東北の女子が考える進路【XF CUP 2020/スポンサー応援型サッカーメディア】
■チームとして課題を感じていることは何か?
女子サッカーと言っても、一括りで語れるものではない。
関東と関西、大都市と地方では環境が大きく異なる。ひと言で表せば「競技者人口の違い」となる。チーム数の違い、カテゴリーの違い、ほとんどのサッカー情報は男子が中心のため、女子サッカーの環境は関係者を含めごく一部の人間しか数字を伴って想像することができない。
JFA内部ですら、詳しく把握している人が少ないだろう。
筆者自身も日本クラブユースサッカー連盟(以下、JCY)の女子委員会のミーティングに参加し、どのエリアにどのくらいのクラブチームがあるのかを知った。当然、学校が管轄する中体連、高体連の詳しい情報は知らないため、全体とまではいかないが、大枠としてはイメージを持っている。
残念ながら内部情報のため、外に出すことはできない。その代わり、このサッカー応援型スポンサーメディアを通じて各地域(※JCYの女子委員会は全国を9地域で構成している)の状況を発信していきたいと考えている。
そこで、1月に群馬県前橋市で開催された『日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)』、通称『XF CUP』に東北代表として出場した岩手県の『水沢ユナイテッドFC・プリンセス』(以下、水プリ)に取材協力をお願いした。監督の佐藤訓久さんの記事は4月29日に配信させていただいたので、今回は選手の声を届けたい。
キャプテンの佐藤はるかさん(当時高校2年生)、副キャプテンの猿ヶ澤よつばさん(当時中学3年生)に話をうかがった。
――まず、『XF CUP 2020』に出場した感想はいかがですか?
佐藤さん「予選リーグ3試合を通してチームはどんどん良くなりました。いいサッカーができて楽しかったです。ある程度、いい状態で全国大会に挑みましたが、それでも通用しないことがたくさんあって、次につながるいい経験ができました」
猿ヶ澤さん「高校生と試合するのは東北予選以来でした。3試合も戦えたのはいい経験になりました」
――チーム、個人としてできたこと、できなかったことを教えてください。
佐藤さん「チームとしては決め切るところを決めないとあれだけの差が出るんだなと感じました。関東との差は決定力だな、と。個人的には、判断のスピード、切り替えの早さ、頭の部分でもっとスピードを高めてプレーできるようにならないといけないなと思っています」
――どのポジションでプレーを?
佐藤さん「ボランチです」
――ご自身では、ポジションでの働きをどう評価されていますか?
佐藤さん「関東のチームは寄せが早くてボールを失う場面が多かったです。もっとプレーの精度、早さを高めることが必要だと思いました」
――猿ヶ澤さんは自身のプレーをどう判断されていますか?
猿ヶ澤さん「チームの課題は、はるかさんの言うとおり得点力です。特に流れの中の得点が少なく、CKなどのセットプレーが多かったです。そこは流れの中でゴールを決め切れないと勝ちには結びつけられないですし、課題だと思いました。
個人では、ボールを奪い切る部分です。関東などレベルの高いチームに対しては『寄せるだけ』だと足りていません。東北だと寄せるだけで十分に対応できることが多いですが、関東地域のチームだとプレッシャーにならないんだな、と。
東北地域のスピードに慣れているから、全国の強豪チームと対戦するとその差に気づかされます。ボールを奪い切る部分はチームの攻撃にも関わるところなので、そこをもっとがんばりたいと実感しています」
――どちらのポジションでプレーを?
猿ヶ澤さん「左サイドハーフです」
――ボールを奪い切ると言っても、寄せ切る部分がありますし、体を当て切る部分もあります。今、そこに対して練習の中で工夫されていることはありますか?
猿ヶ澤さん「例えば、寄せ切った結果、ルーズボールになることがあります。そのときに体を当て切ること、ボールとの間に体を入れ切って自分のボールにすることなどを意識して練習しています」
――お二人が課題に挙げた『流れからゴールを取ること』。それは、個人の力だけで表現できるわけでもありません。チームとして得点を奪う場合、どのようなイメージを持っていますか?
