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公認会計士のゆる投資日記~リース会計基準の改正案について

※本稿をリース公開草案とIFRS16号のみの比較とし、取引の解説を加えたコラムを、筆者がアドバイザーを務める東京共同会計事務所のサイトに掲載しています。
https://www.tkao.com/column/column-2024-2/

 2023年5月3日にASBJから公表された「リースに関する会計基準(案)」等(以下、「リース公開草案」)では、IFRSと同様に、原則として全てのリース契約がオンバランスの対象となるため、業種によっては財務指標に大きな影響が出る可能性があります。今回は、会計基準上のテクニカルな論点に関する私見となりますが、リース公開草案が出てから筆者が受けた質問の中で最も多かった、セール・アンド・リースバックの会計処理について、解説したいと思います。


前提


 IFRS16の設例24を一部修正した下記のセール・アンド・リースバック取引を行う
● 期首に簿価1,000,000の固定資産を公正価値である1,800,000で譲渡
● 固定資産の譲渡は、下記で検討するいずれの会計基準においても、売却の会計処理の要件を満たしている
●  売手は譲渡した固定資産をリースバックし、年間120,000のリース料を期末に支払う
●   リースバックにおけるリース契約において、資産の所有権は借手に移転しない
● リース期間は18年 
●  リースの計算利子率は4.5%
● 上記のリース契約条件から算定されるリース開始時点のリース負債の現在価値は 1,459,200

【会計基準の表記】
●   企業会計基準第13項「リースに関する会計基準」:会計基準
●   企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」:適用指針
●   企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」:会計基準案
●   企業会計基準適用指針公開草案第73号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」:適用指針案

ケース1:現行の適用指針で、リースバックがオペレーティングリースに該当する場合


※1 会計基準上明記されてはいませんが、現行実務上は全額損益認識されていると考えられます

翌期以降、リース期間中は同じ仕訳となり、リース期間の支払リース料総額は、120,000×18年=2,160,000 となります

ケース2:現行の適用指針で、リースバックがファイナンスリースに該当する場合

※2 リースバックがファイナンスリースのため、売却益を繰延処理(適用指針第49項)
※3 リースバックがファイナンスリースのため、リース資産とリース債務を計上(会計基準第10項)

※4 利息法による処理(会計基準第11項)。1,459,200(リース債務の期首元本)×4.5%(リースの計算利子率)=65,664。リース債務の元本返済額は、リース料の年間支払額120,000と支払利息との差額として算定される。
翌期以降同様に計算したリース期間の支払利息総額は700,800
※5 リース資産は残存価額ゼロ、定額法により減価償却を行う(会計基準第12項)1,459,200(リース資産の期首残高)÷18(リース期間)=81,067
翌期以降同様に計算したリース資産の減価償却費合計は1,459,200
※6 長期前受収益をリース資産の減価償却費の割合に応じて償却(適用指針第49項。表示上は減価償却費とネット)
800,000(長期前受収益の期首残高)÷18(リース期間)=44,444
翌期以降同様に計算した長期前受収益の償却費合計は800,000

ケース3:リース公開草案

※7 売却に該当するケースのため、売却益を認識(適用指針案第51項(2))
※8 リースバック契約を使用権資産及びリース負債として計上。計上される金額は、現行の適用指針のリースバックがファイナンスリースのケースである※3と同じ(会計基準案第31~33項)

※9 利息法により計上(会計基準案第34項)。計算方法は※4と同じ
※10 使用権資産は残存価額ゼロ、定額法により減価償却を行う(会計基準案第36項)
計算方法は※5と同じ

ケース4:IFRS第16号

※11 売却資産の簿価のうち、売手である借手が保持した使用権に係る部分により測定(IFRS16.100(a))
売手である借手が保持した使用権に係る部分は、1,459,200(リース負債の現在価値)÷1,800,000(固定資産の公正価値) = 81.06667%
売手である借手が保持した使用権部分は、1,000,000(固定資産簿価)×81.06667%=810,667
※12 買手である貸手に移転された権利に係る利得又は損失の金額を認識(IFRS16.100(a))
買手である貸手に移転された権利に係る部分の割合は、1-81.06667%=18.93333%
1,800,000×18.93333%(移転部分の公正価値)-1,000,000×18.93333%(移転部分の簿価)=151,467


※13 利息法により計上(IFRS16.37)。計算方法は※4と同じ
※14 使用権資産をリース期間及び残存価額ゼロで減価償却する(IFRS16.31,32)
810,667(使用権資産の期首残高)÷18(リース期間)=45,037

ケース1~4の比較

この説例において、売却初年度の損益は、現行リース基準のケース1が最も利益が大きく、ケース2が最も利益が少ない(損失となる)という結果となりました。ただし、リース期間トータルで見れば当然ながら全ての基準で同じ結果となり、あくまで期間配分の違いという事がわかると思います。すなわち、初年度の利益が大きく計上される基準の方が、翌期以降の利益が小さく(又は損失が大きく)計上されることになります。
なお、筆者の本業のお客様から「IFRSでは、リースバック部分に対応する売却益が繰延べられると記載されている書籍があるので、翌期以降どのような仕訳になるのか教えてほしい」というご質問を受けましたが、これは、現行日本基準のケース2において、売却益が繰り延べられ、翌期以降に償却が行われることとの対比から疑問に感じられたのではないかと思われます。結論としては、翌期以降、特段の処理は行われません。これは、次のように理解されるとよいのではないかと思います。
固定資産の公正価値1,800,000と簿価1,000,000の差額800,000は、ケース3のリース公開草案では売却時に全額計上されますが、ケース4のIFRSでは、リースバックにより保持する部分800,000×81.06667%=648,533は認識されません。一方、リースバックにより計上される使用権資産は、リース公開草案に基づくとリース負債と同額の1,459,200となるのに対し、IFRSでは簿価のうちリースバックにより保持する部分となりますので、ケース4の※11により810,667となり、リース公開草案よりも648,533小さくなっています。すなわち、IFRSでは認識されなかったリースバック部分に係る公正価値と簿価との差額648,533は、同額小さく計上された使用権資産が翌期以降に減価償却されることにより、リース期間全体を合計すると、648,533だけ減額された減価償却費を通じて、利益を繰り延べるのと同じ効果がある、という事と考えています。

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