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女子にはU-15設立が急務【XF CUP 2020/スポンサー応援型サッカーメディア】

■女子サッカーにとって全国大会の開催は大きい

サッカー界は徐々にクラブ文化が根づきつつある。

男子は、中体連や高体連といった学校単位の大会以外に、クラブも主役なれる大会、またリーグ戦が整備されつつある。これは選手に選択肢を与える意味では大きい。それぞれが管轄する選手登録者人口の関係もあるが、男子はすでに学校とクラブが融合する大会やリーグもあるため、今後サッカー界として競技者人口がガタ落ちするような現象は想像しにくい。

一方、女子サッカーは男子に比べると環境が整っていない。

女子は中学校に上がると、学校でもクラブでも活動する場所が極端になくなる。また、都市圏から離れるほど活動の場がないのが現状だ。県単位でも、高知県はジュニアユースチームが3つしかないと聞いたが、これは他の地域も大差はない。

ジュニアの間は、登録が男子と同じ種別になるので「活動しよう」と思えばプレーする場所、選択肢がある。

しかし、中学に上がった瞬間に女子は登録が大きな枠組みになり、同世代と試合をする環境が一気に減る。男子は中学(ジュニアユース=3種)、高校(ユース=2種)、社会人(1種/最近はシニアもある)に分けられているが、女子はすべて一括りだ。

これは選手登録者人口が女子全体として少ないため、各年代で分けるとチームが作れず、試合や大会を行うことが困難になるから一括りにして補填できるような状態を作っている。

ちなみに、4種でも「男子とプレーするのが怖い」と女子だけの活動を望む子もいることは付け加えておく。

そこで、日本クラブユースサッカー連盟(以下、JCY)は女子の競技者人口を増やす目的と既存の選手のプレー環境をより良くするために2019年から『日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)』を正式に開催した。

実は、2015年から『JCYレディースサッカーフェスティバル』として前身となるようなプレ大会はあったが、種別を設けてクラブ単位で正式にスタートしたのは、2019年からとなる。

JCYの理事で、女子サッカーの環境を整備するために奔走している女子大会委員長の根岸誠一さんに話を聞いた。

U-18年代の選手はほとんどが高体連のチームに所属しています。高校の部活に所属している選手たちは夏のインターハイ(全国高等学校総合体育大会)と冬の高校選手権(全日本高等学校女子サッカー選手権大会)があり、年間スケジュールが充実しています。

一方、クラブはチーム数が限られているうえ、同年代で戦う全国大会はJFAが主催する『全日本U-18 女子サッカー選手権大会』しかありません。そのため、クラブに残ってもプレーする選択肢が非常に少ない環境にあります。生まれ育ったクラブでプレーしたいと思っても活動が盛んではないため、やむを得ずに地元を離れてプレーをする選手も多いのではないでしょうか。

クラブに所属する選手にとってU-18年代の試合が増えれば、女子チームの数も増えるのではないかと考えています。

「以上が、2019年に『日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)』を立ち上げる際、JCYの菅原宏理事長が文書として各所にお送りした内容の一部です。

今大会は日本サッカー協会(以下、JFA)ともコミュニケーションをとるなか、『JCYでもU-18年代の女子の全国大会が開けないか』という話もあって2018年の夏に開催したプレ大会から女子の種別化への本格的な挑戦が始まりました」

目指す目標がない。

選手の立場からすると「いくらクラブが大好きでも試合ができない環境では選びようがない」のが率直な意見だ。JCYもプレ大会を重ね、女子サッカーについて各地域の現状を把握しつつ慎重に議論を重ねた結果、2019年から種別化に向けて具体的なスタートに踏み切ったのだろう。

「私が2018年のプレ大会から関わって感じるのは、U-18の大会ですらU-15年代の選手が多く出場していることです。やはり、この年代は高校に流れているんだな、と。技術的なものについては高いと思っています。

とにかく試合に対して、サッカーに対して飢えている感じがあり、選手たちから『試合がしたい』という思いが伝わってきたのが印象的でした。

大会後、出場チームのアンケートに目を通すと『フレンドリーマッチを行いたい』という意見を多かったです。これは大会を開催してわかったこと。特に関東以外のチームから『1試合でも多く経験したい』という思いがくみ取れました」

それを受けて、2019年の『第1回 日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)』は予選敗退チームも多く試合が行えるように、順位決定トーナメントという形を取り、全チームが6試合を経験できるレギュレーションにした。