佐藤さん「ボールを奪った後に縦に素早くボールを進めることも、相手がそろっている状態を崩していくことも、自分たちはある程度のところまでいけるけど、その先のペナルティエリアまでしっかりと侵入していかないと決め切る確率を上げられません。もっとペナルティエリアの中で自分たちがボールを持ってプレーすることを目指さないといけないのかなとイメージしています」
猿ヶ澤さん「パスの質を上げること。ゴール前でボールを奪われる回数を減らすこと。そこで奪われてもすぐに取り返して次のプレーにつなげていくことが大事だと思っています。うちのチームの前線には足が速く、足下のテクニックに優れた選手が多いので、そういう選手を生かすためにもゴール前でボールをつなぐことはチームとして重要なポイントになるんじゃないかなと考えています」
――今大会は関東2チーム、北海道1チームと対戦しました。他の地域のサッカーに触れてみてどう感じられましたか?
佐藤さん「どちらにも言えるのですが、一番の違いはスピードだと感じています。特に関東のチームはそのスピードの中で精度の高いプレーができるので、そこがすごいと思います。北海道のチームもスピードこそ関東より劣りますが、精度は自分たちより上でした」
猿ヶ澤さん「関東チームは一つひとつのプレーの質が高く、例えばボールを奪いに来るタイミングがつかめなかったりしました。北海道のチームは守備が堅かったです。自分たちがボールを保持できる時間が多かったですが、得点を取り切れなかったので、どちらも戦い難い感覚でした」
――その感じている違い、戦い難さを解決するために自分たちはどうすればいいと考えていますか?
佐藤さん「練習でしか埋められないと思うので、意識して取り組むしかありません。例えば、簡単なパス&コントロールにしてもパス、トラップ、スピード、精度、一つひとつにこだわってトレーニングしなければいけないと思います」
猿ヶ澤さん「普段の練習から、お互いに削り合うとまではいかなくても、試合に近いプレッシャーを作ることが大事だと思います。ボールを奪う部分、声を出す部分、遠慮せずにチーム全員が戦えるような選手を目指すところも重要だと考えています」
■東北の女子選手は自分の環境をどう感じている?
――少しプレー環境について話を聞かせてください。関東と東北では、女子のサッカー環境に違いがあります。選手人口、チーム数に差があるため、現状は仕方ない部分もあります。だからこそ全国を経験されると違うことも見えてきたと思います。率直に、一人の女子選手として東北のサッカー環境をどう感じられていますか?
佐藤さん「関東に比べてチーム数が少なくて、練習試合をするとなっても同年代でなかったり、男子のチームだったりするので、同年代のチームとの試合は少ないです」
――佐藤さんは出場したタイミングでは、チーム内で高校生1人だったんですよね。岩手のエリアだとサッカーを続ける場合、強豪高校に進むことが一般的です。なぜクラブチームを選んだのですか?
佐藤さん「このクラブでサッカーをすることが中学生の頃から楽しかったですし、のりさん(監督)だったからです」
――私は選択肢としてチームの数と同じくらい、指導者もたくさんあるべきだと考えています。佐藤さんの意見を聞いて嬉しいです。猿ヶ澤さんは4月から高校1年生ということで、クラブを選んだそうですね。理由は何だったのですか?
猿ヶ澤さん「勉強を優先したいと思っていました。私たちが住む地域で、サッカー部がある私立だと勉強よりサッカー優先という学校です。サッカーは好きで続けたいと思っていて、水プリの活動も好きでしたし、『勉強しながらここで続けたい』とクラブを選びました。もちろん大変だと思いますが、水プリにも残りたいなと思ったので、進学校を受験してこの人生の進路を決めました」
――実際にご自身たちが進路を選ぶにあたって、どのくらいの選択肢があったのか。岩手の事情を教えていただきたいです。
佐藤さん「私の場合、関東という選択肢は考えていませんでした。宮城か、地元の強豪私立校か、クラブかの3つでした」
――クラブを選ぶにあたって1人の状況はわかっていたと思います。不安はありませんでしたか?
佐藤さん「多少はありましたが、一つ下に『クラブに残るかも』という後輩がいたので、『まあ大丈夫かな』と」
――なるほど。猿ヶ澤さんは「勉強を優先してどうサッカーを続けるか」という選択肢を考えたわけですね。
猿ヶ澤さん「一つだけ、サッカー部がある公立高校もありました。でも、部員の人数が足りていなくて試合をすることが難しい状況でした。普段の練習も水プリの方が質が高いですし、私は『進学校+水プリ』という選択肢に決めました」
――お二人とも、ありがとうございます。
■全国大会のユニフォームには思い出がいっぱい!
