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30年の結晶・バンドと観客の絆の1枚 ~THE YELLOW MONKEY『Live Loud』より~

2019年12月28日 ナゴヤドーム

この日、私は2019年のライブ収めをするために、ナゴヤドームに居た。名古屋に行くこともそこそこ多かったこの年、私は相当な数のライブを観に行っていた。観に行きたいものがあれば、西へ東へ飛んでいった。この年は、東は横浜・西は福岡まで飛んでいた。行った本数と参戦したライブのチケットの半券を眺めながら、「いつかは東北や札幌にまで遠征してみたいな」なんてことを考えていた。

話がいきなり軌道を逸れてしまったので、元に戻すのだが、この日の名古屋は祝祭ムードに包まれていた。この日は、結成30周年を迎えたとあるロックバンドが、キャリア初のドームツアーの初日公演を迎える。しかも、12月28日は結成記念日ということだから、その熱はとても高かった。外は冬の匂いが漂い、肌寒い1日だったが、会場内に入れば「コートはいらないな」と思うくらいの熱気が充満していた。約3万5千人が詰めかけたこの日は、会場のスタンドからアリーナまで観客がぎっしり詰まっていた。

3時間越えのライブは、30年分のロックが鳴り響く、彼らにしか成せないライブだった。エンターテインメント性も織り込みつつ、その中心には4人とサポートメンバー1人によるバンドの音が佇む唯一無二の一夜だった。

このライブが終わったときは、その余韻と共に「このドームツアーが無事に終わりますように」という思いでいっぱいだった。翌年の2月には大阪で、4月には東京で2日間、計3公演が控えていた。私は、その3公演には行けなかったのだが、このドームツアーがバンドの30年間の集大成になることは目に見えていた。

このドームツアーを持って、バンドはしばらく充電期間に入ると宣言していた。活動休止・解散を経て、再結成したバンドだから、この宣言を惜しく思うファンも多かったと思うが、前回と大きく違うことは、「次は必ずバンドが帰って来る」ということ。2016年の代々木で「二度と解散しません!」と宣言した彼らだから、またバンドの音に再会できる日は遠い未来ではない。そんな幸せが待っているから、この宣言は悲しいものではなかった。

だから、私は「無事にやり切ってもらえたらな」と思っていた。その願いはすぐに叶うように、2020年2月に開催された京セラドーム大阪でのライブは、無事開催され、成功を収めた。しかし、とある重い足音が海を超えた国から忍び寄っていた。それは、このバンドだけでなく、多くのアーティストを、いや世界中の人々を不安の渦に落とし込めてしまう。

これにより、予定されていたドームツアーの東京ドーム公演2daysは、4月に行われないことが決定した。それが、このアルバムに至るまでの物語となってしまった。ここで"なってしまった"という言葉を使うのは相応しくないような気がするけど、このアルバムが生まれる背景を遡ると、この言葉はこの事態にならなければ、生まれなかったような気がしている。

それは、2021年という今の時代、ライブというものの意味・存在価値が改めて問い直されてる中で、このアルバムがもたらすものは大きいのではないか、そしてこのバンドでしか成せない「ライブに対する思い」というものが、この1枚には結実しているように思うから。

2021年2月3日、THE YELLOW MONKEYが20年ぶりとなるライブ盤『Live Loud』をリリースした。

30th Anniversary DOME TOURを振り返る

THE YELLOW MONKEY(イエモン)は、2019年結成30周年を迎えた。

この年は、ライブ尽くしな1年だった。
19年ぶりとなるオリジナルアルバム『9999』をリリースし、それを引っ提げた全国アリーナツアー「THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2019 -GRATEFUL SPPONFUL-」が16会場27公演開催された。
再集結後の"最大のミッション"と吉井和哉"LOVIN"(Vo)が語っていたアルバムを完成させ、ツアーを敢行した彼らは、ライブバンドとしての確固たる存在感を示し、新曲がバンドの新たな血肉となる様子を示した。

私も、このアリーナツアーを2公演観に行った。静岡エコパアリーナでの♡公演(2019.04.28)と大阪城ホールでの♢公演(2019.06.07)の模様を観たのだが、どのセットリストもイエモンの今を映し出しているとともに、新しい曲がバンドの新たな代名詞となっていることに、再集結した今が最盛期であることを感じ、イエモンのカッコよさを目の当たりにしたのだった。

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そんなアリーナツアーの最終日となった9月22日のグランメッセ熊本公演で発表されたのが、年末から3都市4公演行われる、30周年を記念した初のドームツアー「THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary DOME TOUR」である。

4公演全てのセットリストが変わるというツアー内容と共に、彼らの30年を総決算するドームツアーは、2016年の再集結以降のバンドの活動=”シーズン2”となった4年間を締め括り、次の活動に向けた充電期間に入る前の一旦最後のツアーとなる予定だった。

