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竹内まりや Turntableから歌を届ける〜「竹内まりや LIVE Turntable」完全ライブレポ〜

こんなに興奮が醒めないことがあっただろうか。

そして、ここまで「この人の歌を生で聴くまで生きねば」と思うことはあっただろうか。こんなこと言うと、あまりにも大袈裟に聞こえてしまいそうな気がするのだが、なんかこのライブが終わった今の気持ちは、その言葉に尽きるような気がしている。

2021年2月6日、家のパソコンの前で。

竹内まりやの配信ライブを観ていました。

中止になった「LIVE Turntable」

このライブに至るまでの経緯を説明するとなると、話を2019年9月にまで遡る必要がある。この時期に、まりやさんはデビュー40周年を記念した3枚組のアルバム『Turntable』をリリースした。全62曲を収めたこの作品は、チャート1位を記録し、ロングヒットを記録した。このアルバムに収録された楽曲「いのちの歌」は、年末の第70回NHK紅白歌合戦でも披露され、初の紅白出演も相まって話題を呼んだのだった。

そんなアルバムだが、このアルバムには購入者限定のキャンペーンがあった。それは、1ヶ月後に出るシングル『旅のつづき』を購入すれば、応募できるスペシャルな企画があった。そのスペシャルな特典とは、東京大阪の2会場で開催されるスペシャルライブだった。

2020年4月18日にZepp Tokyo、24日にZepp Nambaで行われるCD購入者限定ライブ「LIVE Turntable」の開催が発表されたのだ。まりやさんにとって、14年のツアー以来、6年ぶりとなる本格的なライブは、滅多にライブをしないアーティスト故に、生で目撃したいという思いにワクワクする特別なものであった(18年末に行われたファンミーティングでのミニライブを除く)。約31年ぶりとなるライブハウスでの公演は、レアなものになること間違いない、と思っていた。

CDを2枚とも買って、葉書を応募した私は、どこでそんなことを確信したのかわからないのだが「絶対にこれ当たって観に行ける」と思って、郵便局まで向かっていた。そして、その思いは通じることとなった。2020年3月、私の家に一通の封筒が。そこには「当選」の文字と、ライブの招待状が入っていた。まさか、叶うだなんて。人生で初めてまりやさんを生で目撃できる。そんな興奮と共に、その日を待っていた。

しかし... 状況はそれを拒んでしまった。

20年初めから感染拡大した新型ウイルスは、収束する気配ももなく2月末には日本だけでなく世界中で感染者を急拡大させていた。その結果、日本では感染対策として大規模イベントの自粛要請が政府から発出された。これにより、2月末から全国でライブが行われない状況に陥ってしまう。

それは、このライブも例外ではなかった。
4月上旬、ライブの延期が決定。11月下旬に振替公演の開催が決定した。「それまでになんとかなれば...」と思っていたのだが、感染が収まることもなかった。その間にライブも少しずつ再開されたのだが、政府のガイドラインにより、会場の収容人数の半分以下での開催が必須要件となってしまった。これにより、予定通りの規模での開催が困難となり、「LIVE Turntable」の開催が中止となってしまった。

状況を鑑みれば、それは正しい決断であった。しかし、私はそれが悔しいことで頭がいっぱいだった。私も、この時期に行く予定だったライブはすべてが延期・中止となってしまい、楽しみが見事になくなってしまう日々が続いていた。気持ちの整理がつかないままで、日々の時間に忙殺されかける感覚が続いていて、なんだか麻痺してばかりの生活をしていたので、「(状況的に)仕方ないか」という感覚と「また楽しみが消えるのかよ」というやりきれない思いでいっぱいでした。

代替案、初の配信ライブの開催

中止が発表されて1ヶ月後の9月下旬。
とあるメールが届く。

それは、「LIVE Turntable」が出来なくなった代替として、配信ライブを開催するという内容だった。

ちょうどこの時期、まりやさんの夫で、彼女のライブのバンドマスターをしている山下達郎が、キャリア初のライブ配信を開催した。6月以降、なかなか観客を動員してのライブが行えない中で、多くのアーティストがライブ配信を行ってきた。普段、ライブ映像を出さないことにこだわる達郎さんも、遂に配信を開催することを決めたのだった。

