インスタントフィクションその1

昨日の月は綺麗だった。いわゆるフルムーン。
地平線の先から出て来た時の大きさと赤みに圧倒された。

何故だろう。今まで何度も目撃しているはずなのに、驚きはいつも初体験のそれだ。

いや昨日の月はそうではなかったのかもしれない。何かの予兆。出会いあるいは。

君から電話が掛かってくるなんて珍しい。でも、着信音が不安を煽っている。そうか。別れを切り出すつもりなんだな。

嫌な予感は常に的中する。一瞬目の前が真っ暗になる。1時間の別れ話。何故切り出した方が泣いているんだろう。こちらも怒ったり悲しんだり忙しい。

さよなら。滅多に使わない言葉。綺麗に別れたい女と負の感情を吐き出したい男。

今日は月が見えない。雲が厚すぎて。ずっと一緒にいるとか言うには若すぎたのかもな。

いつも電車で家に帰るけれど、今日は時間を掛けてバスを乗り継いで帰ろう。どうせ明日は休みだ。

悪いの誰とかどちらかとかそんな事は別にいい。もう終わった事だから。

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