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女子が選べるクラブへ【XF CUP 2020/スポンサー応援型サッカーメディア】

■女子にとってクラブという選択肢が増える意味

1月に前橋市で『第2回 日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)』、通称『XF CUP』が開催された。

本来は、夏のU-18女子クラブチームの日本一を決める大会だが、2020年度はJFA主催の『全日本U-18 女子サッカー選手権大会』と重なったことで、大会には各地域のDivision2に位置するチームが出場することになった。こうなった原因は明確で、新型コロナウイルスの影響にある。

大会の意味は少し変わってしまったが、これが好影響を生んだ。

それは、岩手の水沢ユナイテッドFC・プリンセス(以下、水沢UFCプリンセス/東北代表)で起こった。実は、1月の段階では、チームに高校生が1人しか在籍しておらず、ほぼ中学生で構成されていた。

ここは14年前に女子チームを立ち上げ、選手の在籍数で言うとジュニアユースが多数を占める。東北地域の強豪クラブとして位置づけられるため、中学から高校に上がる段階では、ほとんどの選手が強豪高校に進んでサッカーを続ける。

しかし、たった一人が高校生になってもクラブの道を選んだ。

クラブも、この子がサッカーをできる環境を必死に作った。偶然にも1月の『XF CUP 2020』がDivision2に位置するチームが出場することなったため、今大会を経験した結果、当時中学3年生だった選手が『クラブでサッカーを続けたい』と、4月からはユース選手が5名になった。

そこで、水沢UFCプリンセスの佐藤訓久監督に話を聞いた。

「女子の環境は関東が盛んです。地方のチームは、私たちのように高校生が少ないなかで戦うことになるので苦しい試合になることはわかっていました。2年前にU-15が初めて全国大会を経験したのですが、関東のレベルの高さ、環境の整備の状況に驚きました。

例えば、東北だと宮城の常盤木学園、聖和学園を目指す子が多く、レベルの高い選手は中学から県外に出てプレーする子もいます。これは男子も同じですが、クラブから強豪高校に人材が流出しているのが現状です。

今大会を経験してみて、やはりプレーの質に差はありました。でも、やろうとしているサッカーでは差を感じていませんし、関東のクラブと同じだと思いました。選手数とその質に違いはありましたが、驚きはありません。その差を縮めるためにも、私自身がもっと指導力を高めなければいけないと考えています」

女子を前提とした話だが、同世代が集まるチーム同士での試合、そういう条件で判断すると平等ではない。もちろん社会人以降はカテゴリーがなくなるのだが、育成期の成長環境としては同世代の試合経験が多い関東、関西が今のところ有利なのは間違いない。

ただ水沢UFCプリンセスにも才能ある子はいた。
そして、選手たちはのびのびプレーしていた。

「私はマンチェスターCのサッカーが好きで、よく試合を見ています。うちのクラブもポジショナルプレーを目指していて、ボールを保持し試合を支配するようなサッカーに取り組んでいます。

クラブの指導コンセプトは『プレイヤーズ・ファースト』『リスペクト・アザーズ』『ステディ・グローイング』です。

きっと高校生同士で戦えたら、もう少し太刀打ちできたかなと思いますが、さすがにチームに高校生1人は厳しかったです。うちのジュニアユースの多くは県内の強豪高校に進んでいきます。ただ、それはそれでいいことだと捉えていますし、ネガティブには感じていません。

嬉しい誤算だったのは、今大会に出場した中学3年生の3名がユースでのプレーを希望してくれたことです。4月からは高校生が5名の状態で活動できることになりましたので、1月の全国大会は大きな意味を持てたのかな、と。

実は、チームのキャプテンで、唯一の高校生だった子がクラブに残る選択をした数年前に、私もクラブの在り方を考え直しました。

クラブは選手にとっていろんな選択肢を作る一つでないといけないし、そういう選手を受け入れる場所でなければならないと思ったのです。当時は、その子のために動きました。今大会は、本人も『経験できてよかった』と言ってくれています。きっと『だから下の世代の選手が選んでくれた』と理解しています」

JFAの公式ホームページ上に掲載されているサッカーの登録者人口に目を通すと、女子の登録者数は減っている。

そのあたり、東北のクラブはどう感じているのだろうか?

