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理論と感性のバランス

理論の必要性

 スピーカーを作る時、理論的に裏付けのあること、音響的に正しい理論という点に盲目的になり過ぎてしまうとうまくいかないことが多い。その理論が成立する条件と実際に使用する環境が全く異なるため、一定の条件のもとでは理論通りに動作するが、実際に使用する環境では目指していたゴールの状態とはかけ離れている。

 多くの人はそうであることを理解している。第三者に客観的な正当性を持ってそのものの優位性を保証するにはそれしか方法がないため、ある意味妥協してそうした理論に基づいた優位性を主張することになる。主張まではいかなくとも、そうしたことに配慮する姿勢は、メーカーやブランドなど不特定多数の顧客に一定の優位性を保証する必要がある場合には必要である。

感性の偏重による歪んだ "理論"

 一方で、特定の第三者に対してであったり、自分自身にとっての優位性を保証するものは必ずしも客観的である必要はなく、主観的なもので良い。(特定の第三者に対しての場合はその第三者の主観)極論を言えば、理論的な裏付けは必要ないとも言える。
 ところが、特定の第三者や自分自身が満足すれば良い場合に、「単なる理論である」ということを極端に強調して、理論を全く信頼しないような人もいる。「自己満足」であるからそれは特に問題にすることでもないのだが、このような人は「実は自分自身の好みですら正確に把握できていない」ことがあるように思う。理論に対する信頼感が極端に低いため、判断の根拠が、自身の気持ちや感性といった揺らぎやすいものに完全に依存していることも一因かもしれない。中には物凄い経験量によってそれをカバーできてしまっている場合がある。自身の中での理論が確立されてしまっているのだ。ところが、それはごく限られた環境下での経験であるため、その “理論” には汎用性がない。

理論と感性のバランスとプロセスの大切さ

 以上は両極端な例であるが、このように極端にならないように、バランス良く考えることが大切だろう。シミュレーションや測定を行い、客観的な記録を残した上で、さらに自分自身の感覚でも評価を行う。そうすることで、客観的な裏付けと自分自身の感覚が緩やかに紐づけられる。最終的な判断は感覚に頼るとしても、客観的なデータがあることで、自分自身が求めるものにより早く辿り着くことができる。また、再現性も高くなる。

 ただし、客観的なデータを一度見てしまうと、判断がそれに影響されやすくなる。どのような順序で、どのようなタイミングでデータを用い、評価を行うかは実は非常に重要だ。わかりやすい情報、腑に落ちやすい相関関係に接してしまうと、感覚的な判断はそれに影響されてしまう。それを自覚した上で、プロセス自体も慎重に決定していくことが必要だ。

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