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「百鬼姫」

 __姉よ一体全体、どこで眠っているの? もう300回目の「お天とうさんのウェイク」だよ。世にそびえたち大地のシワの群れ、されど真っ赤な糸で縫い合わせる、この山ガールさちこは実家にハメこまれた姉貴のりこの部屋、そこに転がる一台のパイプベッド、その下から広がる〈霊峰いちごみるこ山〉に当の姉を探しにゆき十月が過ぎた。いまだにこの幽霊山でのりこのモノと思われる肉体や分泌液も発言も目にしてないし見つけることができてないよ。のりこの婚約者はぴ夫から依頼された遭難者探しは人探しの素人である山ガールさちこにとっては未開の山をかき分けてかき分けて立っていられるだけでやっとだった。のたうちまわる髪を腰まで伸ばして青々しく苔を生やした白装飾をまとった火星人風の肌の落ちムスメの群れが「しょじょしょじょしょじょ」とひらがなをつぶやきながら蜘蛛のように這いよってきたり、八尺様が3人固まってチャリティーマラソンをしてたり、サライだったり、他には亀と甕の乱交パーティ、狼の共食い、蟇の特攻、雌羊の姦通劇、姨捨された老いぼれどもの怨念のカーテン、夢喰いの戯言、送り雀の鎮魂歌、人面犬の総合格闘技、全裸の都落ち系中年おじさんの首吊り死体のツリー、鬼どものAV撮影などなどなどなど……垣間見ゆるパノラマはどれも地獄の類、さてはさてはここは本格派霊峰かと思いて怯えて見ると足元は血の池。義経公の首を洗う首なしの落ち武者たちがその首筋に寂しさを訴えて嘆いていて、そばの剣山には突き刺さってて身動きが取れない若妻が転がっていてごはんごはんごはんと小鬼がとびかかっている。とてものりこが生き残っているのか期待できない。ともに乗り込んだ山ガールさちこの大学時代の友人こと〈タイカレーの呻き〉くんは竹林の入り口あたりで真白肌の雪ちゃんに畜生の群れにへんげさせられて溶けちゃうし、同じく旧友の自称名探偵〈暗痴大誤郎〉もゾウに四肢を裂かれては長い鼻に巻かれて胴を潰された。友の犬死に涙流せど迫りくる百鬼の畏れになすすべなく、下山と登山をくりかへし、とてとてとてとてと足裏に広がるは群がる蛭ども、腿に巻かれるはくちなわの類の番いたち、腰を這うは大足長蜘蛛、背に乗るは山姥の童子。泣く泣くのりこの部屋に戻れば早、深夜。明かりを点けて身を横たえば、布団の中に肉と骨の感触、踏みてぼきぼきと砕ける音、ぬぬぬぬぬと呻き、山ガールさちこ跳びのきて見れば枕元より見知らぬ、年四十ばかりなる弛みきったオーマイっブルドックな中年のふてぶてし面出でり。
 __誰よあなた。山ガールさちこおののくにも言いかけて、のりこちゃあああああんんんんと這い寄りて身を乗り上げては覆いかぶさるは中年の肉、足を絡め手首を押さえ込まれ、脂ぎった弾けとんばかりの膨れきった肌からたらりたらりと黄ばんだ男汁を飛ばし、下水を飲み続けた口臭を吐いて山ガールさちこに迫り、絶叫賛歌、自由とはどこよ、征服は大罪か、否、何故、疑問がだらりんちょ。確かに山ガールさちことのりこは元来ソックリハンで、巷の神々の間間では有名極まりて屡、山ガールさちこが小学生時代、下校中に姉の同級生男子に出くわしてしまえば、おおのりこ、どうした? こいつ、小学校に戻りおったわい、みろこのランドセル、どんなプレイじゃいけん、ぽん、あっち見いてほいや、と真っ赤なランドセルを鷲掴みにしてまわされたり、夕暮れまで小鬼のごとくケタケタと笑われながら追いかけられたりした。