「2011年以降、一時期は『なでしこブーム』があって選手の数が増えていました。でも、最近は減りました。女子の人口は激減しています。その頃、高校や大学のチームは増えたんです。でも、今は成り立たなくなってきて、チーム自体が減りました。岩手のことですが、以前はU-18世代で十数チームがありましたが、現在は5チームくらいしかありません。

地域で上位のチームにとっては『.WEリーグ』ができて環境が整っていっていますが、下位のチームは追いついていない印象です。

だから、うちのクラブは『もう一度、普及をがんばろう』とスクールを強化し始めました。地方は中学生になると選手集めが大変になります。トップリーグの環境を整備するのもいいのですが、個人的には下のカテゴリーに目を向けた活動を見直す時期だと感じています」

例えば、ジュニアを見渡すと登録が4種という種別で一区切りのため、地域のチーム活動を見ていても女子選手の数は増えた。だが、実際には「女子だけで活動したい」選手も存在するため、総体的に増えたかどうかはわからない。

「4種でいえば、男子と混ざれない女子もいます。うちがスクールを開いたのも、その部分をフォローする必要性を考えたからです。岩手も他と同様、ジュニアユースはチームが少ないです。女子の選手人口も減っていて、うちのチームに入ってくる選手も年々少なくなっています」

東北地域で200名近い選手数を誇る水沢ユナイテッドUFCでも、女子はジュニアユースの在籍数が年々減っているそうだ。しかし、これは選手人口だけの問題ではない。最近の子どもは、チームスポーツが人数を必要とするため、個人スポーツを選択することが増えている。

「東京オリンピックの影響なのか、マイナーだけど、上を目指せる競技がたくさんあることを知った子どもたちが、他のスポーツを選んでいるのかなと感じたりします。最近は、ボルダリングなど個人で楽しめる競技がいっぱいありますから、選手がいろんな競技に分散している気がします。数年前に岩手国体があり、県内にいろんな競技が普及したこともあって、どこの女子サッカーチームも選手が減っていると思います」

これは都市部では感じにくい部分かもしれない。確かに人数が集まらないとプレーできないチームスポーツより、気軽に一人でプレーできる個人スポーツの需要は高まっている。もちろん子どもたちにとって選択肢が多いことはいいことだ。

■強豪チームと定期的に試合をする環境は大きい

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少し東北エリアのコロナ禍のサッカー活動についても情報を得たかった。1月の第2回大会は、まさにその中での活動を余儀なくされた。

「岩手は感染が少ない地域でしたので、関東へ遠征に行くことに抵抗がなかったかと聞かれたら抵抗は多少なりともありました。本来なら大会が開幕する1週間前から関東入りし、合宿をして万全で臨みたかった。しかし、今大会は感染対策を考慮して県内で準備を進めました」

この1年の活動状況はどうだったのだろうか。

「岩手は感染が少ない地域でしたので、県外に出ず、県内の活動は行っていました。女子についてはU-15東北女子サッカーリーグ、東北女子サッカーリーグが始まる予定でしたが、コロナ禍の影響で中止になり、試合数は激減しました。違う見方をすれば、他の地域に比べると恵まれた方だったのかもしれません」

県外への遠征はなくなったが、考えようによってはクラブが掲げるサッカーに集中できる環境になった。

「クラブが目指すサッカーで判断すると、2020年度のチームは非常に完成度が高かったです。あとから気づいたことですが、試合に追われる日々から解放され、練習に集中できる環境になっていたからなんだと思いました」

チームの完成度が上がらないと強豪チームと渡り合えない。

現状の育成年代を見渡すと、特に強豪チームは試合に次ぐ試合で、練習を通じてチームの完成度を高める時間が少ない。チーム内でイメージの共有、共通理解が進まない状態で試合結果だけを受け止めているので、育成という側面から見ると悪循環に陥っている側面もある。

しかし、女子は種別ごとの試合環境がまだ整っていない。

「確か東北だけが女子の地域リーグがなく、昨シーズンの2020年度からU-15東北リーグと東北リーグがスタートする流れだったんです。ようやく始まるタイミングで新型コロナウイルスの感染が拡大していきました。この女子の東北リーグについては5、6年前から話があって、『やっと願いが叶う』というタイミングだったので、とても残念な思いをしました。

