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誤読者より

拝見しました。内容に関しては残念ながら同意できないところが大半を占めますが、当初は「今後直接相手にすることはない」としていたにもかかわらずこの議論を一歩前進させてくださったことに感謝しています。発表でも申し上げたとおり、この批判によって太刀川さんになにかアクションをとっていただくことは難しいと考えたため、興味のある人・読んだ人への注意喚起を主眼においていました。そのため、太刀川さんが改訂に前向きであることは望外の喜びです。
以下に、建設的な対話にむけて、私からお願いできればと思うこと、ご協力できないこと、ご協力できることについてまとめました。「別にそんな手伝い全く求めてないんだけど…誤読しないでほしいだけなんだけど…」となるかもしれませんが、そのときはそのときです…。

意見書

まずは、意見書(現時点でのオリジナル、学会に提出されたものに近いと思われる7/13の魚拓)を取り下げていただかないことには対話もへったくれもあったものではないので取り下げてください(2022-11-11追記:7月末から非公開になっていましたが、今確認したところ、撤回されていました。ありがとうございます)。私はこの本を例のWeb3の本の騒動のように回収せよ、撤回せよと迫っているのではなく、科学的に妥当な形に書き直してほしい、そうでなければ進化学との関連をなくして独立の発想法としてほしいと申し上げているので、できればせめて同じくらいのトーンでの応酬をお願いしたいです。

理解

ざっとしか確認できていませんが、「みんなでつくる改訂表」にいくつか指摘リストで提案した変更が反映されているのを嬉しく思っています。ただ、梗概で申し上げたとおり、ご著書の抱える問題はいくつかの表現を改めれば解決する類いのものではありません。多くの方が指摘されているように、またご自身も認めているように、ご自身の知識不足が根本の原因だと思います。明らかな誤植はともかく、本書の主旨のなにが問題かわからない知識レベルの著者と編集者が取捨選択して改訂を試みられても正直なところあまりみのりはないのではないでしょうか。そのため、本そのものの改訂を急ぐのではなく、まずはもう少し基礎を勉強してみてはいかがでしょうか。私も基礎がおぼつかない身ですので言えた立場ではないのですが、急がば回れといいますし…。その過程でなにかわからないことなどがあれば(私でわかる範囲だとよいのですが)お尋ねいただければ理解をお手伝いします。私が推奨した本に関してもすでにお読みになったとのことですが、もう一度自らの考えを疑いつくすつもりで読んでいただければ幸甚です。その際に、「どうやったらこの考えを実務に応用できるか」は一旦脇においておき、現象を知りたい、という気持ちで読まれるのがよいのかなと思います。著書でご説明されているとおり、残念ながらそのようなすぐに使える応用はいくら探してもないためです。

対話

ある程度共通の理解を両者がもっていることが想定できる状態になってはじめて、おなじコンセプトについて議論ができるようになると思います。たとえば「『進化思考』の書籍はさらに進化します」というふうに進化という専門用語を使う方と、進化についてお話することは難しいと私は感じています。「系統樹には、不変の願いが流れつづけている」という表記を「 系統樹には、根源的な願いが流れている」とすればよりよくなると考えている方と、系統樹について議論することは難しいと私は感じています。このような用法で進化や系統樹という言葉を使い続けたい・このような用法のまま書籍を改訂したい場合は、私にお手伝いできることは残念ながらありません。その場合は、幸いこのような用語・概念の用法に問題を感じない「進化生物学者」のご友人がいらっしゃるようですので、同じようなお志を持つ方にお願いするのがよいかと思います。

改訂

もしわれわれの指摘の理論的な裏付けがのみこめて、たとえば上記のような用法は害が益を上回るとご理解いただけたなら、他の批判者の方々の意向は存じませんが私はぜひ本書の改善に協力させていただきたいです。そのころにはわたしたちが発表した指摘リストはおそらく8-9割くらいは受け入れていただけると思いますし、これだけ指摘箇所があれば当然発生するであろう同意できないところや、我々の進化理解の乏しさに起因する記述に関して建設的な、そしてデザインと進化の関連にとって有益な議論ができるのではないかと思います。その日にまたご連絡いただくのを楽しみにしております。

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