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【幸せ】名・形動〈し-あわせ〉

しずかな幸福がそこに横たわっていて、その傍らに不安が頭をもたげている。未だ道半ばの自分を恥じ、その間中もトラウマティックで確実な痛みが胸に差し込みつづける。
ふと唇に冷えた雪が落ち、それがたちまち溶けて、自分の血が燃えるほど熱いことを知る。これは確かに歓喜で、しかし鬱々としていて、音もなく激しい。とりあえず今日まで生きた私は、この辺りでこれを幸せと呼んでいる。

屈託のない日々、ひとつの気がかりもない生活、歯が痒くなるほどの愛。これらだけを幸せと呼んでいたから私は幸せになれなかったのだと思う。
幸せが白黒のついていない曖昧な姿をしているというのは、頭ではわかっていてもなかなか飲み込めなかった。しかし実際にそのグラデーションの中に寝そべってみると、なかなかどうして快適なもので、穏やかな不安すら香辛料のように感じられる。

ああこれが幸せなのか、私今やっと幸せか、そう思ったのをすぐに忘れてしまいそうなので、短文ですが取り急ぎ記録します。今日、上野の街は夜の初雪に濡れて、アスファルトが黒々と光っています。

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