「第1回大会のレギュレーションは、女子委員会で『選手が自分たちの現在地を知るためにも順位付けに意味があるのではないか』という話がまとまりました。予選リーグでは、関東とそれ以外の地域で力の差がありましたが、選手たちは試合を諦めずにプレーしていました。予選終了後は上位トーナメントと下位トーナメントに分かれ、力が拮抗した戦いになったので各チームとしては非常にいい経験になったと感じています」

■女子は種別がなく、中学から社会人まで一括り

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現在、女子は地域によってレベル差があるのは否めない。

しかし、これは過去を振り返れば男子でも起こっていたこと。例えば、U-12の全国大会を取材していても競技者人口の差によって生じる地域のレベル差は未だにある。ただ指導レベルの向上により、最近ではそれも差がなくなりつつある。だからこそ現段階において女子は都道府県単位ではなく、もう少し区域を広げた『地域リーグの整備』が競技環境の向上を目指す上では重要になる。

ここで問題になるのが「どの組織が管轄して運営していくのか」だ。

「男子では、日本クラブユースサッカー連盟(JCY)という存在が認識されていて機能しています。でも、女子はまだ周知されていないのが現状です。しかも女子はU-12以降、U-15だろうとU-18だろうと社会人だろうと登録が一つに括られている状態です。

だから、『大会を開くために、わざわざJCYにチーム登録費を支払って出場するなんて二重登録と同じでしょ』という言われ方もしています。現時点では、JCYから各地域、都道府県に理解をしてもらえるように働きかけていかない限りは、なかなか難しいという印象です」

男子はJCYが自ら主催する大会を作り、「クラブ文化を浸透させよう」と年月をかけて尽力してきた。それで『今』がある。JFAと手を取り合って学校部活ではなく、地元のクラブで選手が育つ環境を作りたいと活動を続けてきた。その結果、U-15以降も地元クラブでサッカーを続けることが常態化してきている。

しかし、女子はJCYに対して懐疑的なクラブもまだ多い。

「関東は有志という形で、2013年から『プリンセスリーグ』が実施されています。

ただ聞いたところによると2チームが試合をした場合、そのチームがグラウンドを借り、必要経費は折半して支払うようです。

これが男子だと種別化され、U-15なら中体連なのかクラブなのか、U-18なら高体連なのかクラブなのかの登録が明確になっているため、管轄がはっきりしていてリーグ運営がスムーズに進行できます。

女子はそのあたりのすみ分けが難しく、リーグを運営するにしてもその時期に『どの試合を優先するのか』を含め、まだ整備されていないことがたくさんあります。

結局は種別登録の話に集約されていくと思うのですが、『女子のU-15、U-18についてはJCYに登録してください』となるとリーグ運営もこれまでのノウハウを生かしてスムーズに、各クラブがプレーに専念できると思いますし、クラブ文化して根づいていくと考えています。

やはり同世代が切磋琢磨する環境づくりを考えると、登録カテゴリーのすみ分けは避けて通れない課題だと感じています。

私も女子に関するさまざまな会議に出席しますが、女子は4種から社会人まですべての議題について話し合わなければなりません。しかし、出席している方々も自クラブは例えばジュニアユースだけだったりするので、全カテゴリーのことを把握して意見することは大変です。男子ではあり得ません」

この種別とクラブの関係については、個人的にジャーナリストとして記事を発信する立場としてよく思う。

私自身はジュニアからプロまでを取材しているため、ある程度は全体を把握した上で、例えばジュニアの課題を指摘するのだが、読者からすると自分が関わる、興味があるカテゴリー(≒領域)に置き換えて記事を読み、感じた意見をSNSなどで配信しても論点がズレていることも多い。

そういう意味では、一人ひとりがもっと他のカテゴリーとのつながりを持つ、興味を抱く必要がある。

「女子が良くないといっているわけではありません。男子とは違い、女子は一本化されているからこそ風通しが良くて変化に対応できるいい部分もあります。

そこを残しながら種別を設けた環境づくりを行っていかないと、現状は高体連以外に所属する選手の活動環境が良くなっていきませんし、サッカーが一部のためのものになってしまいます。

ある意味、女子競技者人口が増えないのもそこが課題の一つだと実感しています」

■日本クラブユース女子サッカー大会U-18の意味

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現状、女子の競技者人口を考えるとジュニアは男子と括り、ジュニアユース以降は社会人まで登録を一本化しないと、特に育成年代の選手たちが試合経験を積めない状況にある。

