人生で初めてクレームを入れた

 約六年ぶりに機種変更に行ったら不快な出来事に行き合った。
 三大キャリアで、何かあった時のサービス料として料金が高い訳だから、もうちょっと何とかしてくれファッキン。
 要約するとこんな感じの愚痴である。

1.経緯

 約六年使っていた携帯電話が、最悪日に三回は充電が必要な状態になった。
 再来週にちょっと遠出をするため不安を感じ、
 仕事を理由に先延ばしにしていた機種変更に向かうことにした。
 ほぼ六年ぶりのため、えっちらおっちら調べると最近はどうやら予約が必要らしい。
 思い返せば、コロナ前の地元のショップも大変に混んでいた。
 営業時間内に処理を行うためだろう。と不慣れながらも予約を取った。
 可能であればSDカードが使える機種が良かったが、そうなると選択肢が非常に狭い。
 本命機種はオンライン限定、かつ、現行機種は少し評判が悪い。
 機種変更に合わせてプランの変更も必要になるため、
 一昨年の秋に出たミドルレンジ帯の機種に目星をつけた。

 スマートフォンに関しては、別にそこまでハイエンド機でなくていい。
 メインはパソコンのため、連絡が取れて、充電が一日は保って、そこそこの写真が撮れればいい。
 一方で仕事上自分の携帯を使わざるを得ない部分もあり、その辺も踏まえると格安スマホやsimフリーは難しい。
 iPhoneの金額を払うならパソコンを買い替えたい。
 それくらいの気持ちで向かった。

2.店舗

 店舗で整理券を取ると、すぐに店員に要件を聞かれた。
 予約をしている旨を伝えると、アンケート記入後すぐに窓口に案内された。
 流れに無駄は無く、展示してある実機を見に行く時間はなかったが、予約制だしこんなものかと思った。
 機種変更の旨はもう伝わっているので、どの機種にするかを問われた。
 事前に目途を付けていた機種を伝えれば、店員がなんとも言えない顔をした。

2-1.ラウンド1

 店員曰く、「お客様の選んだ機種はミドルレンジでそんなにスマホを使わない人向けのものですね」とのことだった。
「現行機種は当時結構上のモデルだったので六年持ちましたけど、これは持たないというか」
「これだったら上位機種のこの辺がオススメですね」
 息も吐かせぬマシンガントークである。
 店舗として最新機種を売りたいのは分かる。
 けれどもこっちも譲れない条件があった。SDカードの有無だ。
 最近はGoogleドライブなんかのクラウド保存が主流である。
 一方で、ドライブも不具合でデータが消えたりする。
 Androidの強みの一つにSDカードが使えることがある訳だし、どうせなら使える機種が良い。
 そう言った要望を伝えると、やはり店員はなんともいえない顔をした。
「最近の機種はSDカードがないのが主流ですね」
 ……だからついてるのが良くて、付いてるものから選んでこの機種だと伝えたが?
 おうおう、ちょっとそれはどうなんだいにーちゃんよ。と思った。
「なんでそこまでSDカードに拘るんですかぁ?」
 なんとも言えない顔が半笑いになった。
 滅茶苦茶クラウド推しよるが、そんなん提供元の利用規約次第で変わるぜ、と。
 そんなことを破けたオブラートに包んで、「だからSDカードが付いてる機種が良いですね」とどうにか伝えた。
 半笑いで店員は言った。
「そんなのそうそう起きませんよ」
 この店員嫌いだな、と思った。

2-2.ラウンド2

 機種変更に辺り、プラン変更も必要になった。
 店員が進めてきたのは、通信プランにクレジットカードと口座開設が必要なプラン。
 条件を満たせばキャッシュバックがあります、なんてよく見る奴。
 メインバンクを今から作るなら良いだろうが、もう既にメインバンクが決まっている人間からすると億劫なタイプ。
 億劫なものだから、ここで私は一つ失敗をした。
「余計なもの、ついてなくていいんですよね」
「余計なものはオススメしてませんがね」
 店員の声が尖った。
 店員側としてはそうだろう。確かに私の言葉も良くなかった。
 だが、実際『要らない』のだ。
 別にスマホで映像を見ない。漫画も見ない。 メインバンクもメインカードも他にある。
 その状態で口座とカードを増やしたところで、使わないそれは『不要』なものだ。
 「持っているだけでいいんですよ」と何度か言われた。
 持っていたとしても自分が死んだ時に、家族が手続きをしなければいけない口座やカードが増える。
 それに、条件によって変動する料金は、裏を返せば条件を満たさなければ跳ね上がる。
 「管理しきれないので」と繰り返した。
 別にそのプランだけではないのだ。単純に通信料だけのプランもある。
 そちらがいい、と伝えると、尖った声のまま店員は説明を続けた。
「口座を作りたくないとのことなので」
「カードを作れば安くなるんですけど、持ちたくないとのことなので」
 ……喧嘩売られてんな、と、血の気の多い土地で育ったので思った。
 説明として必要なら、出るのは分かる。
 けれどもその場合「不要とのことなので」で済む話だ。
 わざわざ、棘のある言い方をする必要があるか?
 表の一行を説明する度に繰り返す必要があるか?
 大分頭に血が昇ったが、先に失言したのはこちらなので「そうですねー」と流した。

