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女子の成長で重要なこと【XF CUP 2020/スポンサー応援型サッカーメディア】

■神奈川にある「横須賀シーガルズ」の理念とは

サッカー界と言っても、一人ひとりが興味ある領域は異なる。

欧州リーグ、Jリーグ、南米サッカー、高校サッカー、女子サッカー、大学サッカー、ジュニアサッカー…これは観戦という視点。これが実際のプレーになると、自分の年齢との照らし合わせがあり、選択肢はフットサルやソサイチもある。

興味があるからスタジアムで見たい、情報を得たい。それが『本人=当事者』にとっては自然な流れであり、時間とお金をかける。もちろん言葉に起こしているだけで、これを一々意識はしない。それが普通のことだ。

しかし、こういうことよってサッカーも産業の一つとして回っている。

人の欲求があるから企業はそこにチャンスを見出し、サッカーというスポーツに投資し、リターンや利益を得ようとビジネスを生み出す。この原理はエンターテインメント産業だろうと、スクール経営だろうと、クラブ運営だろうと変わらぬあり方だ。

ただ人は基本的に『直接関わる』領域以外のことは知らない。

それが普通だが、どんな形であれ、特に金銭を投じている人は『知っているつもり』で物事を語りたがる。言うなれば、夜の酒場で会社の愚痴を発散して盛り上がるサラリーマンと同じことである。産業とはこれをひっくるめて成り立っているし、その中の選択肢にならなければ認知されていないのも同然だ。

だとすると、女子サッカーが産業として成立していないのは認知度が低いからである。単純に男子ならJリーグ、女子なら今後『.WEリーグ』がどれだけ酒のツマミ、人々の欲求対象となれるかで、産業としての大きさは変わる。

もちろん同時に、それらトップを目指す育成選手の数も変動する。

今、女子サッカーが目にとまるだろうか? 日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)、通称『XF CUP』の存在を知っているだろうか? その中に身を置く人々が自分たちの活動を知ってもらおうと行動することも、全体を俯瞰すると結果的に自らが関わっている領域に跳ね返ってくることだと、どれだけ当事者意識を持てるかは現在の女子サッカーにとって重要なことだ。

そこで、『XF CUP』に3年連続で出場した横須賀シーガルズJOY(以下、横須賀)の桑原由恵監督に話をうかがった。桑原さんは2月からクラブの代表も兼任している。指導者として、またクラブ運営者として女子サッカーへの溢れる思いを語ってもらった。

まず、今大会のことをどのように捉えているのだろうか?

「プレ大会を含めて3年続けて出場しています。クラブに所属するU-18の選手にとっては、唯一冬に開催される『JFA全日本U-18女子サッカー選手権大会』だけが目標となる大会でしたが、夏にもう一つ『XF CUP』が増えてモチベーションが上がりました。

監督としてマネジメントする上でも、夏に全国大会ができたことにより選手に対して何をするにも具体性が高まったことは間違いありません。とても魅力的で、私は代表としてクラブを運営する立場にもあるので、ここはすごく今大会の意味を感じています。本当に感謝しています」

女子は地域によって活動環境にかなり差がある。

「私たちは神奈川で活動しているクラブです。U-18の状況を説明すると、社会人県リーグ1部に所属しています。関東は女子チームがあるため、他の地域に先駆けていろんな試合環境を作っています。これまでは有志クラブが集まって関東プリンセスリーグを運営していましたが、2021年度からは『関東U-18女子サッカーリーグ』が設立され、クラブと学校が入り混じった環境になりました。

それぞれの都県で学校とクラブが1チームずつ選ばれるのですが、私たちは神奈川のクラブ代表として参加することが決まっています」

横須賀のU-18は神奈川県リーグ1部と関東U-18女子サッカーリーグに、夏の日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)と冬のJFA全日本U-18女子サッカー選手権大会を挟む形でシーズン・スケジュールを組んでいる。2013年からなでしこリーグ1部に所属する『ニッパツ横浜FCシーガルズ』と業務提携を行い、同一クラブ内としてクラブ申請をしている。実際に、横須賀シーガルズのあり方はどのようになっているのだろうか。

「私たちは『女性が一生涯サッカーができるクラブ』として、女性が『人生のどんな時でもサッカーする場所があるクラブ』を目指しています。現在はU-12、U-15(3チーム)、U-18、一般のチームを保有しています。管理は少し違いますが、横須賀シーガルズレディースというママさん中心のチームもあります。

