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残り数ヶ月で休業する「リベロ」

広島市中区幟町「リベロ」が残り数ヶ月ほどで無期限休業することが決まっている。
シェフが公邸料理人として海外に赴任する予定だからだ。
時期は相手の都合よるので未定のようだが、1年後は営業していない可能性が高い。

シェフの西谷さんと最初に出会ったのは2001年で、本通りの近くで「プレノアール」という店をやっていた時だ。
当時はカジュアルな店だったが、今から考えると料理の方向性はあまり変わっていないと感じる。
皿の上を飾ろうとするのではなく、質実剛健な印象を受けた。
僕も彼もまだ若かった。

その後、岩国市で「ウーノ・ペル・ウーノ」という店で腕を振るわれていたが、2005年頃だったろうか、当地に戻ってこられた。

どうして公邸料理人になるの?と訊くと「若い料理人が育ちつつあるし、おっさんはそろそろ引退ですよ」とはぐらかしつつ「これ以上、歳を取ったらチャレンジできなくなりそうで」と言われた。
僕のほうが少し年上だが、そうだね、僕も県庁を辞めた理由の一つがそれだよと答えた。

しかし、今の彼の料理は円熟期にあると思う。
飾らない、皿に絵を描かない料理だが、イタリアの郷土料理ってそういうものでしょうという矜持が伝わる。
一皿のボリュームもやや多めだが「自分が食べることを考えてるんで、これでも少なめにしてるんですよ...」と言う。
その先には、イタリアだったらさらに大盛りだという想いがあるのだろう。

例えば長野県産ウサギのラグー・パッパルデッレだ。

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これはもはや肉料理だ。
ラグーとはいえ、ウサギ肉は大きめにカットされ、味は全く抜けていない。
ふんわりとウサギの少し乳臭い香りがある。
このウサギから出た肉汁に余計なとろみなどは加えず、パッパルデッレがしっかり絡め取ってくれる仕掛けだ。
野菜も飾りではなく、味のアクセントとして重要な役割がある。
こんな皿を出す店が他にあるだろうか。

余計なものはないが、必要なものは全てある。
そういう料理だ。

前菜には魚介のポルペッティ・カツレツ仕立てや、サンマとグアンチャーレのインボルティーニ・燻製の香りのようなわかりやすく手数をかけた料理も出てくる。
むしろそういう、複数の素材を組み合わせ、わかりやすく凝った料理がインスタ映えするとして喜ばれるけれど、そんな料理ばかりだと、何を食べたのかわからなくなる。
彼の料理は、あとになって何を食べたのか思い出せないということがない。

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例えば、宮崎地鶏のローマ風煮込み。
これを見直すと、柔らかく煮られた鶏肉と、トマトやパプリカの重層的な旨さを思い出す。
イタリアの郷土料理とはどういうものか、とても明確だ。
蕪が旨い時期なので、良い口直しになった。
この料理を食べて、自分はこの店で何を食べたんだっけ?と思うヤツはいないだろう。
味付けにも自信が感じられ、これがオレの料理という揺るぎない信念が伝わる。

いずれ日本に戻ってくるんでしょ?と訊くと「先のことはわかりません。ただその時はイタリア料理をやってない気がします」とのこと。
もしかしたら、彼のイタリア料理が食べられるのは、あと僅かなのかもしれない。

そしてジビエの時期が訪れた。
「リベロ」にとっておそらく最後のジビエだ。
冬の間に少なくとももう一度、足を運ぼうと考えている。

追記
コロナ禍により公邸料理人の話が棚上げされてしてしまったようだ。
色んなところに影響が出ているコロナだが、お陰で今年も彼のジビエが食べられる。

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