映像を出さないとか生の臨場感・音質へのこだわりが強い達郎さんが選んだのは、業界最大級の音質と画質を持つ配信プラットフォーム「MUSIC/SLASH」である。生の臨場感を出すために、アーカイブ配信は行わず、アーティストの権利を守るための対策が万全なこのサイトは、達郎さんの理想が詰まった場所であった。7月末に開催された初のライブ配信「TATSURO YAMASHITA SUPER STREAMING」は大きな話題を呼ぶ。

そんなこのプラットフォームで、まりやさんの「LIVE Turntable」の振替ライブの開催が決定したのだった。収録が行われたのは、11月20日のZepp Tokyo。この日、予定では大阪公演の振替が行われる予定だったその日に、東京公演の場だったライブハウスで、6年ぶりであり、初の無観客ライブが収録された。

ターンテーブルの上から

開演 21:00 終演 22:14

開演前には、今までに発表されたミュージック・ビデオが放送され、ここ数年の彼女の歌を楽しむことができた。定刻の21時、画面が暗転し、アルバム『Turntable』のジャケットが映し出された。

開演前に、まりやさんのコメントがアルバムジャケットと共に流れた。

「私にとってはほぼ7年ぶりのライブステージということになりますし、本当に久しぶりに色んな楽曲を歌えたことをとても嬉しく思います。(中略)短い時間ではありますが、私からのささやかな贈り物として「LIVE Turntable」を楽しんでいただけたら幸いです。それではどうぞ、ごゆっくり」

コメントの後に映し出されたのは、Zepp Tokyoのステージ。お馴染みの山下達郎のライブメンバーの後ろには、幕と「Turntable」と書かれたネオンの文字が。そして、カメラの位置が動くと、客席には大きなターンテーブルが置かれている。その上に立っている人こそ、この日のライブの主役・竹内まりやだ。この大きなターンテーブルの上から、アルバムに収録されているクリスタル・ゲイルのカバー「瞳のささやき (Don't It Take My Brown Eyes Blue)」で披露した。

曲が終わり、バンドメンバーの居るステージに戻ったまりやさんは、ここで最初のMCを行った。「本来ならば、この会場に皆さんにお集まりいただいて一緒に楽しんでいただく予定だったんですけど、諸般の事情でそれは無理ということで、この配信という形になりました。とは言いましても、新しい形のライブということで、これはこれでテレビの音楽ショーを観るような感じで気楽な気持ちで楽しんでいただけたらと思います」と話し、このライブへの意気込みを画面越しに伝えた。

続くドラムのカウントで、ステージ前方に出てきたバンドマスターでギターの山下達郎のギターで始まったのは、ライブ序盤の定番曲「アンフィシアターの夜」。続く「マージ―ビートで唄わせて」と、近年のライブでも披露されている定番の2曲で序盤戦の火をつけていく。

『Turntable』にも収録され、3枚目のアルバム『LOVE SONGS』にも収録されている「待っているわ」を、ライブで30数年ぶりに披露してから、ライブのメンバーを紹介。小笠原拓海(Drs.)、伊藤広規(Bass)、佐橋佳幸(Gt.)、難波弘之(Pf.)、柴田俊文(Key.)、宮里陽太(Sax./Perc.)、ハルナ(Cho.)、ENA☆(Cho.)、三谷泰弘(Cho.)、そしてバンドマスターの山下達郎(Gt./Key./Cho.)らが、手を振ったりと茶目っ気たっぷりに反応した。

「2020年は思いもよらない1年になりました。世界中で色んなことが起こって、今も尚ただならぬ状況が続いているわけですけども、いずれ出口は見えるだろうという希望は捨てないで、協力しながら進んでいきましょう」と話し続いたのは名曲「元気を出して」。2020年の形で歌われるこの曲は、シンプルでありながらも今の時代に確かに響く1曲であったことは間違いないだろう。

ここで続いたのはライブの定番曲「SEPTEMBER」。まさか、このタイミングで来るとは思わずに、イントロを聴いた途端に驚きの声でいっぱいになってしまった。ライブアルバム『souvenir~Mariya Takeuchi Live』でメドレーとしてショートバージョンでしかやらない印象のあったこの曲をフルコーラスで歌っていた今回の展開は、とても新鮮で何よりも色あせない曲のグルーヴ感に感動でいっぱいでした。

