中秋の名月を見ろとおかんが言ったので見た。

どうでもいいのになんでそんなことにこだわるんだろうと思うけど。



10年くらい前から、にわかに月の様子をニュースで報じるようになった気がする。そういうときは何百年だか何十年に一度、特別な仕方で見えたり見えなかったりするのだそうだ。
むかし学校の知り合いにそういうのが好きな人がいて、約束して比叡山のなるべく広いところでそれを見た。知り合いはとても喜んでいるので、わたしもすごいねと言うんだけど、頭では、この人がほんとうに感動しているのかどうかわかろうともしていた。
 ねえ、それが10年に一度しか現れない月の様子だったとして、わたしたちはたまたまそれを見られる。というのがなんでよいの? 1日に一度お日さまが昇ったり沈んだりするのと何が違うの? 

「その10年に一度くらいしか見られないこのなんちゃらムーンが、来年も見られたらそれはすごいと思うけど」とわたしは言った。
「そんなわけないやん」とそいつは嫌な顔をして言った。「次は……2023年くらいちゃう」

2023年9月29日、あのなんちゃらムーンはもう出たのだろうか。ちょっと予想がうまくなくて去年か来年にズレてたりするんだろうか。今日のこれがそうなんだろうか? 現れるとわかりきってたこの予定調和を、あいつはまた喜んで見るのだろうか。

この話を、最近できた知り合いにしたら面白がっていた。なんでこんなどうでもいい話が面白いんだ、と思うこともなかった。どうでもいい話の感想もまたどうでもいいと思ってるのを、わたしはいま面白いと思っている。

月が明るい。


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