見出し画像

七色のポエジー(書きとめておきたい古今東西の詩句)

第317回 そこにも絶えぬ苦しみの世界があつて(川路柳虹)

そこにも絶えぬ苦しみの世界があつて
呻(うめ)くもの死するもの、秒刻に
かぎりも知れぬ命の苦悶を現じ、
闘つてゆく悲哀(かなしみ)がさもあるらしく、
をりをりは悪臭(をしう)まじる虫螻(むしけら)の
種々のをたけび、泣声もきかれる。
 
 20世紀の文人、川路柳虹(かわじ りゅうこう、本名は川路誠、1888~1959)の「塵溜(はきだめ)」と題する4連の詩の第3連。悪臭が漂う隣家の塵塚から発生した一群の蚊に運命の悲しみを思う。
 川路は東京府三田で旗本の家系に生まれた。幼少期は福山や淡路島の洲本で過ごす。洲本中学時代から詩作を始め、京都の美術工芸学校に進んだ後も盛んに文芸雑誌に詩を投稿した。
 1907年、文芸誌『詩人』に発表した「塵溜」が詩壇に波紋を起こす。東京美術学校に進んだ後、1910年に処女詩集『路傍の花』を出版した。これは、従来の七五調の詩型を破る、言文一致体の口語自由詩の草分けとなった。
 川路は東京美術学校の日本画科を卒業した後、パリ大学に遊学する。のちに美術評論の著書を多数残した。また、ヴェルレーヌ詩集の翻訳も行った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?