すずなり蔵(2)

前回:すずなり蔵(1)

しゃん。
しゃん、しゃん、しゃん。

蔵には小さく鈴の音が響いている。
何だろう、どこから聞こえるんだろう?

2人は蔵の中を懐中電灯で照らして探し回ったがとうとう桐箱や箪笥、棚の中から何か鈴の音が鳴りそうなものというのは見つけられなかった。

「これ、やっぱオバケじゃん!って2人で顔を見合わせて、そこでやっと“怖い”って思ったんだよ……それまでは冒険気分だったのにね……」

しゃん。

2人は顔を見合わせると薄く開いている蔵の扉に走り出し、蔵の外に飛び出した。

「シュウくんは案外怖がりで、先に走って蔵から出て走って行っちゃったんだよね。後から追いかける形で俺も蔵を出たんだけど、蔵の扉を閉める時に、もう一回、蔵の中を覗いた時、ちょうど片手に持ってた懐中電灯が蔵の天井をフッと照らしたんだよ。その時に、足が見えたんだ」

細く刺すような懐中電灯の中に、ゆうらりと足が揺れているのを見た。

足首には鈴が1つ、赤い紐で括り付けられている。
彼は反射的に、足首から上の方を照らしてしまった。

人が、天井から吊られ小刻みに揺れていた。

ほっそりとした素足、白い着物を着込んでいるその人は長い髪を垂らしていたので女性だろうと思えた。
だらりと垂れた腕の先、手首にも鈴が見えた。

光の中に見えた顔は腐った饅頭のようにぱんぱんに膨れて、目も口も膨張した肉に埋もれて表情はわからない。

しゃん。
しゃん、しゃん。

痙攣する身体から、鈴の音が鳴った。

「大声出したらバレる!って思ったから必死で蔵の扉を閉めて逃げて、シュウくんと2人で家に戻ったらまだ宴会でどんちゃん騒ぎしててさ…………初めて、酒飲みでうるさい親戚のおじさん達がいて良かったって思ったんだよ……。寝られなかったからここに居ていい?って駄々捏ねて2人で宴会の席に混ざったんだ」

その後は、大人の群れに混ざり2人とも川の字で寝た。

「それでさ、シュウくんは俺が見たものは見てないから、結局話せなくてさ……それでもう、何年も“俺の中の1番怖い思い出”としてずーっと心の中にインプットされてたんだけどね」

大人になって、随分と経ってからこっそりと祖父にだけ打ち明けたという。
その頃には震災で蔵は崩れてしまって、神社だか寺だかの人間が地鎮祭をしに来てすぐに取り壊された。

勝手に蔵に入ったことに対しての罪悪感もあったし、もう今はないあの蔵には何があるのかも知りたかった。
無いから怖くない、と、そうも考えていた。

「うちの何代か前のクソみてえな野郎がさ、この家に嫁いできた奥さんに鈴つけてたんだって。嫉妬深い奴で、鈴つけて居場所がすぐわかるように管理してさ。でも買い出しのたびに他所で色目を使ったとか言って蔵に閉じ込めて折檻してたらしいって。まぁ、あとはわかるだろう」

蔵のあった場所は現在は家庭菜園を楽しむための小さな畑になっている。
時折“しゃん”と鈴の音がする、と物部さんの奥さんがボヤく時があるが、事の仔細はまだ内緒にしている。

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