2-3.ラウンド3

 「今日データ移行どうしますか?」とその店員は言った。
 そうですね、と相槌を打ったが、その後に続いた言葉に耳を疑った。
「データ移行を店舗でやるなら、明日また来てもらうことになりますけど」
 ……ハァ?
 そう言いかけた。必死で堪えた。
 まさに寝耳に水である。
 理屈としては分かる。夕方だった為、データの大きさでは営業時間中に終わらないこともあるだろう。
 それならそうと、夕方何時以降は予約を取れないようにすべきでは?
 または、予約ページにその旨の注意書きが必要では?」
 見逃した可能性もあるが、普通に来店予約自体が取れた側からすると「え、明日もくるの?」である。
 移行すべきデータは電話帳程度で、それは店員が笑ったSDカードにバックアップがある。
 画像データも同様である。
 断れば気の無い返事が返っていた。
 ……接客業よな?

2-4.ラウンド4

 紆余曲折を経て見積もり料金を出す段階に至った。
 手元に来た紙には「店舗支払い額」の爛があった。
 その部分は説明がなかったので、店員に説明を求めた。
「オンラインショップと実店舗で機器の値段が違う」
「店舗支払い額は必要」
 その二つが繰り返され、あまり要領を得なかった。
 額として必要なのは分かるが、今までの説明でどこにも無かった。どこにあったのか。
 そう訊ねれば店員は半笑いを深めた。
「機種の展示場所ですね」
 ……お前入店から対応しとるやんけ、見てないの分かるだろ。
「お客様が見てないだけじゃないですか?」
 入店後すぐ窓口に案内しておいてそれを言うのか。
 この店員嫌いだ、と思った。
 払わない、と言っている訳じゃない。
 今までの、やれどのプランが素晴らしいだどの機種が素晴らしいだと、そんな話のどこに「店舗で払う額」の話があったのか。
 Webページに事務手数料の記載はあったが、店舗支払い額の記載はなかったように思える。
 キャリア名ではなく通信会社名で調べると、「機種代金を分割の場合は不要」の記載まである。
 いい加減にしてくれ、と思った。
 安くなります。その為にはこれとこれとこれを付けてください。
 安くなります。その為にはネット回線もウチにしてください。
 理屈としては分かる。勧めるのも、まぁ分かる。
 店舗側からしたら、自分は厄介な客だろう。それも、まぁ、分かる。
 だけど、不要なものを不要と述べた後、そこまで言う必要はあるか?
 そんな感情で頭が溢れて、耳鳴りがした。
 早い所終わってくれ、と思った。
 例の店員は、見送る時だけは愛想がよかった。

5.おわり

 言ってしまえば「店員の対応が気に入らない」、その一言に尽きる。
 春で忙しい時期だったのも分かる。
 けれども、多分私はざらつく言葉を忘れないと思う。
 半笑いの、「作れば安くなるんですけど、お客様作りたくないとのことなので」。
 文面だけ見れば確かに事実だ。
 それでも音と、音に混じった棘で、ああも悪辣な音になるんだな、と思った。
 人生で初めてクレームを入れた。
 けれども文面だけのそれは、多分「厄介な客が何か言ってる」で終わるだろう。
 対応したチャットの向こうのスタッフも「ご不快にさせて申し訳ありません」のような対応だった。
 
 最新機種だけ売りたいなら、古い機種を「在庫あり」にしなければいい。
 付属物の多いコースだけ売りたいなら、シンプルなコースを売らなければいい。
 今回は古い機種も、シンプルなコースも売ってあり、それを望んだ。
 説明を聞いてもメリットを感じなかったので、不要と思えるものを作らなかった。
 私からすれば「当たり前の権利を行使した」、そんな状況でああも言われる理由が分からない。
 それでずっと、思考が回っている。

 少なくとも例の店舗にはもう行かない。それだけは確かだ。
 連休最終日を暗澹としたまま過ごしたくないので、つらつらとここに吐き出した。

6.蛇足

 使わなくなった端末はどうすればいいか訊ねた。
「お客様の端末古いから下取りしてもポイントは付きませんよ」と言われた。
 心の中で中指を立てて、「廃棄方法とかは」と訊ね直した。
 データを消して店舗に持ってくればいい、というようなことを例の店員は言った。
「その際に予約は必要ですか?」
「どっちでもいいんじゃないですか」
 ……なんのための予約制度だよこれ。

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