たことがないので、どんなライブハウスなのかというのも楽しみだった。

そして迎えたライブ当日。
今回は「Thumva」というサービスを使っての配信となった。
他の配信サービスと違いGoogleアカウントとの連携などができないため、チケット購入時とは別に会員登録が必要だったり、スマホ等PC以外の機器で観る場合はアプリのダウンロードが必要だったりと、少々繁雑だ。

だが実際のライブも、チケットを買って発券して、会場に向かうまでの道のりや過程がワクワクを募らせるもの。
そう考えると繁雑なプロセスも、久々にベボベに会えるのであれば苦ではなかった。

Thumvaにログインし入場すると、同じくライブを楽しみに待機している人たちの言葉がチャットで飛び交っている。
自分はいつも配信ライブのときは画面をフルスクリーンにし、言葉を投げるときは専ら慣れ親しんだTwitterを使うが、思えばネット上でたくさんの人と一堂で交流でき、かつリアルタイムで即時に感想を共有できるというのは、オンラインの数少ないメリットかもしれない。

そして、開演時間となり画面が切り替わる。
そこには楽器を持ってたたずむベボベの3人が。
実際のライブであればXTCの入場SEが流れ、ステージ袖から登場するので、それが無いのはやはり実感に欠けてしまうが、それでも久しぶりに見るギター・ドラム・ベースの三角形が嬉しい。

堀くんのカウントとともに始まったのは、『すべては君のせいで』。
先日のIYHで披露されたのが記憶に新しいが、限定的にバンド以外の音や同期を解禁した「光源」のリード曲であるこの曲は初めて聴いたとき、そのあまりのキラキラ感に衝撃を受けたので、逆に3ピースのシンプルな音数で半音下げのアレンジはまたかなり新鮮だ。
3人になったベボベが初めて作ったアルバムの一曲目なので、再出発ともいえる今回のライブの幕開けにもふさわしい。

続けて『不思議な夜』へ。
やはり配信ライブということで、ライブハウスとリスナーの自宅が繋がっている、いつもと違う空気感が漂っているその時間・空間はまさに不思議な夜だ。
この曲はギドベツアーぶりであるが、そこからアウトロのアレンジを加えてくる余念の無さは相変わらず凄いし、配信だと小さくなりがちなベースの音もしっかり聞こえて頼もしい。

そして久しぶりのMC。
思わずオンマイクで喋るのを忘れてしまうほどの緊張と緩和もやはり、いつもと一味違う。
でもやっぱりこいちゃんがボケて、堀くんが突っ込んで、関根嬢が笑う、これだよこれ!という3人の雰囲気はどんな状況でも変わらない。
それがどんなに嬉しかったのか、気づけば観てるこちらの緊張も解けている。

続いて再び『short hair』から演奏へ。
インディーズ時代に親交のあった"12月8日"というバンドにインスパイアされたこの曲はやはり、この下北沢GARAGEで演奏されることに意味があるかのように響く。

そしてバンドサウンドは加速し間髪入れず『転校生』へ。
やはりこの曲から曲へと流れていくようなドライブ感はワクワクする。
IYHと同様に間奏のギターソロが長くなったアレンジは、ブランクを感じさせないキレっぷり。

そしてまたMCへ。
いつもと違い演奏がストイックになっていくしかなく、お客さんの盛り上がりで緊張がほぐれることがないので、これは配信ライブという、いつものライブとは別のものなんだという実感が、3人の話からリアルに伝わってくる。
セットリストの考え方も飽きさせない工夫をしてくれているようで、いつもと違うという。
たしかに、いつもよりこまめにMCを挟んでくれるので、PCの前で座りっぱなしでも、疲れずに観れる。

そして山を欲しがりすぎているのか、久しぶりのライブができる喜びからなのか、MCは止まらない…。
蝉がエレベーターに入ってきたという話から、「何で真面目なライブでこんな話してるのか」「これは季語」「MCは俳句」…というよく分からない展開になり、それに対し裏にいるスタッフの「ヒャッハッ!!」が聞こえてきてツボに入り。
配信ライブでここまで通常運転のMCをするバンドも自分が観た中では初めてかもしれない。(笑)

その後、『Summer Melt』『セプテンバー・ステップス』と、事前のコメント通り"夏の終り、秋の背中"を思わせる曲たちが続く。
この曲たちもギドベツアーでセトリの重要な位置を担っていたが、当時既に秋めいていた9月スタートのツアーだったので、こうして改めて夏の末に聴くことでより曲の持つ切なさが実感とともに感じられる。

