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【聖杯戦争候補作】Sympathy For The Devil

 はっ、はっ、はっ、はっ。

 逢魔が刻の街を、少女が息を切らして走る。人通りはない。彼女を追手から助ける者はない。スマホで助けを呼ぼうにも、警察でどうにかなる相手ではないことはわかっている。死人が出るだけだ。

 少女は、自分が聖杯戦争の場に喚び出されたマスターであることを、先程知らされたばかり。そして、襲われている。サーヴァント、異形の存在が、別のマスターを襲って殺すのを目撃してしまった。必死で逃げるが、相手は人外の存在。逃げ切れるわけがない。せめて自分が無関係だと叫びたいが、恐怖で声が出てこない。人混みに紛れたいのに、人がいない。

 やがて……少女は、街なかに小さな神社を見つけた。古びた鳥居、左右に木々が鬱蒼と生い茂った石段の参道。こんなところに、神社などあっただろうか。今は気にしていられない。少女はややためらった後、石段を駆け上がった。合理的理由はない。神頼み、というやつだ。

 はっ、はっ、はっ、はっ。

 過呼吸になりかかっている。急いで石段を上まで登ると、しめ縄が張られた小さな社殿がある。神主や巫女はいないようだが、隠れ場所にはなるだろう。少女は賽銭箱のない社殿に小さく柏手を撃つと、一礼して「助けて下さい!」と小声で祈った。

「君、それじゃ効果ないよ」

 横から声がかけられ、少女は小さく跳び上がった。振り向くと、中性的な黒髪の少女が微笑んでいる。自分と同い年ぐらい。巫女だろうか。彼女はすっとしゃがむと、賽銭箱があるべき場所にペタッと掌を置き、こう告げた。

「ここにね……賽銭よりも、もっと大事なモノを置けば、願いは叶うよ」

「え、あの、それより私、ここに隠れたくて」

 少女は涙目で左右を見回し、石段を振り返る。何かが近づく気配。巫女らしき少女はニコニコと笑い、手に持つ箒の柄を石段へ向けた。

「わかってるよ。君がマスターだね。初回だから出血サービスとして、君をタダで追手から守ってあげる。ツケはいずれ必ず払って貰うけど」

 そう言うと、石段がフッと消えた。追手の気配も。

「ちょっとした幻術だよ。……さて、初めましてマスター、『七草にちか』さん。私のクラスは『イーター(食らうもの)』。君と縁があって召喚されたようだね。こんな催しに呼ばれるなら、何か望みがあるんだろう?」

「は、はい。でも、私……!」

 黒髪の少女は、獲物を見つけた悪魔のように、ニタリと嗤った。

「私の真名は『アンテン』。神様だから、様をつけて呼んでくれると嬉しいな。能力は『想い入れのある品物と引き換えに、相応の願いを叶えること』さ。詳しいルールは追い追い説明しよう。ああ、君、見えるんだっけ」

【クラス】
イーター

【真名】
アンテン様@アンテン様の腹の中

【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力EX 幸運EX 宝具EX

【属性】
中立・悪

【クラス別スキル】
対魔力:B
 魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】
鑑識眼:EX
 供えられたモノに込められた「想い」の大きさを鑑定する。足りなければ足りないと言ってくれるので実際親切。

神性:A
 出自は不明だが神として祀られている(少なくともその体裁をとっている)ため、おそらく神である。妖怪や悪魔、疫病神かも知れない。

幻術:A
 人を惑わす魔術。精神への介入、現実世界への虚像投影などを指す。Aランクともなると精神世界における悪夢はもちろん、現実においても一つの村程度の虚像を軽く作りあげ、人々を欺く事ができる。「陣地作成」スキルを含み、なにもない場所に森のある神社を作り出したりも可能。

【宝具】
『黒闇天女呑肚中(カーララートリ・アラクシュミー)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
 イーターとしての本質。供えられたモノを何でも食らい、込められた想いに相応の願いを叶えるが、想いが足りなければ効果はない(もしくはより劣った効果が得られる)。供えられたモノはイーターに呑み込まれ、二度と戻って来ない。願った者が死んだ時、イーターから授けられたモノや能力は全て消滅する。マスター以外からの願いも受け付ける。

【Weapon】
 なし。願いに応じて物品を出すことはできるが、自分からは何もしない。

【怪物背景】
 漫画『アンテン様の腹の中』に登場する怪異存在。長い黒髪を真ん中分けにした中性的な少女の姿をしているが、おそらく擬態であり、「食事」の時は頭部が変形して牙が並んだ巨大な口が複数、目が複数デタラメについた黒い球体のような姿をとる。両手の甲にはバツ印の傷がついている。ドクロが集まったような飾りがついた箒を持っている。いわゆる「人頭杖(閻魔王が持つ善悪を感知する杖)」であろうか。

 町の中に神社を持ち(ないし「作り」)、神頼みに訪れた者に人間のフリをして声をかけ、「祠の前に賽銭よりもっと大事なモノを置けば、願いは叶う」と唆す。効果は具体的で即効性があり、ハマった人間は次々と大事なモノを貢ぐようになる。破滅するかどうかはその人次第。金銭はもちろん学力や身体能力を強化することも可能だが、「人間」を出すには「大事な人間」を代わりに捧げる必要がある。キャスターとしての適性もあるが、今回はイーターとして出現した。

【サーヴァントとしての願い】
 なし。この戦場を利用して、人間の「想い」をたくさん食べたい。

【方針】
 人間の「想い」をたくさん食べるため、マスターをうまく利用する。自分では戦わないが、幻術でマスターの身を守るぐらいはする。

【マスター】
七草にちか@アイドルマスター シャイニーカラーズ

【Weapon・能力・技能】
 アイドルとしての才能と想い。磨けば光る、かも知れない。

【人物背景】
 ゲーム『アイドルマスターシャイニーカラーズ』の登場人物。16歳の女子高生。CV:紫月杏朱彩。天真爛漫で生意気な「みんなの妹」。姉のはづきはアイドル事務所283プロの事務員。アイドルへの想いが強く、知識も豊富。父は幼い時に他界し、母も入院中。CDショップの店員のバイトをしている。

【ロール】
 女子高生。

【マスターとしての願い】
 元の世界への帰還。あるいは……?

【方針】
 殺人はせず、脱出の方法を探る。この神社を拠点としつつ、協力できそうな主従を探す。イーターに頼るのは、できれば避けたい。

【参戦時期】
 彼女の物語が、まだ始まっていない時。

 やたらと七草にちかが喚ばれているので、おれも試しに喚んでみた。サーヴァントは胡乱界隈で話題になったアレだ。うまく活用すれば聖杯戦争を勝ち抜けるかも知れないし、破滅して終わるかも知れない。

 さて、これで合計14騎を投下し終えた。これぐらいにしておこう。地平聖杯の応募締め切りは7月15日の午前0時までだ。おまえも暇なら書いてみろ。

【以上です】

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