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2022年 高校演劇山口県大会

大会について


第41回山口県高等学校演劇大会は、10月22~23日に山口市民会館の大ホールで開催された。
今年は中国大会が山口で開催されるため、3校が中国大会へ出場できる。
また、関係者の方々の尽力により、3年ぶりに完全な形で一般公開が実現した大会でもある。(2020年は無観客開催、2021年は県内在従者限定で入場可能だった)

場内にはお馴染みの生徒講評委員が。また、今年は各出場校のチラシが掲示され会場に彩りを加えている。
開会式では長年山口中央高校を指導し今年の3月で定年を迎えられた中城先生に対して感謝状が贈られる一幕があった。

講評については幕間に行われ、上演校の代表者が緞帳前で応答する従来の形式。加えて閉会式で審査員による総括も行われた。

上演作品について


山口県鴻城「スケッチブック」
亡くなった祖母のスケッチブックを渡された紬は、祖母が過ごした戦時中へと迷い混む。
祖母と、彼女が恋心を抱いていた柳田という青年との甘酸っぱい距離感、紬と3人でのスケッチなど魅力的で引き込まれた。空襲と、出兵してしまう柳田。現代で初恋の人と語られるのはそういうことだろう。
他者に救われた命を今度は誰かのために使う。美しくも聞こえる命の繋がりが、これ程虚しく残酷な形で実現してしまう。それが何よりも戦争というものの恐ろしさを描き出しているように思える。
最後の絵を描く2人のシルエットに胸を打たれた。

光「みすてりい」
突如行方知れずとなった小児科医の照井。
病院でのトラブルや無自覚に蔓延するセクハラ、救えぬ命、親との不和、密かなある決断。積み重なっていく心から血を流すかのようなやりきれぬ思いが内に秘めた虎の鳴き声として響き渡る。
場所も時間も自在に転換する技術たるや最高レベル。脚本も多くのテーマが濃密に込められつつスッキリと纏まっていて惚れ惚れするほど。照井の過去は詳しく描かれないが、病院を訪れた母の言動からこうして自尊心を削られてきたのだろうと察することが出来る。それでいて愛されてはいるから質が悪い。個人的に刺さって仕方なかった。

下関西「ナナシノハナシ」

明日と共に小説を書いている文芸部の里菜。
辛い現実から逃れるかのように作り出された閉ざされた世界と、自分達の姿と重なっていくかのように描かれる狐と黒羊の物語。よくある2つの構造を取り合わせる発想が面白い。大きく動く階段など高さのある装置に心踊る。飛び降りる狐と黒羊はインパクト抜群。
学校生活のシーンで時折ある奇妙な沈黙と、彼女たちを見つめる謎の男。ミステリアスさも魅力だが、ある意味オープニングが最大のネタバレになってしまうため伏せたまま始めてもいいかもしれない。

宇部中央「パラノイアの肖像」
文化祭で展示する絵画のモデルを探す翠は、準備室に籠る碧と出会う。温厚そうで押しの強い翠と、素っ気ないようで押しに弱い碧が好対象。2人が仲を深めていく様子が丁寧に描かれる。
そして下関西と構造が共通するという上演順の妙。これも大会の魅力の一つだろう。
誰かに見て貰えない芸術になんの意味があるのか。これはコロナの打撃を受けた演劇にも深く刺さってくる。
礼華の行為は許されないが、自分はこうした人の弱さに共感してしまう。どのみち後悔をぬぐい去ることは出来ないから、碧が翠の言葉を伝えてくれて良かったと思う。

梅光学院「逃げたってどうせ~拝啓、厨二の君へ」
弁当を食べながら妹と共に中二病な言動を繰り返すリョウタ。
素晴らしい作品だった。冒頭のノリを最後まで続けながら、根底には一貫してヒリつく空気がある。2年前の「なら、死ねば」でも見せた毒気とセンスを存分に発揮。それに笑いも加わっては…!
椅子を使った舞台美術も、スピーディーな転換も実にお洒落。
人前で食べにくい弁当を渡されるリョウタとユイの交流にニヤニヤし、先生との中二バトルで大笑い。そしてリョウタが考えた力ずく極まる解決方法が実に爽快。「お邪魔死にまーす」には大爆笑。
母に思いを伝える際に何度も息を吸い、妹との別れにはただ「ああ」としか返せない。リョウタの抱えてきたものの重さも痛いほど伝わってくる。この繊細さがまた魅力。そしてリョウタにはいつかユイと2人で弁当を食べて欲しいとも願ってしまうのだ。