続く『どうしよう』もまたIYHの流れをくんでいるが、イントロがサビの弾き語りから始まるという新たなアレンジに。
GARAGEの綺麗な照明とも相まって、これまた切なさが引き立つ。
このカラフルな照明を見ているとより、いつか絶対この場所でベボベを観たいという想いも、どうしようもないほど募っていく…。

続くMCでは、再び久しぶりかついつもとは違うライブへの戸惑いが漏れる。
これまではお客さんが"人間加湿器"になってくれていて、また無観客だと空調もダイレクトに当たってくるため、口の中が乾燥してしまうというのもまた印象的だった。
他の配信ライブではここまで赤裸々に配信ライブの実感を話してくれるバンドもいなかったので、自分たち観客の存在がそんなふうに演者のコンディションにも影響していたのかということに気付けた。

そしていよいよライブも終盤パートへ。
『L.I.L.』は最新AL「C3」の中でもライブ初披露だが、この曲は映えを感じたとともに歌詞がものすごく刺さってくる。
"かなしみも 苦しみも 音にかえる"の部分が特に強く響いて、ああ、それでこそやっぱり俺たちのBase Ball Bearだなぁと。
この状況をも音に変えて進化していってくれると信じて、ついていきたくなる。

そして『Grape Juice』『ポラリス』とアルバムと同じ曲順でドラマチックに展開し、気付いたら画面の前で腕を振り、身体を揺らしている自分がいた。
特にポラリスの大サビではIYHと同じく、こいちゃんが\OH YEAH~!!!!!!/と気持ちを放出するように叫び、3人が歌うハイライト…。
そう、この瞬間がたまらない。
言語化できないこの瞬間を味わうために、自分は今までライブに足を運んでいたんだなぁと実感する。

またこうした形で配信ライブを、その先には皆さんも現場にいるライブを、そして来年には夏フェスやお祭りなど各レジャーができるようになることを願いつつ、そんな風景を想って…と投下された最後の曲は『senkou_hanabi』。
慣れない配信ライブでも、ここにきて3ピースではライブ初挑戦の曲を、セトリの一番最後にもってきたのだ。
この心意気がまず、あまりにもかっこよすぎて…。

きっとこのコロナ禍も良い意味で"忘れられない一瞬のこと"になって欲しいという願いを3人の駆けていく演奏に乗せながら聴いていたら、それに応えてくれるようにラスサビでは渾身の演奏を届けてくれた。
もう、このときの堀くんのドラムの炸裂っぷりがあまりに眩しくて、エモくて、もはや線香花火ではなく、自分たちの心にでっかい打ち上げ花火を咲かせてくれているようだった。

こうして、約70分にわたるBase Ball Bear初のFC限定生配信ライブは、自分たちに夏の思い出と余韻をしっかりと残してくれたまま、幕を閉じた。

思えばこれまでベボベが、IYHやベボ部のWEBラジオで3分割画面で並んでいるのは最近でも見慣れていたが、こうして3人が同じ場所で並んで話しているのを見ること自体半年ぶりだったので、まずそれが見られただけでも嬉しかったなぁというのが一番の感想だ。

終始緊張してると言いつつも、キレ味鋭いギターと意志が詰まった歌を届けてくれたこいちゃん、力強いドラムと客席を見るようにカメラ目線で弾ける笑顔を見せてくれた堀くん、ノリノリで安定感抜群のベースプレイ・コーラスを見せてくれた関根嬢。

そして、本当にいつもと変わらない、楽しいMCを通常運転で届けてくれた3人の空気感。
いつものBase Ball Bearがちゃんとそこにいた。
部屋を暗くして観ていたら、ベボベたちのいるステージと自分の部屋がそのまま繋がっているような気がした。

そう、気付いたら自分の部屋が下北沢GARAGEだったのだ。
そんな感覚を味わわせてくれた配信ライブは今のところ、自分にとってベボベだけだ。

配信ならではの手法や趣向で楽しませてくれるライブもいろいろとあったが、結局のところ、いつもの空気感で、いつもと同じようにライブをすることができるバンドが一番強いし、オンラインという隔たりを一番感じさせないんだなぁという結論に自分は行き着いた。

だから無論、今一番ライブハウスに足を運んでライブを観たいバンドは?と問われれば、迷わずBase Ball Bearと答える。
夏の終わりとともに、そんな日が近付いていることを切に願う。

-Base Ball Bear LIVE IN LIVE ~IN YOUR HOME, MY HOME GROUND~ セットリスト-

01. すべては君のせいで
02. 不思議な夜
03. short hair
04. 転校生
05. Summer Melt
06. セプテンバー・ステップス
07. どうしよう
08. L.I.L.
09. Grape Juice
10. ポラリス
11. senkou_hanabi