小学生からシーガルズ一筋の選手、中学生からシーガルズに入って来てくれた選手、U-18(JOY)に上がる選手、高校サッカーを選択する選手、ニッパツ横浜FCシーガルズに昇格する選手、大学サッカーに所属する選手、社会人で働きながらサッカーをする選手、結婚をしてもサッカーをする選手、お母さんになってもサッカーをする選手、おばあちゃんになってもサッカーをする選手、そんな全ての人たちがサッカーを出来る場所・戻れる場所でありたいと思っています」

日本クラブユースサッカー連盟が主催するカップ戦『XF CUP』をどう活用しているのか。

「高校だと夏のインターハイ(全国高等学校総合体育大会)と冬の選手権(全日本高等学校女子サッカー選手権大会)があるように、U-18クラブユースでも夏の全国大会が設立されたことで冬のJFA全日本U-18女子サッカー選手権大会と合わせて、ようやく試合環境に差はなくなりました。

リーグ戦をこなしながら、夏と冬に緊張感の高い試合を経験できるのは助かっています。

男子は歴史を積み重ねるなかで非常に高い価値を持っていて欠かせない大会になっています。女子も、まずはやり続けることが重要だと思いますし、その中で地域差があるので、それをどう解消していくのかが課題だと感じています。

少し先の話ですが、秋に『.WEリーグ』が開幕します。きっとここに所属するクラブの下部チームならこの大会を経験してレベルをグッと高め、冬時期にはトップチーム昇格というような流れも出てくるはずです。代表レベルの選手を育成する環境としては『つながり』という意味でよくなっていくのかなと想像しています」

今大会は『.WEリーグ』への登竜門としてどんどん存在感が強くなっていくだろう。むしろそうならなければ女子サッカーの発展はない。横須賀はチームカラーが明確にあり、仲間とのつながり、戦うことを意識できる選手が多い印象がある。

「私も中高はこのクラブ出身です。その頃から変わっていない理念は『華麗で優雅なサッカー』をクラブとして目指していることです。流れるように細かいパスをつなぎながら、見ている人がアッと驚くゴールを決める。最後は無人のゴールにボールを入れるくらいのことを理想としています。

もう一つの理念は『女性が一生涯サッカーをできるクラブ』として環境を整えたいと思います。これまでは監督だけの立場だったのですが、2月から代表としてもクラブ運営に関わるようになったので、これからは両面からアプローチしていけたらという思いを持っています」

■コロナ禍の活動で気づいた休息と脳トレの重要性

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監督として選手に関わっていて、自分たちの頃と違いを感じることはあるのだろうか。

「現在のU-18はU-15から指導しています。長い選手だと4年くらいかな…中学の頃はちょっと抜いていたり、気分によるやる気であったり、サッカー以外の人間関係で悩んでいるのかなと感じることもありました。

私は、その場で少し気を引き締める意味もあって、直接言うようにしていました。

そういった積み重ねもあって、例えば『もうちょっとこのケースはプレッシャーに行こうよ』みたいなチームのスタンダードは上がってきました。今はそこに使っていた労力を別の場所に活用し、違う引き出しの提示ができるようになりました。戦術、質の高いテクニック、駆け引きなど細かい部分に対する問いかけができるようになったなと実感しています」

もう少し詳しく知りたい。

「私の恩師であり、このクラブを作った方から『華麗で優雅なサッカー』を教えてもらいました。今、教える立場になったときに自分の頭の中ではイメージがありますが、選手には伝わらなかったりすることも多々あります。

そこで、私は自分が実際に選手の中に入ってプレーしてみる手段をとっています。今のシーンは『横パスだよね』だとか言葉では伝えられない領域に対して感覚的な共有ができます。そうして繰り返しているうちに選手だけでできるようになってきました。

あとは、メンタルの問題です。気負ってしまったり、緊張してしまったり、気弱になってしまったり、勝者のメンタリティではないですが、うちの選手はもう少し自らを信じられるメンタルが持てるようになるともう一ランク上がるのかなと感じています」

女子の試合を継続して取材していると、精神的な調子によって随分とプレーの質が変わる。例えば、予選が3日間あるとして、毎日メンタルの調子によりできることが違う選手もいる。これはあまり男子には見られない傾向だ。

「その考察は、実際に監督として非常に感じるところです。例えば、JFAアカデミー福島、浦和レッズ・レディース、日テレ・メニーナなどトップ・トップは安定してプレーし、結果を残しています。私たちの選手でいうと『自信がない』『迷っている』ところが差として表れています。

私たちは立ち位置として高校でサッカーを止めるような選手もいますし、日本代表を目指す選手もいるチームでもあると自覚しています。もちろん意識の差はあるでしょうが、どこか立ち返れる場所としての存在価値があるのかな、と。U-15も同様の状況があるので、それぞれのチームの監督がそこを認識して取り組んでいけば、また変化していくのかなと思います」