私は、ツアー初日となる12月28日のナゴヤドーム公演のチケットを取った。地元への帰省のついでということもあったので、この時期に名古屋に寄れたのはラッキーなことで。個人的には、5月以来のナゴヤドームだったから、ゆっくりとその日は楽しんでいました。

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17時開演のライブは、20時半頃までの約3時間にわたり、アンコール含め全28曲が披露された。デビュー初期の曲から最新曲まで並んだセットリストは、彼らの30年の歩みそのものと言える内容だった。

ちょうど、結成30周年となる記念すべき日だったこの日の名古屋は、かつて同日に開催されていたライブ「メカラ・ウロコ」を彷彿させるような一面もあった。本編の半分ほどを初期の楽曲が占めていたことが、そんな空気感を含ませていた。

アンコールの「悲しきASIAN BOY」を歌い終え、客席に手を振りながら、「よいお年を!来年もよろしく!」と言い、4人はステージを後にした。こうして、初のドームツアーは幕を開けた。

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2020年4月・東京ドーム公演の中止

年が明けた2020年。この年の幕開けは、なんか異常なほど熱気に包まれていた。東京オリンピック・パラリンピックの開催だとかで、相当な賑わいを見せていた日本だった。

一方のイエモンも、2月11日に京セラドーム大阪でドームツアーの2公演目を開催した。名古屋とは打って変わり、シングル曲が多かったり、新曲「未来はみないで」を初披露したこの日は、2001年以来19年ぶりの京セラドームとあって、大きな熱気に包まれていたそうだ。

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そして4月4日・5日の東京ドーム公演のみ、となった2月26日、政府は新型ウイルスの感染拡大による感染拡大の防止として、大規模なイベントの自粛・縮小を要請。1月に中国・武漢から感染が拡大したウイルスは、日本でも感染者を拡大させ、その時期は都内だけでなく全国的に感染者を拡大させる事態となっていた。

これにより、その日から日本中でライブというものが街から消えてしまった。画面から伝わる報道には、複数人が感染してしまった場所として、ライブハウスが悪い意味で取り上げられてしまい、大きなバッシングの標的となる事態が生じてしまった。また、消毒液やマスクが小売店から消え、騒ぎになった。日本だけでなく世界中は、未曽有のパンデミックに陥ったのだ。

イベント自粛要請が出たことや、3月以降の感染者拡大により、4月の東京ドーム公演は一旦延期になることが決定した。その発表から数週間後の4月7日、緊急事態宣言が発令され、街から人の姿が消えてしまう。

5月下旬には一時は緊急事態宣言が解除され、いったんは感染者は減少したのだったが、イベント自粛要請が終わることはなかった。感染拡大の要因のひとつになる"3密"と呼ばれる密集・密閉・密着の環境の中で行われることの多い大規模イベントは、まだ安全な場所として認識されることがなかった。

これにより、政府やイベント団体らはイベント開催に向けたガイドラインを発表した。ここには、観客動員数を5千人以下または会場の客席の50%以下にすることや客席の距離を開けること、声を出さないことなどが定められた。これにより、8月以降全国で観客を入れたライブが少しずつ再開されるようになった。8月に大阪でフェスイベント「RUSH BALL」が開催されたり、様々なアーティストがこの時期にツアーを開催したのは、記憶に新しいはず。

しかし、イエモンの東京ドーム公演に関して、予定通りの形での開催は、これにより実質不可能となってしまった。約10万枚ほどのチケットが売れていた中で、購入者全員を動員して開催することが難しくなってしまったのだ。

これにより、東京ドーム2days公演の振替公演の開催断念・チケットの払い戻しが決定した。これと同時に決定したのが、「THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary LIVE」と題された、会場の収容人数の半分ほどの人数を収容して開催する4公演のライブだった。東京ドーム、横浜アリーナ、国立代々木競技場 第一体育館、日本武道館の4会場は、どれもイエモンにとって所縁のある場所であった。

特に、"-DOME SPECIAL-"と題された11月3日に開催された東京ドーム公演は、イベント自粛要請後初めて東京ドームで観客を入れて開催するライブとして、大きな注目を集めた。「幻となってしまった4月の東京ドーム公演」を形にするために行われた4公演のライブは、イエモンの4人にとっても大きな挑戦であり、日本のライブシーンの復興に向けた大きな一歩となった。

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この4公演は生配信も行われた。私は、初日の東京ドーム公演を生配信で観ることにした。イエモンにとって、様々な因縁のある東京ドーム公演。2001年、2017年に続き、3回目となったこの日は、会場の最大キャパの半分以下となる1万9千人の観客を入れてライブが開催された。

18時ちょうどに開演したライブは、名古屋・大阪でのライブ映像がスクリーンに映し出された後、「真珠色の革命時代 ~Pearl Light Of Revolution~」で幕を開けた。