中学三年にもなって突然小学生に戻るわけないなのに、第一次受験戦争によって神経をすり減らしきって幻覚も見るは現実とあちらの区別がつかぬ烏賊臭い鳥獣系中坊どもはエブリディ乱心で眼に映るものあらゆるそれに呪詛呪詛、爆発しろ散れと喚く。ぬぬぬぬとその気色の悪しき姉の同年代に嫌悪を教育されたが故、年上男子への苦手意識いまだ拭えず、女の園に籠りては傾国のとき待ちわびる日々を過ごす山ガールさちこに突然の中年は慄然、彼女の世界の崩壊ほかなく、絶叫三唱、他界、崩壊、ぱぱぱぱぱぱ。__何故に中年が姉のベッドで就寝かましとんじゃ豚じゃどういうことじゃ。畜生ども群がる山ガールさちこの体に問答無用につき進み、衣服の脱構築にかかるは血頭の発狂中年、どう映ろうかどう見えぬか構わぬ、若女の身がそこにありて、四肢のついたその若い肉は中年の食物としては類稀なるものか、山ガールさちこの山ガールたらしめる装備および鎧が剥け落ちて薄桃に濡れた生肌が、その胸頭が深夜の部屋に浮き出て、ますます空を濁し。中年つられて肌着を慌てて脱ぐいければ、んなんたることか、神聖領域たる姉御の寝床に此奴、タンクトップにブリーフだけでその醜き身いれておったか、なんと卑しい。山ガールさちこは垣間、自由を得た四肢を床に叩いては下界やら隣の部屋に寝静まる姉の夫やら父母を呼び起こしてはこの痴業の断罪を訴えた。足で地団駄踏めば巻きつく蛇の類の番いたちは線を引き部屋に散乱、足裏の蛭ども小雨なりて中年に撒かれては、いち、に、さんと中年の汚いお口さんに含まれたか、うげげげと首を掴みて嗚咽をくりかへし、汚物を撒き散らさんばかりの地響き。続いて大足長蜘蛛、山ガールさちこを背負いて壁を這っては姉御の好きなジャニーズアイドル手越のポスターを破りては糸を引き、散らし伸ばして白濁の海のごとき巣を淡々と編み連ねけり。蛇の番いどもはその淫猥な軀よじりて集いて幾重にも巻きあい、一筋の太い縄になりて山ガールさちこの手元へその首預けり。中年いまだ汚物の海を泳ひでは息継ぎ三唱、その床にこすり顔びっしりところ狭しと蛭まみれ、膨らみては縮みをくりかへし。さては早、攻守交代なるか、絶叫賛歌、のりこコールの断末魔浴びては姉御部屋の扉あきて中より出でるは姉御の夫ぱぴ夫、間髪入れず地獄絵図に絶叫、事切れればその扉に挟まりて静まりて、沈。__さあさあ、中年の脂肌観光会主催ペア限定〈亀甲おじさん〉二泊三日の旅が開始されました! しっかり予防接種はしましたか? 契約書にはサインしましたか? 医師の指導は受けましたか? この先お客様にふりかかるかもしれない不条理劇的被害に関して当社は一切の責任を負いかねますのでご了承くださいませ。それではおっさんの肌を滑る不愉快極まるフライトを心ゆくまでお楽しみくださいませ! と一匹の亀頭のごとき面構えの蛇が叫び、__幽霊のおりもの、幽霊のおくりもの。くりかえしうわごとを続ける細かく喘いでは肩を揺らし中に目線をコロコロまわす謎の中年の腹に縄蛇が巻きつき始めけり。蛇たちは感嘆の音を上げては細長いリボンみたいな舌という舌を出して入れ出して入れ、下半身に向かう組と首へ向かう組とて別れ、その口々にあえいだ
