(第三話) 君よ、「初心」を、忘れしか?【1】
『経世済民』 (上の写真:田中正造と、彼による直訴:この精神こそ、『経世済民』の一つのお手本かと思います。)
大王が、平ちゃんに、忌憚なく、こう述べます。 「ヘイゾー、オマエの人生は、まさに、背徳と裏切りの生涯だったな」と。これに対して、平ちゃんが、それこそ平然と答えます。 「大王サマ、何を仰います。私は、自分の生涯において、何一つ悪い事はしていません。 それに、誰一人として、裏切ったりしておりません」と。 これまた、平ちゃんの厚顔無恥は、地獄でも、「全開」です。
この言葉を聞いて、大王も、いささか呆れ顔です。 そこで、彼は、こう語ります。「オマエは、少しも変わらんのう~」と。 これに対して、平ちゃんが言います。「恐れ入ります」と。 そうは言いつつも、彼は、心の中で、大王に対して、何と舌を出しておりました。まさに、”アカンベー”と。
(これは、イメージです。)
この表の顔と裏の心が、全く一致していないのが、平ちゃんの、日頃からの特徴でした。 勿論、娑婆世界では、これで、じゅうぶん通用しました。 しかし、ここは、あくまで、「地獄」です。 そうは、問屋が卸しません。 大王が、高らかに笑いながら、こう語ります。 「ワシに向かってアカンベーをするとは、オマエも、なかなか度胸があるな。ここで、アカンベーをしたのは、オマエが初めてだ」と。
平ちゃんは内心、”シマッタ!”と思いました。 でも、時、すでに遅しです。 娑婆では、それこそ、何もかも、煙にまいて誤魔化せたのですが、ここでは、心の中が、すべて見透かされてしまいます。 ここは、平ちゃんにとって、全くの未体験ゾーンでした。
それに、平ちゃんに、一端の想像力が有れば、どうにか対応できましょうが、何せ、娑婆にいた頃、金勘定しか趣味のなかった平ちゃんですから、どう対応していいのか、皆目、見当がつきません。 正直、彼は次第に、冷や汗がしたたるような思いでした。
この状況を見かねた大王が、少し話題を変えて、彼に、こう尋ねます。「ヘイゾー、オマエが、『経済学者』を志すキッカケとなった言葉は、『経世済民』だったと生前、語っているが、それは、まことか?」と。 「ハイ、大王サマの仰る通りです」と、今度は、流石の平ちゃんも、いくぶん緊張気味に答えます。 そこで、大王が問います。 「そもそも、『経世済民』とは、一体、どういう意味なのじゃ?」と。
そこで、平ちゃんが、生前の頃のように、少し鼻の穴を膨らまし気味に、さも得意げに、こう答えます。 「それは、『世の中をよく治めて、人々を苦しみから救う』という意味です」と。 それを聞いた大王が、いぶかしそうに、こう語ります。 【つづく】
(追記) = 時田心太郎さまへ = この度は、わざわざご送信くださいまして、まことに有難うございました。心ばかりのサポートにて、恐縮です。 でも、たとえ、僅かずつでも、みんなで支え合えたらいいですね。 ところで、あなたの「天国から届いた手紙」は、本当に素晴らしい内容です。何度読み返しましても、とても心に染みるものがあります。 中でも、「人は、思い描いたようになれる」との御言葉、まさに、その通りだと感じます。 あなただったら、きっと、「一生、心に残るような言葉を紡げる人になりたい」という願い通りの方になられると、私は、心から確信しています。 その点、心有るnote誌上は、それを実現するthe best place だと思います。 時田さんの作品の素晴らしさは、その類い稀なる文才だけではなく、 むしろ、その御人柄の良さにあると思うのです。 どうか、呉々も、お身体をご自愛の上、益々ご活躍ください。
渡邉良明 拝
この度のサポート、本当に有難うございました。ご厚情、心より感謝いたします。ご芳志を、他のクリエーターの方々のためにも、大いに活用させて戴きます。