男子では考えられないだろうが、女子の場合、大会要項として種別に『ただし書き』を設けないと出場するチームすら生めない現状がある。

例えば、日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)も1月の第2回大会の大会要綱を読むと「高校生が1名以上ベンチ入りしていること」という一文が記載されている。

サッカー好きも、サッカー関係者も、女子に関わっていない人々はこういった事実を知らないだろう。

「秋から『.WEリーグ』が開幕します。きっと選手人口も増えていくでしょうから、私たち女子サッカー関係者が今やるべきことは選手に選択肢を増やしてあげることが大事だと思うんです。ただ、JCYに登録しても出場できる大会が一つしかありませんので、クラブ側にとってもメリットは感じ難い部分は、私もクラブを持つ人間として理解できます。

男子は登録チーム数が多いため、各地域の大会運営にしてもJCYからの還元金によってやりくりできていますが、女子は加盟数が少ないのでそこまでの配慮が難しい部分があります。これは男子も同じですが、U-15の登録チームが増えていかないと結果U-18へとつながっていかないため、女子も『U-15のチームをどうやって増やしていくか』は今後の課題になるはずです」

1月に取材した高知と岩手の女子チームの監督は、県内にU-15のチームが5つもない現状を語っていた。選手の立場からするとその段階でレベルの高い選手に選択肢はあるが、「好きだけど、サッカーには自信がない」という選手にとっては続けられる環境がない。

もしクラブに受け皿があったら…。

岩手の水沢ユナイテッドFC・プリンセスの佐藤訓久監督は「女子もサッカーを続けられる環境を考えて、私たちは総合型のサッカークラブを目指しています」と話をしてくれた。チームがない。それが一番大きな課題だ。

しかし、チームを作る、クラブを立ち上げることは口で言うほど簡単ではない。

「栃木も女子はチーム数が少ないです。U-18については0(ゼロ)。やる気のある指導者がチームやクラブを立ち上げてくれたらいいのですが、コロナ禍もあって時代的に難しさがあります。

ただ少し視点を変えると、トレセンには女子も選手数が結構います。あくまで個人的なアイデアですが、各地域のトレセンで女子チームを作っていただき、試合経験を積む場をJCYが提供する場を作るのも一つの方法です。

JCY主催大会も高校の2ndチームや3rdチームの出場は認めていませんが、女子の場合はOKでもいいのかな、と。それこそ強豪校にいて試合に絡めない選手がいるなら、現段階では特例で試合経験を積む受け皿としての機能を果たしてもいいと感じています。

とにかく女子選手がプレーする場が増えないことには選ぶ段階にまで進みません」

時代が大きく変化し、スポーツもアスリートも多様なあり方が問われ始めている。

ポジティブに捉えたら、『.WEリーグ』は今秋から開幕し、女子サッカーの育成と普及も今から積極的に取り組める。モチベーション次第だが、個人的には良くも悪くも『ブルー・オーシャン』だと思う。男子にはない仕組みを作ることが可能だし、大会のスポンサー集めもあまり制限なく挑戦することができる。

例えば、一つのアイデアだが、クラウドファンディングを活用してチームを立ち上げ、支援者とサブスクリプション型で応援する関係を構築して運営していくことも今の時代なら不可能ではない。

少し話が本筋と離れてしまったが、1月に群馬県前橋市で開催された『第2回 日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)』(XF CUP 2020)はさまざまな発見があった。

JFAが主催する『全日本U-18 女子サッカー選手権大会』と重なった関係で、大会自体は各地域のセカンドレベルのチームが出場する大会になった。しかし、こういった選手たちは他の地域のチームと試合をする経験が少なく、今大会の試合をきっかけにサッカーへの意欲が高まったようだ。

東北代表の水沢ユナイテッドFC・プリンセス(岩手)は1月時点でU-18カテゴリーに属する選手が1名だったが、2021年度はU-15の選手5名から「U-18でプレーしたい」と希望があったという。

これはクラブ関係者ならどれだけすごいことかがわかるだろう。

■JCYの挑戦が女子サッカーの育成・普及につながる

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関東ではレベルの高いチーム同士が定期的に試合を行う『関東プリンセスリーグ』が存在する。ただ女子サッカー全体で考えると、それより「レベルが下がるチームが試合経験を積む場、あるいは目標となる場所をどう作るか」がサッカー人口、選手層を増やす課題になる。

「日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)の主催者の一員として言えば、今大会は開催するか中止するかの決断が一番難しい部分でした。決めてからはもちろん感染対策を練ったり気を遣うところはありましたが、コロナに対して一人ひとりが1年くらい経験があった上でのことでしたので、大会期間中は注意喚起しながらチェックすることに集中できました。