でも、両方とも4月から無事に開幕することが決定したので楽しみです(※新型コロナウイルスの影響で、試合のスタートが延期になったそう)」

やはり拮抗した試合経験、またガツンとやられる経験も育成期には必要だ。そういう意味では、水沢UFCユナイテッドは『XF CUP 2020』でそういう経験ができたのではないだろうか。

「2年前、女子は初めてU-15の全国大会に出場しました。初戦は日テレ・メニーナと対戦しましたが、大差でやられてしまいました。ただ日本のトップ・トップとの力の差を肌で感じられたことはよかったです。

でも、東北では全国の強豪と試合をする環境が圧倒的に少ない。

マイナビ仙台レディースとは試合をしますが、もっと上のレベルと日常的に試合する環境にはありません。そういう環境を作らないと全国大会に行ったとき、驚くだけで終わってしまいます。普段から経験できていれば変化を感じられます。

だから、『県外へ遠征し、強いチームとの試合経験を積まなければならない』と。

1月のU-18の全国大会でも感じましたが、『慣れる』と自分たちの力を出せるシーンはたくさん作れます。日常的な経験がないと驚きだけで終わるので、先につなげることが難しい。『慣れ』は自分たちの力を出すキーワードだなとあらためて実感しました。

だから、東北リーグで強いチームと試合できる環境はありがたいです」

水沢UFCプリンセスは東北地域の強豪クラブだ。天井を突き破ることが期待されるクラブだからこそ強豪との試合経験によって得られるものに気づいた。まだ女子の育成は発展途上段階にあるため、確かに『慣れ』は大きい。

「『第2回 日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)』の予選3日目は日体大FIELDS横浜U18と対戦しましたが、私たちは得点差ほどの実力差があったとは思っていません。チャンスも数多く作れていましたし、選手も引かずに戦っていました。きっと彼女たちの中で感じるものがあったのだと思います」

■ジュニアから社会人までつながるクラブの意義

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日本の育成年代の選手にとって全国大会は特別な場所だ。

間違いなく選手を強くする何かがあり、思い出も強烈に残る。もちろん全国大会によるデメリットがある事実も忘れてはならない。ただし、すべて判断するのは選手自身であり、また『大人が悪用しない』という条件がつく。

実は、水沢UFCプリンセスのある選手が東北地域予選後に病気になり、サッカーができなくなってしまったという。

「1月の全国大会には帯同したので、最後の試合だけでも一緒に戦わせたいとベンチに入れました。本当ならプレーさせてはいけないのですが、本人が『どうしても試合に出たい』と言ってきたので、ロスタイムだけ交代してピッチに送り出しました。とても迷いましたが、ずっと同じ釜の飯を食ってきた仲間でしたので、感情的な思いを優先してしまいました」

きっと、みんなと全国大会で着たユニフォームは忘れられないだろう。

「今回、日本クラブユースサッカー連盟を通じて今大会の出場チームに対して『ユニフォーム提供企画』いうXFさんの企画の話をいただいたとき、すぐ手を挙げました。幸運にも私たちが選ばれ、そのおかげでいい思い出が作れました。

デザイン決めはすべて選手に任せました。

そこは女子ですね。全員であれこれと盛り上がっていましたから、私自身もかなり思い入れがあります。今はもうあのユニフォームを着て試合をしています。XFさんのユニフォームは『薄くて軽いのでプレーしやすい』と選手たちは言っています。きっと軽さが動きやすさに通じているんでしょうね」

水沢ユナイテッドFCは総合型のサッカークラブを目指している。

ジュニアから社会人まで各カテゴリーでチームを作り、選手が安心して地元クラブでサッカーができる環境を作りたいという。しかし、サッカークラブの運営は簡単ではない。地方は人口減少の影響を受ける。基本、会員費で経営を回しているサッカークラブにとって苦しい台所事情があり、支援企業を募る動きも活発化している。

「支援企業を探す動きは私たちもしています。昨年から企画書を作成し、営業を始めました。男子の社会人チームにはスポンサーさんがいますが、育成カテゴリーはこれまで考えたことがありませんので、少しでもクラブに興味を持ってくださるなら考えていきたいです」

