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聖杯戦争候補作

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つのが某所に投下した亜種聖杯戦争の候補作。落選多数。 鯖や鱒はご自由にお使い下さい。
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2021年6月の記事一覧

【聖杯戦争候補作】Agents of SHIELD

 東京の各地で、異変が起き始めた。相次ぐ猟奇的な殺人事件や行方不明事件。突然の爆発や突風。毒ガス、ゾンビ、幽霊、怪しい影の目撃情報。それらは恐怖と興味を以て記録され、拡散される。擬似的に再現された東京に住む擬似的に再現された人間といえど、本人たちにそんな自覚はない。  数多の並行世界の因果が収束して発生した、多世界宇宙現象『界聖杯(ユグドラシル)』。管理者も黒幕もなく、ただ「自然に」発生した聖杯。それが作り出した偽りの世界を、聖杯戦争に喚ばれたマスターやサーヴァントがどれほ

【聖杯戦争候補作】Easy Breezy

『このまま逃げられるとでも思ったか? これで終わったとでも思ったか?』  遠くで雷鳴。冷たく傲慢な、嘲笑う声が廃ビルに、男の脳内に鳴り響く。せっかく与えられたサーヴァントという暴力を使って、気分良く悪党どもをなぶり殺しにしていたのに、なぜ。なぜ。 『貴様が罪人だからだ、慮外者め! 傲慢にも社会のルールに逆らい、大罪を犯したな。現行犯で逮捕し、即時死刑執行だ!』 「ば、バカな! ここにいる連中は、マスター以外はNPCだろ!? 別に何してもいいやつらじゃねえか!」 『汝、殺す

【聖杯戦争候補作】Komm, süsser Tod

 眼球がぴくぴくぴくぴくして止まらない。 「ヒューッ!」「マブ!」「お茶しない?」  夜の繁華街、路地裏。うら若い乙女を囲んで、与太者たちが声をかける。屈強な体格、側頭部や肩にタトゥー。腰にはナイフを忍ばせている。赤茶色の髪の乙女は、きょとんとした表情で首をかしげた。 「お茶? いいよ。おごってね」 「マジ!?」「カワイイ!」「朝までやるぜ!」  与太者たちはせせら笑い、いきり立つ。だが、そこへ。 「ああ、いたいた! あの、すみません。彼女、僕のツレなんで」  ヘ

【聖杯戦争候補作】Der Mensch ist Boese

「はぁ、はぁ、はぁ……!」  宵闇の中を、彼は必死で走る。なにか、恐ろしいものが追ってくる。  ぞるぞる ぞる ぞるぞるぞる・・・・ 闇が、地面を這ってくる。 「たす け……! ?」 『お父さん、おかえりなさい!』  彼は……その場に居るはずのない存在を見た。死んだはずの我が子を。聖杯を手に入れれば、奇跡の願望器によって、生き返らせることが。では。 「ち……チクショウ! お前! お前、幻なのかッ!」  彼は涙を流し、我が子の幻を抱きしめた。自分のサーヴァントとは

【聖杯戦争候補作】chace you

 夕刻。公園で鬼ごっこをしていた子供たちのひとりが、ふと、気づいた。ここは自分のいた場所、いた時代ではない。帰らねばならない、と。 「あいつ、見つからねーじゃん」「ガチ勢だよ。ほっといて帰ろうぜ」  同級生たちが呆れた声で去っていく。少年は顔を紅潮させ、目を輝かせ、息を切らして公園の奥、滅多に人も来ない竹林の中へと駆け込んだ。彼の秘密の場所だ。 「聖杯戦争。何でも願いが叶う。それを、私が?」  胸が高鳴る。これは仏や神の御導きか。あの時、仏の前に座り、目を閉じた瞬間ま

【聖杯戦争候補作】The Gong of Knockout

 0110101011011……。  無数の光の粒子が、光速で飛び交い、衝突し、影響し合い、生成と消滅を繰り返している。それらはいくつか大きな渦を巻き、遥か彼方へ流れている。夢か、幻か。それとも、あの世というやつか。俺は酒に酔って……寝ているはずだ。これは、夢に過ぎまい。 『ああ、夢だと思えばいい。実際、夢だ』  そうか。いや、誰だ。目の前にぼんやりと、大柄な影が現れる。 『どうも、初めまして。おいらは聖杯戦争のサーヴァントだ。ライダー(騎兵)ってことになってる。そう

【聖杯戦争候補作】Diavolo in corpo

「クソが……! ハァーッ、チクショウ……!」  ザザザーッ……!ザザーッ……! 突然の豪雨に追われて、男は山の中の廃屋に逃げ込んだ。不気味な容貌の太った男は、歯を食いしばって悔しがる。 「ツイてねーぜ……! ヤクもねーしよ……!」  彼は雨を振り払い、廃屋の中を眺める。朽ちかけたチンケな木造家屋だ。藁葺きの屋根には大きな穴が空いており、雨は容赦なく入って来るが、残った屋根でどうにか雨露はしのげるだろう。だが、風がミシミシと廃屋を揺らしている。崩れてきたら押しつぶされるか

【聖杯戦争候補作】Treasure in Your Hands

 夜。暗い部屋で、人形を抱いて震える少女がひとり。 「えぇ……何ですかこれぇ……? 地獄の責め苦かなんかですか……?」  彼女は、記憶を取り戻した。聖杯戦争のマスターとしての記憶と知識。そして生前の、死後の、多くの記憶を。彼女は悩み苦しんでいた。  どこかの地獄に落ちそうなことは、いろいろしてきた自覚がある。多数の人々とその子孫の人生を、自分のせいで狂わせたとも言える。たったひとりのエゴのために、たったひとりを殺すために、二千年以上も「死」の研究を積み重ねさせ、呪いを蓄

【聖杯戦争候補作】The Wrath of God in All its Fury

"神はまた言われた、「われわれのかたちに、われわれにかたどって人を造り、これに海の魚と、空の鳥と、家畜と、地のすべての獣と、地のすべての這うものとを治めさせよう」。神は自分のかたちに人を創造された。すなわち、神のかたちに創造し、男と女とに創造された。"『創世記』1:26-27  昼下がり。とある団地の一室から、苦しげな声が聞こえてくる。涙まじりで、怒りと悔しさに満ちた声。そして、なにかが振動する音。 「ふぅーっ……ふぅーっ……! なんで? なんでぇ?」  ヴィーン……ヴ

【聖杯戦争候補作】悪いひとたち

 東京、浜松町駅。昼の歩道橋の上で、ふたりの男が隣り合ってタバコを吸っている。一方は長身痩躯の優男、もう一方は見上げるような偉丈夫だ。  優男の目元と口元にはホクロ。憂いを帯びた切れ長の目には長い睫毛。癖のある黒髪、上等なスーツと靴、豹柄のネクタイ。女のようだとは言えないが、なんともいえずセクシーで、色気のある男だ。  偉丈夫の頭髪は後ろに撫でつけられ、額の上に大きく盛り上がっている。両腕には剣呑なデザインの手甲、筋骨隆々たる上半身に纏うのは、金糸を織り込んだシャツ。口元