#ゲンロン200907 感想レポート

本記事は、下記のインターネット配信を見た個人の感想レポート記事です。

伊沢拓司 × 田村正資 × 徳久倫康 クイズ王は本当にいなくなるのか
──『ユリイカ』クイズ特集刊行記念&大反省会(https://genron-cafe.jp/event/20200907/)
(アーカイブ公開は9/13までの為、未視聴の方は公式レポを参照ください)

 このレポートは、QuizKnockを見て競技クイズの存在を知ったレベルの、それこそ子どもの頃は夕飯の時にテレビをつけたらたまたまQさまが放送されていて、他に見たいものもないしこれ見るかーくらいの感覚だった人間の感想です。

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1.須貝さんとクイズ界隈の話


 当初は須貝さんが執筆者候補として挙がっていたと聞き、もしそのまま須貝さんが執筆していたとしたらどんな題材を選んだだろうと興味を持ちました。
 刊行されたユリイカの各論考や生放送での発言を振り返ると、テーマ設定はある程度自由であるものの、皆さんやはり自身の普段身を置いているフィールド×クイズという掘り下げ方をしているように見受けられます。では須貝さんがいざ書くとしたらどんな視点になったのでしょうか。勝手な期待が膨らみます。

 個人的に、須貝さんは初心者とプロとの架け橋を担っているというか、その二者の隔たりを埋めるのが上手い印象を持っています。だからこそ、クイズ界隈でもその力を発揮できる場面があるのではないかと思います。
 最前線を走るクイズプレイヤーとは異なる入口からクイズの世界に入り、いきなりハイレベル集団の中に身を置いた須貝さんだからこそ話せる経験を是非お聞きしたいです。ユリイカをわざわざ手に取るのはそもそもクイズ好きだけかもしれませんが、それでもこれをきっかけに少しでも一般層へ競技クイズをはじめテレビ外のクイズのこと、特にクイズの戦略性について知ってもらえる機会が増えれば、クイズ界隈のアンダーグラウンド感は多少なりとも薄まるのではないか、今以上にクイズがより身近になるのではないかと感じました。

 須貝さんが架け橋を担っている話についてですが、例えば、"超伝導"という概念は須貝さんが活躍して広めようとしなければ私はその定義どころか"超伝導"という言葉すら知りませんでした。ましてやオンネス先生の名前や顔も、彼がいなければ知る機会がなかったことでしょう)。超伝導以外にも、ご本人が「理科のお兄さんになりたい」とサイエンスコミュニケーターの資格を取って世の中に理科の面白さを広めようと考えているところ等、プロの活動を一般人が手に取りやすいよう加工して提供してくださっているイメージがあります。
 また、大学院での研究等もお忙しいでしょうに、クイズにも真摯に取り組んでいらっしゃる姿が印象的でした。元々幅広い知識を持っていたとは言えど、クイズがやりたくてQuizKnockに来たという経歴の方ではありませんし、QuizKnock Lab.というクイズ以外の活躍の場もありますから、これは暴論ですがクイズの勉強をしなくても良い立場だったと思います。それでも、「皆が覚えてるんだから俺も覚えるよ」と初心者枠に甘んじることなく知識を身に着け、周囲から戦い方を教わり、遂に今年の1月には一般のクイズ大会に参加するまでのレベルに活動のステージを上げていました。
 そんな道を歩んできた須貝さんだからこそ、一般人がプロの世界に飛び込んでみた話、というような話をいつかどこかで語ってくれたら、クイズ界隈の身内感と言いますか、同人らしさが多少なりとも薄まって間口が広がるのではないかと思いました。

2.競技クイズの知名度とプロ認定機関

 先の話にも重なるところがありますが、所謂競技クイズがアンダーグラウンドな趣味になっているのは、純粋にその競技に触れる機会が滅多にないからではないかと思いました。それこそ、QuizKnockに触れる前の私にとってクイズとは”テレビ番組で芸能人がやるもの”とか”クイズ研究会の人が趣味でやるもの”とかそれくらいの認識でした。高校生クイズも、番組として存在しているのは知っていましたが実際に番組を見たことはありませんでした。(余談ですが、同世代でありながら開成3連覇も覚えていないレベルの興味の薄さでした)
 "競技"、という言葉を聞いて真っ先に思い浮かぶのはスポーツ。スポーツの場合、野球やサッカーのように日頃から中継される競技も多く、自分がプレイしたことのない種目でもルールを知っていることが多いです。また、未経験の人でも気軽に現地やスポーツバーへ赴いて観戦し盛り上がっている様子がSNSやニュース等から伝わってきます。スポーツに興味がなくても、情報が入ってくるくらいには一般に馴染んでいるように思います。スポーツ以外にも、合唱コンクールや絵画のコンペ、競技かるたや将棋のように競技性のある活動は数多く存在しており、それらも同様にある程度の認知度があると思います。
 一方で、競技クイズについてはクイズに興味のある人にしか知られていないように見えます。何故でしょうか。クイズをそれらの認知度のある活動と競技クイズの違いは何だろう?と考えた時に真っ先に思いついたのは、プロクイズプレイヤーと呼べる存在がいないことでした。

