『彼』epiosode.2 『Irresponsible』

彼には昔、窃盗癖があった。彼の幼き頃は、周りを囲んで、完全に窃盗集団だった。彼の周りは盗みを楽しむ連中ばかりだったのだ。

きっかけは彼の友達だった。彼の友達は、親の金を盗み取り、みんなの前で披露した。そしてみんな揃ってその大金で散財し、贅を味わった。彼ら窃盗集団は、神社の賽銭箱から金を盗み取る行為を毎日繰り返し、過剰なドーパミンを分泌させていた。計画を立て、みんなで戦場に行く時の笑った姿は、もはや立派な悪党集団だった。

小学生とは思えないほどの羽振りの良さに、店員は首を傾げていた。

だが、何度か見つかり、裁かれた。教育者達は目を尖らせ、罵声を浴びせた。反省の色を示さない窃盗集団は、歪んだ世界を楽しんでいた。

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彼は日常的に捨て猫を拾ってきて、部屋に放し飼いしていた。彼には、動物に対する愛はあるはずなのに、うまく手懐ける術を取得していなかった。だから、間もなく全てが滅した。干からびた存在を箒で掬い取り、優しく見つめると、色彩無くした声でこう囁いた。

「あぁ…可哀想…」

彼は周りから奇妙な行動を訝(いぶか)しまれ、そして、叱咤(しった)された。それでも彼は動物を愛することを辞めず、何度も身勝手な愛を与えた。無責任な彼の行動に、周りは憤怒した。

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彼は、道端で動物を見つけると、捕獲しに行く癖があった。衝動的に茂みや川、溝(ドブ)に走り込み、攻撃を仕掛けた。それは、人間のDNAに刻まれた本能の仕業だった。体に擦り傷や打撲を負いながらも、アドレナリンの噴出により、痛みを感じることはなかった。

彼の友達Tも、無闇な殺生を繰り返していた。動物のみならず、人間にまで危害を加える"野獣"だった。

思春期になると、誰もが自我を持ってTに反抗してきた。だからTは、力尽くで抑えつけた。弱肉強食の世界で、Tに敵うものはいなかった。だからこそ彼は、Tを後ろ盾に、踏ん反り返っていた。

Tのことは、"ただのボディーガード"としか思っていなかった。ケツ持ちをつけて粋がってみせる愚か者のように…。

Tはその恵体を生かし、悠々自適な生活を送っていた。同級生や教師も、Tを恐れ、誰一人逆らうことはできなかった。そんなTは、不良集団に目をつけられ、集団暴行を受けた。

Tの怒りの矛先は、弱者に向かった。
彼もその犠牲者の1人だった。
逆らえば暴力を振るわれ、恫喝された。
彼は自らを守るために、さらに弱い者を生贄にした。

彼にとって"その行為"は… 

"生きるための姑息な手段"

だった。
彼は、常日頃から心の中でこう感じていた。

(力のあるやつが、全ての悪いスパイラルを生み出している。元凶を作り出した悪魔がなによりも1番悪い)

彼はいつも夢見ていた。
限りない力と、全てを動かせる権力を手にすることを。平和な世界…誰1人悲しむことのない世界…いや…自分が全てを支配できることを。

この時、彼には、破滅の足音など一切聞こえていなかった。  

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《ドッグンドッドッドギンザッ…》

はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…   

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全ては神から与えられた自滅への睡魔。
暗い闇の中へいざなう微睡(まどろみ)の詩。錠剤に託された希望の自棄(やけ)。
終わりを感じることに安らぎを覚える狂いの性(さが)。

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