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【大提言】文化の死を救済する「軸の畑」とはなにか?(沙さ綺ゆがみ氏寄稿)『暇』2024年1月号

 杉本健太郎さんから縦軸と横軸についての話を度々耳にするようになった。横になって過ごすか否かについての生活様式の話である。しかしいざ自分に置き換えると横になっている時間が多いのだが思索にふけったり二度寝をしたり通話をしたりと案外多忙であることに気づく。縦軸の状態、すなわち座ったり立っているときはぼんやり絵を描いたりストレッチをしたりと何も考えていない時間が多い。とすると縦と横は重力の問題ではなく視点の問題とも考えられる。地球を全く別の角度から見ると私は縦軸の人間なのだと思う。ここからは私の勝手な推論なのだが、突き詰めると生活様式の軸は縦横斜めではなく別の尺度が存在していて断ちとか足しといったトリミングの概念があるのではないか。縦横塗り足しのように製本時に存在が消える部分を考慮して縦横斜めを考えると非常に豊穣な軸の畑ができる。軸の畑で多様性のある新種の軸を育て様々な視点から見た生活様式を作り出すのはこれから先の人類のライフスタイルを見直す有意義な実験であると思う。日々の社会生活においてもX軸とY軸しかない関係をZ軸、さらにはS軸やN軸まで広げることで息苦しさや文化の死を救済するという億単位の策のうちの一つとして「軸の畑」を提唱したい。生活様式だけではなく思考の基盤となる軸はあればあるほどいい。例えば人生の岐路に立たされた際、選択肢が二つしかなければ仮に体を半分にできても大まかに言って二つの人生しか生きることができない、というのが大多数の意見だとは認識している。実際はそこからさらに運命が枝分かれして多くの分岐点があるということも皆は知っているが、それを言ってしまうと面倒だし時間がないから考えない、難しくてよく分からないと棚上げしていないだろうか。だが人生の岐路に立たされた際、選択する時間が限られているのに数十億、数百億、あるいは天文学的な数の選択肢を同時に提示されたら人はどう対処するか。あきらめて手前にあるカードをとるかもしれない。スーパーでの加工品の賞味期限を気にする人の中には一番奥のカードを取る人もいるだろう。ここで思考の基盤を少し拡大することで私たちは新たな軸を獲得する。莫大な数の選択肢を選び終わる前に力尽きて一生を終えることができるのだ。亡骸の手元には99%に満たない選択肢が残るだろう。亡くなることがではなく、固定観念を無視してしまうのは素晴らしいことだと思う。通信網の発達で世界が狭くなったというがその狭い殻の中で満足するのではなく、それはそれとしてさらに世界を広げややこしくしてみる。
 混沌。
 宇宙に始まりも終わりも行き止まりもない無限の状態を恐れていることを認めるのは人類の文化で欠落しがちな部分だ。天国、地獄、宇宙の果てと決まったゴールを作ることで私たちは有限という安心感に浸り続けていた。しかし、杉本さんが言うところの「まずやってみる」という有限をあえて気にしない概念が発信されることで何かが変わるかもしれないし変わらないかもしれないしそういった状態を火星で耳にして他の銀河に情報を流してそれが地球に放射線として届き森林に作用して光合成で別のメッセージに変わり私の家の近所のスーパーのレジ袋にそのメッセージが伝わりぴったりくっついたレジ袋がいつもより開けやすくなると本当によいと思う。レジ袋が開けにくいと買い物がスムーズにいっても何だかスーパーにレジ袋を開ける作業をしにいったみたいだ。
 にんじんは現在価格が高騰している。企業努力もあるがにんじんの努力があったことにハッとさせられる。にんじんは人参という文字通りかつては人間だったのだと思う。人間に参ってしまい人参になったに違いない。
 話は変わるが、昔々あるところに桃太郎がいませんでした。ある夜、幽霊が出ることで有名な高級住宅街の並ぶ通りを流しのタクシーが通りがかりました。するとある薄暗い家の前に何もいませんでした。そこでタクシーの運転手はあるものを目撃してしまいました。
 酵素です!
 肉眼ではっきり見える大きさの酵素が空気中を漂っていたのです。運転手は驚きのあまり暴走しタクシーはタワーマンションのエントランスに突っ込み爆発炎上しました。ある女性が我が子だけは助かってほしいと生まれたばかりの赤ん坊を大きな桃にやさしく包み窓から川に流しました。タワーマンションは業火に包まれ崩れ落ちました。その後赤ん坊を包んだ桃は川を流れ流れて洗濯をしているおばあさんに拾われました。家に帰ったおばあさんは出刃包丁で桃を切るフリをして前から憎んでいたおじいさんを二度三度と刺しました。部屋が鮮血で真っ赤に塗りつぶされていく中を赤ん坊は桃から這い出て交番にたどりつきました。赤ん坊はそこの警官に養子として育てられましたが桃太郎という名前はつけられませんでした。

おわり

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