 じゃあ、プロを作って活動を広めてみようと思ったところで。
 他の界隈のプロ選手はどのように決まるのでしょうか。調べたところ、(Wikipediaで得た知識なので正確性には難があるかもしれませんが)スポーツのプロ選手は以下のパターンで決まることが多いようです。
  ①入団・契約型
   試合を開催する団体に加盟するチームとプロ契約をする(野球・サッカー)
  ② テスト型
   試合を主催する団体の定める選考を通過する(ボクシング・ゴルフ)
  ③養成型
   試合を開催する団体の研修所を卒業する(競馬・競輪)
  ④実績型
   アマチュアとして大会に参加し、定められた順位に入る(サーフィン)
  ⑤宣言型
   プロ宣言しスポンサーやチームと個別に契約する(卓球・水泳)
  (※試合においてプロアマの区別をしない)
 
 これらの型をクイズに当て嵌めようとした時、④が最も親和性が高いように見えました。では、どの大会で何位に入ればプロとして認められるのでしょうか。世界的な大会が良いのか、それとも最も参加者が多い大会が良いのか。クイズの形式も早押し、ペーパー、書き取り……複数の形式がありますから、それぞれ検討しなければならないでしょう。クイズ未経験の私がパッと考えただけでもこれだけ懸念点が挙げられました。いったい、どのような基準で決めたら良いのでしょうか。
 ところで、配信を拝見している途中、以前QuizKnockの山上さんが以下のツイートをしていたのを思い出しました。

 このツイート及びリプライツリーの内容と本放送内容を合わせて考えると、④実績型の判定は実質不可能だと思いました。そもそも強者を確実に定義することが難しいのであれば、実績でプロを判定することなど出来そうにもありません。
 そうすると⑤の宣言型にならざるを得ないかと思いますが、今の状況でプロクイズプレイヤーを名乗ったところで何が変わるのでしょうか。名乗っても名乗らなくても変わらないプロという存在は、最悪の場合クイズに親しみのない層から知識をひけらかしているマウントに受け取られかねないとすら感じますし、わざわざプロになるメリットが現状はないように思えます。
 作問者や共通認識によりある程度絞り込めてしまいある種不公平なメタ的要素が生まれてしまう競技性も勿論そうですが、何より競技クイズの形式が多様であればあるほどプロの認定は難しくなる為、プロクイズプレイヤーは誕生し得ないのではないかなと思いました。

3.クイズの実況解説

 是非やってほしいです。以前QuizKnockでガチクイズ動画を撮った後にその回答に至るプロセスを解説していましたが、クイズプレイヤーがどうやって数多ある知識から正答へ絞り込んだか(或いはどう考えて誤答してしまったか)を聞くのが非常に面白かったです。あれは何度でもやってほしいと思っています。それこそ、クイズプレイヤーが飼いならしている予感を未経験者へ伝えられるチャンスではないでしょうか。

 例えば、QuizKnockの5文字だけクイズは彼らが知識と経験から予感を働かせているのがわかりやすい企画だと思います。個人的には未だに何度も拝見しているお気に入りの動画のひとつです。一方的に殴るだけでなくてきちんとその回答に至るプロセスを説明しフォローしているので、個人的に人に勧めやすい動画だなと思っています(ぶっ飛んだ面白さがあるだけでなく、クイズにおける知識や経験に基づいた戦略性がわかりやすい)。
 この企画は問題文の冒頭5文字だけを聞いて答えを導くクイズで、1問目は「ぶんぼのこ」だけ聞いて全員が正答を出していました。初見の時にあまりに意味が分からなくて大爆笑した記憶があります。
 恐らく殆どのクイズ未経験の視聴者は「分母の」くらいまでは何となく分かっても、その後に「こ」から始まる言葉は何か?と考えた時にどこから絞り込んで良いのか見当がつかず、答えがわからない状態だったのではないかと思います。
 この問題では解説していませんでしたが、その後も続く5文字クイズの中で、彼らは5文字だけで回答させられるというルール、つまり「5文字で回答が特定できる」ことをヒントに「文章の後半を確定させられる特徴的な言葉が続くはず」とか「ベタ問なのではないか?」といった推測を経て正答にたどり着いている旨を説明していました。メタ読みと知識と経験から正答を見つけ出す。まさしく予感を飼いならしている姿ではないかと思います。
 この動画のように、問題から答えにたどり着く為のヒントの見つけ方や絞り方といった戦略的な面がもっとクイズ未経験者に伝われば、知識のマウント感は今よりは減るのではないかと思いました。

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 8時間越えの配信をほぼ全部リアルタイムで追いかけたのは初めての経験でした。非常に面白かったです、ありがとうございました。毎日アーカイブを再生していたんですが、何度聞いても新しい発見がありとても楽しい配信でした。普段こんな感想レポートを書いたことがないですし、何よりクイズ未経験のただの視聴者ですので、内容がおかしい点等あるかと思いますが目を瞑って頂けますと幸いです。
 また、今回の生放送では、ユリイカを拝読したとは言えクイズ史の話やクイズ界隈では有名な方の話等、時折着いて行けず歯がゆい場面もありました。しかし、コメントを読む限りどうやらそれは「東大クイズ王 伊沢拓司の軌跡」を読めば理解が追いつくようなので、早速ⅠもⅡも購入しました。届き次第読んでみます。
 それにしても、8時間超のこんなにみっちり詰まった鼎談をたった1,000円で拝見してしまって良かったのでしょうか。アーカイブ販売や書き起こし販売があったら是非買いたいです。面白さを伝える語彙がないのが悔しく、月並みな言葉で恐縮ですが本当に面白かったです。
 長時間お疲れ様でした。楽しい配信をありがとうございました!

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