このコロナ禍の一年間、どのように活動していたのか。

「2020年度は、コロナの影響は受けました。活動として『どこに基準を設けたか』は、まず学校に合わせて動いていました。幸いにも、関東には多くのクラブがありますので、情報交換をして情報収集しながら判断をしていました。

トレーニング施設については、東戸塚にある横浜FCが管理している場所を平日お借りしていて、感染予防対策をしっかりすれば使用できるとのことでしたので、私たちは恵まれていたと思います。もちろん緊急事態宣言中の活動はしていませんでしたが、解除後は徐々に選手のフィジカルの状態を見ながら通常運転に上げていった感じです。

活動休止期間は宣言中の3か月くらい。

この期間は、各監督が自宅でできるトレーニングをそれぞれのチームに合わせて提示していく流れでした。私が担当したU-18で言えば、自分が補わなければいけない部分のトレーニングを選手に考えて実戦させるような取り組みをしました。

これまではクラブが与える環境を作っていましたが、この期間は選手自身でこれまでの経験を応用して考え出すことに費やしました。これはU-15の選手たちにも少しずつアプローチしました」

コロナ禍だったから気づいたこともある。

「自粛明け、中学1年生の選手たちがすごく身長が伸びていました。U-15は週5で活動しています。この出来事を通じてサッカーだけじゃなく、他のこともやる必要性、休息の重要性をあらためて考え直しました。私にとっては大きなことでした。

「自粛明け、中学1年生の選手たちがすごく身長が伸びていました。U-15は週5で活動しています。この出来事を通じてサッカーだけじゃなく、他のこともやる必要性、休息の重要性をあらためて考え直しました。私にとっては大きなことでした。

U-18はプレー原則とまでは言いませんが、エリアごとに『どういうプレーを基準にするのか』をみんなで話し合いながらプレーのイメージを共有する時間を設けました。小さなグループにわけて話し、ビデオミーティングして整理しました。また、他にも『自分が監督だったらどうするか』などサッカー脳の部分にアプローチしたので、考える力が上がって活動再開後に役立ったと思います。

こうして話すことでアウトプットしていても、いつも現場に追われてしまうので全体を見渡すため、振り返るための時間配分は大事だなと、『今』言葉に起こしながら思い直しています」

ジュニアユース以降は体を動かすだけでなく、頭とか、サッカー外の活動とか、トレーニングの時間配分を少しだけ違う使い方に転換するだけで選手の価値観、プレーの捉え方に変化が起こり、いわゆる人間としても表現豊かなアスリートになっていくのではないかと思う。

「私も、例えばジュニアユースやユースの選手の骨密度を練習の刺激だけで高めるのではなく、上手に休息を織り交ぜながら高めていく育成をしなければいけないな、と感じています。

さまざまな研修を受けて専門家の先生から情報を得ていますので、自粛明けに中学1年生の選手たちの身長の変化を目にしたときに『本当だ』と驚きました。最近は、雨の日も活動を行うのではなく、中止にしてオフにあてたり、ミーティングに切り替えたりしています」

■代表として考える女子サッカーに必要なこと!

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クラブの代表としてコロナ禍の全国大会開催をどう思うのか。

「この1年間はみんなが我慢していましたので、選手たちが力を出し切ってこのチームとして終えたいという気持ちは理解していましたし、私も同じ思いでした。ニッパツ横浜FCと業務提携をしているのですが、クラブの運営は私たちが独自で行っていますので『出場するかどうか』の判断は自分たちが決断することでした。

当然、選手は未成年なので、保護者の同意が必要です。それまでの間にも自粛明けの活動再開にあたっては保護者とのやりとりをしてクラブ活動をしていました。少し意外だったのは、95%くらいは『ぜひ行かせてください』という意見だったことです。

むしろ私たちクラブ側の方が弱腰のところもあり、選手と保護者の方が覚悟を持っていました。だから、開催が決定した場合は『行かせていただく!』という答えを伝えていました。あのような社会情勢でしたので『JCYがどんな決断をしても、私たちは尊重します』とクラブ運営側は思っていました」

具体的に出場までどんな感染対策を進めていたのか。

「大会前の予防対策は、個々に『体温の計測を含めた体調管理をしてもらう』ことを取り組んでいました。気をつけたのは、体調が悪くなった場合にすぐに言いやすい雰囲気作ったことです。『それが悪いこと』『そうなったのがダメなこと』ではないからね、と言い続けていました。