昨今は、資本主義も再定義されるような時代だ。これまではモノの豊富さによって社会価値が計られていたが、今は精神的な豊かさも求められるようになり、最近ではSDGs(持続可能な開発目標)がうたわれるようになった。

これはサッカー界も例外ではない。企業とクラブの間にも「ただお金やモノだけで動き、支援する支援される関係を持つ」のではなく、互いに心の結びつきをもって一緒に成長できる関係づくりが図られている。

「私たちも地元にそういう企業さんがあれば、ぜひ何かをやってみたいです。東北ではトップクラスの選手在籍数だと思いますし、現在200名近い選手がいます。企業と一緒にスポーツの価値を示すことはできるんじゃないかな、と。

現実的な話をすると、東北リーグで各県を回っていると経費がかさみます。正直、苦しい部分もありますので、支援企業については具体的に動く時期だと感じています。

今、大事にしたいのは女子の社会人チームです。実は、東北にはマイナビ仙台レディース以外に純粋な女子の社会人チームがありません。私たちは純粋な社会人チームとして参加したい思いがあります。

なぜならすべては環境だと考えているからです。

男子には、社会人になってもサッカーをプレーできる環境がありますが、女子には社会人チームがないのでプレーができません。うちは女子の社会人選手を10名抱えているので、選手が活躍できる場所を作ってあげないと下のカテゴリーからの流れを整えられない。ぜひ、ここに対して支援していただける企業があったらうれしいですね」

クラブがジュニアから社会人まで各カテゴリーにチームがあってつながっている環境はとても大きい。

日本のサッカークラブは総合型ではないため、育成観点で言えばカテゴリーごとで完結してしまっていることがほとんどだ。誤解を恐れず書き綴ると、あまりにその範疇での結果を求めすぎるから歪んだ価値観や考え方を生んでしまっている。

どのあり方が正解か不正解かを問いたいわけではない。

うまいか下手かだけでサッカーを続けるかどうかを選ばなければいけない環境だけでなく、下手でも好きだからサッカーを続けられる環境も増やしていかなければ、『プレイヤーズ・ファースト』という理想は実現できないのではないかと思っているだけである。

「私が実感しているのは、総合型クラブだと指導者が循環するメリットがあるんです。うちの男子はジュニアから社会人までチームがつながっているので、クラブで育った選手たちが指導者として現場に立っています。この循環ができあがっているから、クラブがうまく回っています。

女子もそうしていきたい!

だから、社会人チームに力を入れているんです。お母さんになってもプレーできる環境があって、子どもが生まれたらクラブで一緒に活動できれば素敵ですよね。指導もできればいい。女子もあと一息がんばれば、男子のようないい循環ができそうなので尽力していきます」

クラブ文化とは何か?

佐藤さんとの取材はこのテーマについて考えさせられた。サッカーに関わる一人ひとりにいい環境を作ることが、日本のスポーツ文化にそのままつながる。そう思う。

みなさんはどう考えるだろうか?

佐藤訓久さん
▼水沢ユナイテッドFC総監督兼プリンセス監督

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岩手県奥州市出身/父の影響で小学校5年生から水沢ユナイテッドFC・イースト(当時、水沢東サッカー少年団)でサッカーを始める。高校入学時に県内初の高校生年代のクラブチーム(水沢ユナイテッドFC・ユース)を立ち上げてプレー。大学は筑波大学蹴球部。その後、東北社会人リーグでサッカーを続けながら水沢ユナイテッドFC・プリンセスを創設。2012年にNPO法人シチズンスポーツ奥州を設立し、水沢ユナイテッドFCを傘下に加え、総合型スポーツクラブへ。

【ぜひ一緒に女子サッカーを応援しましょう】
#女子サッカーを盛り上げ隊
#第2回日本クラブユース女子サッカー大会U18
#XFCUP

Presented by 『XF(エグゼフ)』
エグゼフは、Creative(創造)、Technology(技術)、Culture(文化)をテーマとしてフットボールにあらゆる価値を融合させ、進化を捧げるブランドです。

#XF2stuser
#スポンサーメディア

取材=木之下潤
写真=橋立拓也
協力=日本クラブユースサッカー連盟

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