――話は変わりますが、今大会は『ユニフォーム提供企画』の話が舞い込んだと思います。どうでしたか?
佐藤さん「とてもおもしろかったです。急に監督から新しいユニフォームが作れると聞いて嬉しかったです」
――選手の中でどんな話し合いがされたんですか?
佐藤さん「最初にコーチからいくつかの案を提示されました。その中で自由に決めていいということだったので、みんなでワイワイ騒ぎながら決めました」
――キャプテンからの流れがあったと思いますが、ワイワイ選ぶ側として猿ヶ澤さんはどうでしたか?
猿ヶ澤さん「はるかさんがセンスのいい案ばかり出してくれたので、その中からみんなで投票していくという感じでした。すごく盛り上がって楽しかったです」
――監督に話を聞くとチームカラーが赤黒と白黒だったので、選手にはデザイン決めを任せたということでした。何種類くらいから選んだのですか?
佐藤さん「最終的に候補として絞ったのは、赤白5種類ずつです」
――結構多いな(笑)。では、それぞれ投票したわけですね。
2人「うん、うん(うなずく)」
――全国大会のユニフォームは思い出に残ると思います。新しいユニフォームに対して思い入れがありますか?
猿ヶ澤さん「5番という番号がサッカー人生で初めて着けた番号でした。最初は違和感しかなかったんですが、今は5番でよかったというか、思い出深い番号になりました。好きな番号になったし、思い出がつまっています。うちは学年が上がるごとに背番号が一桁へと若い番号になっていくシステムなので、来年は後輩に託したいです」
佐藤さん「新しいユニフォームで全国大会に出場できたのはとても新鮮な気持ちでした。いいモチベーションで臨めました」
――ちなみに、ユニフォームの着心地はどうでしたか?
猿ヶ澤さん「長袖だったのですが、風通しが良くてプレーがしづらい感じは全くありませんでした。しかも、軽かったのでよかったです」
佐藤さん「私も着心地がよく、肌触りもいい感じでした。パンツも合わせて軽かったので、とてもプレーしやすかったです」
――今回、全国大会を経験できました。また、あの場所に立ちたいという気持ちが湧いていると思います。4月から新にチームとして取り組んでいること、個人として取り組んでいることがあればお願いします。
佐藤さん「冒頭にお伝えしたことと重なるのですが、やはり決定力は上げなければいけません。個人的には、全国の舞台でもフィジカルは十分に通用していたので、ここをもっと高めていきたいなと考えています」
――今年の目標は?
佐藤さん「チームとしては全国大会の出場はもちろん、今年は東北リーグがスタートしますので、ここで優勝して一部に昇格することです。個人的には、国体のメンバーを目指しています」
猿ヶ澤さん「はるかさんが言ったとおり、チームの課題は得点力だと思いますし、そこまでの崩し方などは今練習しているところです。個人的には、パスの質を上げることです。全国で通用する選手になるのは、パスミスとかでつまずいている場合ではないので、この部分は当たり前としていいタイミングで、質の高いボールを出せるように意識してやっていきたいと感じています」
――最後に、お二人の将来設計の中にサッカーが入っているのかを聞きたいです。
佐藤さん「今年、高校3年生なのですが、大学でもサッカーをプレーするつもりです。大学卒業してからもサッカーは続けたいと思うし、水プリには帰ってきてサッカーをプレーしたり関わったりしているOG(女子の先輩)がいるので、自分もそうなれたらいいなと思っています」
猿ヶ澤さん「サッカーを仕事にするのは難しいと思うのですが、そうならなくてもサッカーを続けたり、少しでもサッカーに関わっていけたらいいなと思います」
キャプテン 佐藤はるかさん(高校3年生)
副キャプテン 猿ヶ澤よつばさん(高校1年生)
▼水沢ユナイテッド・FCプリンセス
【ぜひ一緒に女子サッカーを応援しましょう】
#女子サッカーを盛り上げ隊
#第2回日本クラブユース女子サッカー大会U18
#XFCUP
Presented by 『XF(エグゼフ)』
エグゼフは、Creative(創造)、Technology(技術)、Culture(文化)をテーマとしてフットボールにあらゆる価値を融合させ、進化を捧げるブランドです。
取材=木之下潤
写真=佐藤博之
協力=日本クラブユースサッカー連盟
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