会場までは移動がありますから、行動指針は示しました。マスクの着用、アルコール消毒、換気を行う…その時々で丁寧に言葉に出して伝える対応をとっていました。ホテル入りしてからも同じです。一人部屋にして、なるべく接触をしないように。女子なので『仲間としゃべりたい』『仲間と一緒にいたい』があるんです。

これまではそうでしたから。でも、今大会については『我慢だよ』と。『気持ちはわかるけど、クラスターが発生してからじゃ手遅れだから』と言って『そうなった場合、責任がとれないし、みんなが悲しむなら我慢しよう』と声をかけていました。

大会後はチームとしての活動が一区切りつくので、毎年1月いっぱいはオフです。心と体を休める期間にし、体調管理には気をつけてもらいました」

女性らしい細やかな配慮が効いている印象を受ける。チームのサッカーを見ていても、選手間の意思の疎通、共通理解の高いことが納得できる。

最後のテーマとして、桑原さんには代表としての立場で女子サッカーについて取材させてもらった。秋から『.WEリーグ』が開幕。ここからは女子サッカーの自立が問われる段階に入る。

「ここからは個人の意見として。『.WEリーグ』が立ち上げると聞いたときは『大丈夫かな?』と率直に思いました。ただ、身近にお付き合いしている方々の取り組みを目にして『本気』なのが伝わってきました。だから、『自分に何ができるのか』を考えて、もちろん『.WEリーグ』のためもありますが、女子サッカーのためになるのでいろいろと模索しているところです。

現状、クラブができることと言えば、女子選手がプレーできる場所を増やすこと。受け皿として機能することだと考えたので、2021年度より女子社会人チームを立ち上げ(復活)ました。なでしこ、『.WEリーグ』に入ならなければプレーできない。そんな環境では女子サッカーの発展もありませんから、一つのモデルケースになればいいなとスタートしました」

これは筆者個人の考えだ。

女子リーグは、やはり女性が中心になって歩んでいく場所となるべきである。もちろん働く環境としてはさまざまな人たちが混ざり合うことが普通ではあるのだが、世界中で『時代の過渡期を迎える』今だからこそ女性が創っていくことに意味があると考えている。

それは選手として、監督としての立場だけでなく、チームに、クラブに、女子サッカーに関わっている人たちが『客観的に見て浪費される』あり方にならずに、その費やした時間の等価交換が成り立つだけの報酬を手にできる環境、循環ができあがっていくことが重要だ。

Jリーグなど既存のあり方をマネしても、おそらく同じ問題にぶつかり、同じ課題解決をすることになり、そうすると男性との比較になってしまうため、女性を中心に新しい価値、場所を創り上げていくことができないのではないかと想像してしまう。

「ここも私個人の意見です。もう少しお金を生み出せないと難しいのかなと感じています。これは女子サッカー全体の話でもあります。例えば、サッカーの登録者人口は全体の10%もありません。そういう状態からお金が生まれるか、回っていくかと言えば難しいです。

私たちのクラブを支えてくださっている企業さんでも、気持ちで支援くださる方々はたくさんいらっしゃいます。ただお金が大きくなれば、気持ちだけで解決できない場合ができてきます。やはり女子サッカー全体を考えた場合、それなりのお金や情報が動かないと継続性が保てないです。

私自身も答えは出ていません。

例えば、日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)も、XF(エグゼフ)さんに支援していただいて成り立っています。この大会だけでなく、『めぬまカップ』や『インカレ(全日本大学女子サッカー選手権)』もスポンサーをされていて感謝しかありません。

企業さんの支援に対して『では、自分たちができることは何か?』を具体的に出せていないことが課題だったりするので、この点については一クラブの代表として日々考え続けています」

桑原由恵さん
▼横須賀シーガルズ女子代表兼JOY(U-18)監督

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1990年生まれ。神奈川県出身
中高と横須賀シーガルズの下部組織に在籍し、選手として『なでしこリーグ』でもプレー。引退後、指導者としてクラブに戻り、後進の育成にあたる。日本サッカー協会A級U-15ライセンスを取得。現在はニッパツ横浜FCシーガルズのアシスタントコーチも務めている。

座右の銘=自分が変われば、世界が変わる
好きな物=ビールと餃子

【ぜひ一緒に女子サッカーを応援しましょう】
#女子サッカーを盛り上げ隊
#第2回日本クラブユース女子サッカー大会U18
#XFCUP

Presented by 『XF(エグゼフ)』
エグゼフは、Creative(創造)、Technology(技術)、Culture(文化)をテーマとしてフットボールにあらゆる価値を融合させ、進化を捧げるブランドです。

#XF3rduser
#スポンサーメディア

取材=木之下潤
写真=橋立拓也
協力=日本クラブユースサッカー連盟

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