宇部「きみとつむぐ夏の日」
友達のいない友は、神社でつむぎと名乗る少女と出会う。たった3日の物語。しかしそこで描かれた2人の関係性の変化は見応えがあった。天真爛漫なつむぎが可愛らしい。数年前の宇部高校にも少し似たようなシチュエーションの作品があり懐かしさを感じたりも。
クライマックスの花火が美しかったし、手を繋いでそれを眺める2人も良い。
住む世界の異なる2人に隔たりが生じる幕切れに切なさを感じたのは、彼女たちの過ごしてきた時間の尊さが伝わってきたからだろう。

防府商工「「わたし」に必要なもの」
自分の意思を躊躇わずに表明するみずきは、他の人間も着けている「最適な言動を教えてくれる仮面」を勧められる。
「学校」という管理教育が生徒の個を殺すことになると警鐘した作品があるが、この劇はそれを社会そのものの同調圧力にまで広げているかのよう。
仮面を着けている人間同士しか仮面を認識できず、信頼していた人たちも仮面を着けていると気付く戦慄。孤独も嫌だがそのために自分を殺すべきなのか。周囲の声が響く中仮面を見つめるみずき。それは仮面の言葉なのか問いかける自分自身の声は一抹の希望だろうか。

宇部フロンティア大学付属香川「花咲く想い出の中で」
園芸部の紫音は転校してきた咲良と友人になる。歌手になる夢を否定されている紫音と、余命幾ばくもない咲良の友情が丁寧に描かれる。花が一面に描かれたボックスが可愛らしく、面を変えることで季節の移り変わりを表現しているのも面白い。
劇中で紫音たちが歌う歌がまた実に心地良い。歌の力を信じ作品の中心に据えたのが大成功。コブクロの「桜」を2人で歌うとは、胸を打たれずにはいられない。
友人を大切に思いつつどこか一線を引いてしまう自分を省みる椿も素敵な存在だった。

下関南「かみはいずこにおはしたまふ」
不遇な境遇から世界に絶望する時宗は、信仰による規律に支配された異世界へ。
他人を思いやる一方、知識を求めることが禁じられている故に救えぬ命がある現実。過ぎた知識により自由を手にすれば悲惨な争いが起きるという悠久の主張を否定しきれないのが悲しい。
救えぬ命があること、そして罪人を自分がいた世界に送っていること。激しく反発する時宗だが、突き付けられた未来の映像は暗く厳しい。それでも感化された者もいる。彼はこれからどう生きていくのだろう。時宗と巫女の刹那の交流をもっと見たいとも思った。

華陵「ファンタスティックライフ」
日常生活に支障をきたし始めた祖母の元に届いたのは、生活をサポートしてくれるロボ、ファニちゃん。
気を利かせた周囲に全てをやらせてしまうことに祖母が負い目を感じているのが伝わっていただけに、ファニちゃんを次々購入し活き活きしていくのがよく分かった。一方、美大に進むことを母に認めて貰えないノゾミ。母親の抱えている苦しみも分かりつつ、やはりこういう親は苦手だと実感する。心から納得しないまま、押しきられて選択した進路はいつまでも後悔として残るから…
最後に転杖を再度使っている祖母が実によかった。

山口「恋ひ恋ふれど、」
神社の清掃ボランティアをするなかで交差する生徒たちの恋心。
友人同士でのバカなやり取りの一方で、実らぬ想いの切なさが充満する。知らず知らずのうちに誰かを傷つけ、傷ついて。それに気付いてもどうしていいか分からない未熟さと純粋さが愛おしい。
朱里と佐倉が2人で語り合う場面のヒリつくような空気は圧巻。告白の後、消えそうなほどか細くもう一度「好きです」と漏らす切なさが堪らない。社殿の完成度と空間の使い方も抜群。装置を汚す伝統の技術は今後も長く伝えていって欲しい。素晴らしい上演だった。

大会結果

 最優秀賞(上演順)
光高校「みすてりい」
梅光学院高校「逃げたってどうせ~拝啓、厨二の君へ」
華陵高校「ファンタスティックライフ」
(→以上3校を中国大会へ推薦)

 優秀賞1席
山口高校「恋ひ恋ふれど、」

 創作脚本賞
梅光学院高校「逃げたってどうせ~拝啓、厨二の君へ」


例年中国大会へ推薦する最優秀校のみを発表していた山口県だが、今年からは次点に当たる優秀賞1席の学校も発表されるようになった。

最優秀校の中国大会出場回数は以下の通り。
光高校(2年連続8回目)
梅光学院高校(37年ぶり3回目)
華陵高校(2年ぶり12回目)

梅光学院高校の中国大会は梅光女学院高校時代にまで遡る。華陵高校は全国大会、光高校と山口高校は春フェスに直近3年以内で出場しており、その中で最優秀賞に輝いたのはまさに快挙と言えよう。

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