 __ひゃ! ちょっとなによ。
 __なんて脂ギッシュなんだ!
 __めちゃ滑るぞこいつ。
 __うげ! 毛が絡みこんでくる! こいつ臍の毛どんだけ伸ばしてんだ首が締まる!
 __毛じゃねえぞ、芝生だ!
 __いや違うってこいつアソコの毛が臍まで達してやがんだ!
 __自然の猛威に屈したか!
 __いや邪婬の副産物さ!
 __所詮パパ活プレイヤーだろ。
 __勘違い馬鹿野郎だろ。
 __時代に乗り遅れて取り残された哀れな中年さ
 __前に旅行したW大のWいたろ?
 __こいつ胸もひどい芝生だ!
 __動けないわあなた。
 __大丈夫だ今引っ張り出してやるからな
 __前時代的。
 __あんなのごろごろあるぞ
 __猿なんじゃねえのかこれ
 __詐欺だ! 話が違うぞ!
 __胸毛といえばショーン・コネリーはよかったよなタチバナさん
 __思い出したくないわそんなの
 __やべえ! 芋虫つぶしちまった!
 __圧迫しただけで潰れるってどうなのさ!
 __お払い箱さ!
 …………瞬く間に中年の四肢の自由はさよならした。
 愉快か不愉快か否、糊上等! 貼れ貼れ蛇の群れ、嗚咽のフーガ、咽喉ト短調、蜘蛛の糸の城に住まいて醜悪中年の生も性も誠も声も発言(SAY)も死も詩も史も想いのままに畜生を従いし山ガールさちこー改め、百鬼姫よ、いざ夜も明けるかしらん、辛うじて、蛭にまみれし顔面にくり抜かれた穴、さては男の排水溝のごとく口ありて、パクパクと蛭その虚構へこぼしてはー……のりこ……のりこちゃ……のりこちゃん……どうしたんだい……なんで……どうしてこんな真似をするんだい……わけがわからないよ……くるしいよ……のりこちゃ……パパ、ぱぱぱぱぱぱ……パパ頑張るゆうたやないけ……ー姉御、いったいこの蛭男に何をし何をされたし……首をさちこ、傾ければ国も傾き世も傾き、鼓(つづみ)の音響いて地割れかのん、すかさず元戻せばふたりの後ろにベッド直立しては靈峰こぼれけり……中より出づる鬼の子の丸太の如し右腕、若女の生肌で編まれた絨毯の束、つぶされて餅になった幼き童ども……生臭きいちごみるく山の一角溢れてはのりこの部屋を押し寄せ、箪笥を噛み砕き、ドアをかち割り、天井に風穴、深山にて交わる鬼×人が1ダースもみ合い、悲鳴、つぶれる音々(ねね)……天葬、願ひし頃には童も神に、部屋も袖に通され、夜明けの色に染まるにも早、その好色の渦、満ち足りてなすすべなく、百鬼姫の胎動にて心より喜びたてる幾多の畜生どもの、鬼どもの嗚咽阿鼻、あび、あぴ、あぴびぴ……猛虎? 否猛子の火災天災震災人災……鬼畜の津波……奔流の渦中、世界の木暮と化し晒された部屋は地獄の匣庭…………
 百鬼姫の背にしがみつくは山姥の童子、夜明けしとて濁りなき蛙の卵のごときまなこ開いては地獄縮図を眺め、かの姫の耳元より囁く……ーさもあの腐乱し道徳を持ち寄る醜男、貴姫の姉御を玩具にしては夜毎己の欲にまかせてふりかけてあそびけり……姉もはや婬姒とかしてそのみぬたりぬたりと男の愉楽にそまりてそれかの女のあたりまえ体操、捕らえては稜々たる心すり減らしては陰陽の狭間にて終焉を待ちわびて、只……只安楽願い……待ちわびては……あゝ、ああああああこの身の同情、傲慢たるか……あゝ……__
 落涙の音を上げし童子、さてはくる次の世の堕つわ隷属の姉御と豚々の醜男の間に生まれし胎児かと思え、心地えぐれて、華々しくてならない……その百鬼姫のうち底煮えたぎりては嘔吐、土砂、反吐……愉楽か安楽かたかがか一文字の違いされど男女男女の交わりの間に隔てし……あゝ愛なき猛烈な……うつつと夢を打ち砕くは巨壁よ……邪婬たる男の罪深きよ!……呪詛……これは呪詛……あゝ何故……多生せしても癒えぬかこの世!……ならばとて、この忌まわしい悩ましげな頭切り開いてはあっぱれお天道様にさらしてはキャハゝゝゝとて黄色いカナギリ聲でカーニヴァル……安楽より快楽愉楽に溺れて沈めれば現世といふ地獄、一寸楽しめる哉……これ紅塵のまことの姿なるか!……ぬぬぬ……
 __さて童子よ、我が頭のこづつみひらいて喰らへ!……あますことなく喰らへ!……お残しは許しまへんで!……百鬼姫さう願ふと童子揺らいで……ーええ? まじで?……いやむりだわ。この行為はルールに反するよ……貴姫の姉御も貴姫の元へは戻ってこないし……君ももううつつに戻れないよ?……目の前に蓋の空いてる地獄、見えない?……見えないの?……あの黒縄に引き締められ業火に燃やされ焼かれ舌やらアソコやら抜かれてまなこを潰されて四肢を輪切りにされ胴を八つ裂きにされて陰茎をむりくり何発も喉奥に詰め込まれて生首でサッカーをされて神経のネットにゴールぶちこまれて心臓を数珠つなぎにして楽器にさせられて肺のベッドで細切れの猛子に四肢が弄ばれて首筋の群れ血の池爪の瓦毛髪の川骨格どもの舞踏を魂の無駄遣いが見えないの?……ねえ姫、きみのまなこはまがいものかい?ぬ?
