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【禍話】ガムテープの店

 「作られた幽霊」のリライトを書きたいと思いながら現在に至るし、そもそも「作られた幽霊」のリライトは既に存在してたしで……どうしようかなぁ、と思ってた時に、先にこちらを書いて保存しちゃってたのを思い出しました。

 こちらも恐らくリライトされてるとは思いますが、禍供養の為に置いときます(禍供養ってなんだ)

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【ガムテームの店】

 とある団地の近所にクリーニング店があったそうだ。家の敷地内に小屋が建っており、そこをクリーニング屋として使っていたらしい。
 A少年もよくお使いを頼まれて通っていた。
 家族経営であるクリーニング店だ。大体はおばさんかおじさんが、たまにその家の息子が、店を回しているのを知っていた。

 ある日、夕方にクリーニングを出していた事を思い出した母親に、A少年はお使いを頼まれた。
 しかし時間は閉店ギリギリだ。急いで向かうと灯りがついている。ホッと胸をなでおろしてクリーニング店へと入る。
 ガラスの引き戸を開き、カウンター台に置いてあるベルを押す。そうすると中から誰かがやってくる仕組みだ。所謂インターフォン代わりの様なもので、その日もそれを押そうとした。

 ない。

 何故か、その日だけベルがなくなっている。
 しかし引き戸にも鈴がついており、それに気付いた家の人が勝手口からやって来てくれた。

 全く見た事がないお兄ちゃん

 が、「すいませんねぇ、お待たせしちゃって」と入ってきたのだ。
 A少年は多少面食らったものの、預けていたものを伝えるとテキパキと対応してくれる。
 まだ見た事なかった家族の方か、アルバイトの人なのかな、ととりあえず思うことにした。
 クリーニングを受け取って、ふと気になっていた事を尋ねる。
「あの、ここの呼び鈴なくなってますけど……」

「あぁ、もういらなくなったんで」

 いらなくなった?
 いや、それにしてはお店にはクリーニングされた服が奥に並べられている。廃業する訳でもない。
 変な言い方をする人だな……A少年は訝しくなった。
 更に青年は続けて言う。
「鳴らしてもね、聞く者がもういないですから」
 聞く者がいない?
 おかしい、とても変な事を言われている。
 気味が悪いし、言われたものは受け取ったので、A少年は帰ろうと出入口である引き戸へと体を向けた。

 その引き戸の外には、
 見知らぬ女の人が立っていた。

 何をするでもなく、中をじーっと眺めている。
 彼にしてみれば、この女の人も全く知らない人である。入ってくる様子は、ない。
 と、女性は持っていた紙袋からガムテープを取り出した。
 何を、するんだ?
 女性から目が離せないA少年は、彼女の奇怪な行動を見てしまう。

 引き戸のガラスにガムテープを貼り出したのだ。

 ガラスが割れない様に、米印に貼る……などならまだ分かる。
 彼女は、ちぎっては貼って、ちぎっては貼って、を繰り返しているのだ。
 一気に気持ち悪くなり、A少年は店の人を見た。
 店の人は、その奇怪な行動を止めない。
「え……、い、いいんですか? あれ……」
 A少年が尋ねると「うん、いいいい」と返事をされる。
 出入口である引き戸には未だにガムテープを貼り続ける女がいる。
 帰るに帰れないし、その場の空気も異様で怖い。
 A少年は思わず叫んだ。
「変だよ! これ絶対変だって!」

 ビー、ビッ。

 後ろで、ガムテープを引っ張り、ちぎる音がした。
 恐る恐るA少年が振り返ると、さっきまでカウンター台に立っていた青年が、勝手口に向かってガムテープを貼っている。
 引き戸の外にいる女と同じ様に、ちぎっては貼り、ちぎっては貼り、不規則に。
 そして青年は、A少年に語りかけた。
「ぼくはまだ小さいから分からないだろうけど、本当に変な事ってのはね、起きてからしばらくしてから気付くものなんだ。だからこれは──」

 変なことじゃないんだよ。

 何を……何を言ってるんだ、この人……。
 いよいよ恐怖が頂点に達しそうになったその時、


 A少年の真後ろで、ガムテープを伸ばしてちぎる音がした。

「外」の引き戸にガムテープを女が貼り続けているはずで。
 そもそも引き戸が開けば鈴の音もする。
 入ってきた気配など、ひとつもなかった。
 そのまま……A少年は気絶してしまったのだった。

 ハッと気付いた時には、自分はパジャマに着替えさせられており、自宅のリビングの様なところに寝かされていた。家族が彼を囲んで見守っている。
 次第に冷静になってくると、医者もおり……警察も来ていた。
 全く訳が分からず、
「え、あの……え? 確かクリーニング屋さんに行って──」
 言いかけたA少年を、家族が遮る。「その話はするな」と。
 あの店で何があったのか、あの青年と女性は……詳しく聞きたいものの、父親は警察官と話しており、その場の空気は緊張そのものであった為、聞くに聞けなかった。
 それに熱も出ており、その日は仕方なくA少年はそのまま安静にする事にした。

 熱も引いた翌日、誰も何も教えてくれない事に業を煮やしたA少年は、件のクリーニング店に赴いてみた。
 すると、
 クリーニング店は青いビニールシートで全体を覆われていた。工事とかではない、事件性があった時に「とりあえず覆った」その様な感じだったそうだ。

 程なくして、A少年一家は引越しをした。
 しかし、引越した先は元々住んでいた団地の隣の団地であり、父親の仕事の都合でもないようだ。
 まるで、
 近所にあった、あのクリーニング店から離れる為だけの引越しの様にも感じられた。

 後日談などはない。その後もA少年は大人になってもあの時の事は「謎」のままらしい……。

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