新しい挑戦・普遍的な音楽の凄み

ここで一回まりやさんは衣装を変え、1曲目を歌った大きなターンテーブルに戻ったまりやさんは、達郎さんと宮里さん(Sax.)、佐橋さん(Gt.)の4人編成で「五線紙」をパフォーマンス。序盤のアップテンポな空気感から一転して、シンプルなアコースティックな編成でしっとりと曲が届けられた。

「新しい試みを」ということで、同じターンテーブルから届けられたのは、60年代のアメリカンフォークグループ・ピーター・ポール&マリー(PPM)のカバー「悲惨な戦争 (The Cruel War)」だ。まりやさんに加え、達郎さん・三谷さんのコーラスと佐橋さんのギターで歌われ、曲の後には「(達郎さんと三谷さんの)どっちがピーターでどっちがポールなんでしょう」という話に、上のコーラスを歌った三谷さんをピーターで、下のコーラスを歌った達つぁん(まりやさんのよる達郎さんの呼び方)がポールという笑いもあった。続いて、ピート・シーガー作曲で、PPMのカバーで有名になった1曲「天使のハンマー (If I Had A Hammer)」を、メインステージにいるバンドメンバーの手拍子とともに歌った。

再び、衣装を変えメインステージに戻ったまりやさんは、中森明菜に提供した楽曲「OH NO, OH YES!」と5枚目のアルバム『PORTRAIT』に収録されたバラード「Natalie」、2014年発表の「静かな伝説(レジェンド)」とアルバム『Turntable』に収録された曲を続けて披露。ライブは終盤戦へと向かっていく。

ドラマ主題歌にもなった「幸せのものさし」は、序盤の「元気を出して」のように、今の状況に向けた明るい希望に満ちた1曲であった。印象的なピアノのリフから始まる「Sweetest Music」は、ライブの起爆剤ともなる盛り上がり必須な1曲だった。

「アルバムには入っていない達郎とのデュエットを」と言って披露されたのは、エヴァリー・ブラザーズの名曲「All I Have To Do Is Dream」。達郎さんのアコースティック・ギターを軸に歌われた曲は、まりやさんと達郎さんが交互にカメラに映ったり、シックな雰囲気が醸し出されたりして、この日の印象的な1曲となったように思える。

ここでバンドメンバーがステージを去り、再び大きなターンテーブルに一人戻ったまりやさんは、キーボードを前に最後のMCに入った。「どうぞ皆さん、お体に気をつけて、お健やかに過ごしてください」と話し、最後に弾き語りで「すてきなヒットソング」を歌い、配信ライブは幕を下ろした。

今回のライブは、タイトル通りにアルバム『Turntable』の収録曲が軸となって構成されていたわけだが、こうやってライブの曲を振り返っていると、シンプルであれど、心に響く曲が多いんだなと感じることがあって。「静かな伝説」にように、日々を肯定するような曲だったり、ラストの「すてきな~」にあったように、過去の曲を慈しむような瞬間も、全てそっと包み込むような柔らかさや強靭さを持っているような気がして、そこにまりやさんの曲の普遍性があるのかな、と思うのでした。

予定されていた今年春のアリーナツアーは中止になってしまったのだが、このライブを観ていた時には、なんかまた再会できる日は、ライブ会場で初めて会える日は、そんな遠い未来ではないような気がした。

どうか、そんな日が来ますように。

その日に向かって、少し希望を見たような。
そんなライブでした。

この日のセットリスト

竹内まりや LIVE Turntable
2021.02.06 MUSIC/SLASH

収録 : Zepp Tokyo 2020.11.20

01, 瞳のささやき (Don't It Take My Brown Eyes Blue)
02, アンフィシアターの夜
03, マージービートで唄わせて
04, 待っているわ
05, 元気を出して
06, SEPTEMBER
07, 五線紙
08, 悲惨な戦争 (The Cruel War)
09, 天使のハンマー (If I Had A Hammer)
10, OH NO, OH YES!
11, Natalie
12, 静かな伝説 (レジェンド)
13, 幸せのものさし
14, Sweetest Music
15, All I Have To Do Is Dream
16, すてきなヒットソング

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