 __よいのだ。……絶望たるはその身慄すことさえ忘れたる己身の空洞か、百鬼姫の中にあるはその真空地帯。この暗い絵晴れたることなくして崩壊感覚、察したか……哀れ愁の歌……はやこの生涯という、わが塔そこに立つか……生々死々、またきて生……早艶やかになるまに生をここで砕くか……みっともなき死に方を……弦強く張りたるに似た百鬼姫よ……自らここに事切れたるか……天空あおげば……太陽の勃起ウェイクにてかすかになりたる数多の星々が、さようなら……ままよ……さらば……またうつつで逢瀬……ばいばい……ハローバイバイ咳……とてあいあい、藍色に薄まりゆく。己が身にふりかかからんとす、或はふりかけられたこのまなこの事変はこの宇宙に比たるのに及ばず、むしろ、露塵に過ぎぬか……うつつ露の世……いまこそ涅槃に逃れては虚栄の貴様らにあっかんべえ……強める姫の決心、童を蹴飛ばしてはーなんだ、ルールなど……なしくずしに風化……ーたりて、仕方なしと童子、脳天より手刀を挿し込んで頭蓋の殻を切り開いて……ーわあい艶々なる若女のモンブランぞ、とて余計に虚飾するは己が偽りの悦び、むしゃりむしゃりと落涙止まずしての咀嚼、女の頭へ無邪気な手手をのばしては捉えし白子を口に運びけり……おんなのつらがまち、痛みに果て……ぶち切れては溢れ……舌たらたらたらと胸を伝いて堕落……口無になりき百鬼姫……うつつにむけて平たく永く呪詛吐きて事切れる哉…………

 __つらいどこよどこにいくよあねよこっけいよほんとばかみたいにいたいわよなんなのよあねきほんとおねえちゃんどこにいったのよこんなことになったってしらなかったよひどいじゃないのぱぴおさんがかわいそうよなんてことしてくれたのさおねえちゃんおねえちゃんどこにいるのおねえちゃんはどうもおもないんでしょうけどそうやってじぶんのなかでしょうかできてしまえるんだおねえちゃんはけどねけどねだよわたしはちがうのあなたのゆいつむにのちのつながつまたしまいなのあなたがどんなめにあってもへいきでもわたしはくるしいのだいすきなのすごいだいすきなのおねえちゃんはわかんかいとおもうけどそうなるのわからないよねきっとなんていえばいいのかなうまくつたわらないとおもうけどどうじょうとかじゃないけどそのどうじょうがあったとてしてもおねえちゃんはどうにもならないよねけれどねわたしのなかでなにかがきずつくのわかるのきっとおねえちゃんはわたしとまったくちがうせかいのにんげんだったからわからないかもしれないけれどおねえちゃんはいたみにどんかんなのかもしれないおねえちゃんにはいたみがこころまでとどかないんだきっとどっかでべつのものにつごうのいいようにおねえちゃんのなかでへんかんされてしまうんだろうねおねえちゃんってすごいやそんなことできちゃうもんねわたしなんかじぶんのことでもできやしないのにじぶんのものでもないのにいたみがちょくつうしてくるんだよきっとわたしのつらさなんてわかんないでしょうねこれってわたしのごうまんなのかなおもいあがりなのかなどうしようもないよねきっとしょうもないもんなんだろうねおねえちゃんはきっとわかってくれないのかなわたしのつらさがでもこのつらさがおねえちゃんがまちがってることにはならないかなこれってこのわたしのかんじてるいたみっておねえちゃんをひていしてないかななにがただしいのかわかんないのなんでとうじしゃでもないわたしがじぶんのなかでかってにいたみをおろしておとしこんでつらいつらいもくるしまなきゃならないのこうやっておこるのもおかしいよねもうずっとはきけがつづくんだよおねえちゃんなかみからっぽになったのにまだはきけがしてるよもうぐっちゃぐっちゃなのたいかれえのうめきくんもくらちだいごろうくんもしんじゃったしあねきおまえのためにめいよのしをわたしもするしなんでおねえちゃんのみにおきたおねえちゃんしかしらないいたみにおねえちゃんでもないわたしがわたしのなかのおねえちゃんによってくるしまなきゃならないのわたしはどうしてあげればいいのひがいしゃづらはよくないよねむしろかがいしゃづらしてるようなきぶんだよねえおねえちゃんわたしはおねえちゃんになにをしてあげれたのいっしょにくるしんであげればよかったのおねえちゃんはへいきだもんねいっしょじゃないよねおねえちゃんといっしょのじけんにまでおちてしまえばよかったわけなのかなおねえちゃんってはまむせきにんでわたしがおせっかいなのかなきっとそうよねでもつらいわけわかんないどうしたらいいのせいかいもまちがいもないのだろうけどむかんしんのほうができないよきっとだってわあしのおねえちゃんだもんどうしてくれるのさわたしはおねえちゃんのしらないことをしらないところでしらないいたみをうだうだじぶんにぬりたくってくるしんでるのごうまんなんでしょごうまんでしょこれがほしいんでしょあんらくをわたしはてにしますよもうここはいきぐるしくってたまんないのごめんなさいおねえちゃんほどわたしはじょうぶなにんげんじゃないからねだからさおねえちゃんどこでねむってるのってばばばぶうひひひひひひひひひひひひひしひひひひひひひひ。
(了)


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