出場チームについては私の立場で言葉にすると変な受け取られ方をしてしまいますので、そこは了承の上で話させていただきたいのですが、JFA主催の『全日本U-18 女子サッカー選手権大会』と重なったことで、日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)自体は各地域の『Division2』が集まるような大会になりました。

ただ、そういうチームが異なる地域のサッカー、チーム、選手に触れる経験になったことは結果的に良かったと感じています。実際に女子委員会の各9地域の代表と話をすると『ぜひ次もやってほしい』という声をいただきました。プレー経験の場という意味では、私たちも女子選手に選択肢が増やせる手段が持てたかなと思っています。

未定ですが、夏の『日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)』はDivision1としてインターハイ上位チームとU-18チャンピオンを決める大会の位置づけにし、冬はDivision2のための大会として継続していこうかということが持ち上がっています」

目指すべきは、女子サッカーが自立していくことだ。

ここに中体連だとか高体連だとかJFAだとかJCYだとかは関係ない。『プレイヤーズ・ファースト』と主張するなら、政治的なもの、既得権益的なもの…関係なく、「選手のために何ができるのか」を中心に大会やリーグ戦を創成していってほしい。

混ざりあうこと、多様性を受け入れること…言い方こそいろいろあるが、そこに多くの縛りを設けないことが『今』は重要である。

「JCYは、女子については許容範囲を広げて柔軟に対応しています。しかし、全国大会は大きな経費がかかり、お金が動くため、現実との照らし合わせをしなければいけません。出場チームにしても、予選3日と順位決定戦まで含めると6日間の滞在になるので、それだけ費用はかさみます。保護者、クラブへの負担がありますから、そこは冷静に進めています。

アンケートの要望に目を通すと着替え、また食事などについては多数の意見がありました。男子とは違い、女子は配慮すべき点があります。そういう部分も日本クラブユースサッカー連盟(JCY)は一つひとつ対応しながら選手のために環境づくりを行っていますし、もちろん自分たちの経験知としても蓄積をしています」

今大会から大きく変わったことの一つは「JCYが自費でメディアに投資していること」が挙げられる。私はそれを提案し、SNS担当として大会、そして、女子サッカーの認知を高める活動を行っている。

なぜJCYに対してメディアへの投資をプレゼンしたのか?

それはスポンサーとの関係を深め、女子選手がプレーできる環境に対して継続的に協力してもらう仕組みと関係を構築したかったからだ。実は、公式メディアで撮影した写真は連盟だけでなく、選手、クラブ、スポンサーも使うことができるようになっている。

「日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)は自費メディアを持つことになりました。そのおかげでメインスポンサーになってくださった『XF』様が契約を継続してくれる結果になりました。私たちもメディアを身近に感じられるようになりましたし、活用方法を少しずつ学べています。メディアを通した情報によっていろんな人たちと会話が増えましたし、連盟内でも互いの距離感が近くなった気がします」

女子だから挑戦しやすいことはある。

逆に男子ではできないことは多い。JCYは自らの投資をもってそれを経験し、選手のために奔走し続けている。根岸さんは最後にこう語った。

「女子だから、JCYだからできることはたくさんあります。私たちはそこに挑戦していかないと存在意義を示すことができません。これからも時代の多様性を受け入れて、クラブとも、スポンサーとも、ファンとも一緒に歩んでいけたらと思っています」

根岸誠一さん
▼日本クラブユースサッカー連盟理事

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栃木県でサッカーに出会い、宇都宮学園高校では全国高校サッカー選手権大会に出場し、ヨーロッパ遠征メンバーに選出された。卒業後は本田技研に入社し、サッカー部を続けるも同部がJリーグへの参加を見送ったため、ジーコが在籍していた住友金属サッカー部へ移籍。U-21日本代表候補に選ばれるなど活躍したが、ケガの影響で1993年のJリーグ開幕を前に退団し、指導者への道を歩む。現在はチェルト栃木・FCアネーロ宇都宮の代表を務め、日本クラブユースサッカー連盟の理事としてサッカー界の発展に尽力する

【ぜひ一緒に女子サッカーを応援しましょう】
#女子サッカーを盛り上げ隊
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Presented by 『XF(エグゼフ)』
エグゼフは、Creative(創造)、Technology(技術)、Culture(文化)をテーマとしてフットボールにあらゆる価値を融合させ、進化を捧げるブランドです。

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取材=木之下潤
写真=佐藤博之
協力=日本クラブユースサッカー連盟

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