最新アルバム『9999』から「Balloon Balloon」や「天道虫」、中盤では「Foxy Blue Love」や「メロメ」などの懐かしい曲もみられる展開に。この日のライブを振り返るにあたり、特筆すべきは「JAM」と「バラ色の日々」の2曲だろう。普段のライブでは、観客の歌声とともに構成されるこの2曲は、インターネットでファンから応募された歌声を流して、4人の演奏とともにこの2曲は歌われた。

ライブでファンと共に歌を作り上げてきたバンドだったから、この奇跡のようなシーンが生まれたのだった。そんな東京ドーム公演は、およそ3時間・全25曲を披露し幕を下ろした。ちなみに、このライブを観に行った観客やメンバー・スタッフからは1人も感染者を出すことなく、ライブは無事大成功を収めたのだった。

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『Live Loud』

そんな東京ドームが行われた日に、バンドはとある発表をした。それは、20年ぶりとなるライブアルバムをリリースするということだった。アルバムタイトルとして記された『Live Loud』とは、東京ドーム公演に向けて歌声を募ったプロジェクト「Sing Loud!」に関連したものだった。

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このアルバムには、19年12月のナゴヤドーム公演・20年2月の京セラドーム大阪公演、そして11月の東京ドーム公演の音源から、ファン投票によって収録曲が決定した。

Disc1では、東京ドーム公演から前述の「JAM」や「バラ色の日々」、ナゴヤドーム公演より「ALRIGHT」や「SPARK」、京セラドーム大阪公演より「追憶のマーメイド」や「楽園」など、30年分の代表曲が並ぶライブベスト盤と言えるような収録曲となっている。一方の、初回盤のみ収録されているDisc2では、「Balloon Balloon」や「熱帯夜」、「悲しきASIAN BOY」など、イエモンのライブを代表するナンバーから「LOVERS ON BACKSTREET」や「Four Seasons」などのマニアックな名曲が収められている。つまり、この1枚を聴けば、イエモンのライブの美味しいところをじっくりと堪能できるといってもおかしくないだろう。

そして、このアルバムを聴いていると、ライブにおけるバンドと観客のつながりというものを強く感じる瞬間が多いことに気付く。名古屋・大阪の2公演は、観客の完成が曲の頭や終わりに聞こえてくるのだが、東京ドームの音源では拍手が鳴り響くだけとなっている。この差に、2020年という1年の背景を感じてしまうのだが、それ以上に曲が鳴り響く空間の中に、観客からの熱が込められていることを感じることができるように感じるわけだ。

思えば、イエモンは渋谷La.mamaから始まり、ライブで人気を集めてきたバンドだ。スタジオ音源がどれだけかっこいい音になっていようとも、それ以上の良さが生まれる場所がライブであった。そこには、彼らが屈指のライブバンドであるから、という理由もあるけれど、彼らの曲が観客と共に成長していき、今があるということが大きいと言えるように思う。

例えば、前述の「JAM」や「バラ色の日々」はライブと共に成長したバンドの代表格と言える曲である。また、「ALRIGHT」は再集結後1発目の新曲ということもあり、バンドにとってもファンにとっても印象的な1曲となっている。つまり、曲を聴いているとその曲の裏にある観客とのつながりや物語を感じつことができるわけだ。

このライブアルバムは、単に「30周年分のライブのベスト盤」だとか「20年ぶりのライブアルバム」というような括り方ではまとめることのできない、バンドと観客の繋がりそのものと言えるような結晶であり、ライブバンドとしての確固たる存在を持つイエモンだからこそできた1枚なのだ。

来る3月10日には、ドームツアー3公演を収めたBlu-ray/DVD Box「30th Anniversary THE YELLOW MONKEY SUPER DOME TOUR BOX」、東京ドーム公演のみを収めた映像作品「THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary LIVE -DOME SPECIAL- 2020.11.3」が発売される。思い切って、Blu-ray Boxを買って、春休みを堪能することにしようかな、と思う2月の初めの話でした。

(買ってみた感想なんか、この投稿に追記して載せることにしようかな、なんて思ってます!)

ちなみに、東京ドーム公演から始まった「30th Anniversary LIVE」は、11月7日に横浜アリーナ、12月7日に国立代々木競技場 第一体育館、12月28日に日本武道館で開催され、全公演感染者を1人も出すことなく無事に行われ、ツアーは無事完走。イエモンは"シーズン2"となる再集結後の4年間に幕を下ろした。

再集結後の時間軸は一旦止まったものの、またバンドの新しい音に再会できる日は遠い先の話ではないはずだ。"シーズン3"が始める頃には、東京ドームの最大収容人数を集めてライブが出来る季節になってればいいな、なんて思いながら。これからも終わることのないバンドと観客の音楽を思い、このブログを締め括ろうと思うのです。

2021年1発目の #Shiba的音楽レコメンド をお送りしました!最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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