私立大学の経営について 〜その2〜

皆さんこんばんは。

前回に引き続き、私立大学が他の組織や国立大学とどう違うのか、について会計基準の特殊性をキーにしつつ、もう少し述べてみたいと思います。

高度経済成長期の日本では、私立大学が高等教育(高校卒業後に受ける教育、という意味での)機関に占める立ち位置は、(量的拡大を支える基盤という意味で)事実上の中心的なものになっていました。一方で各私立大学の財政状況は芳しくなく、もはや公的支援は必要不可欠となってきた背景から、国庫を投入するためのアカウンタビリティ対応として『学校法人会計基準』という極めて特殊な基準が生まれた、というのが前回のおさらいです。

さて、私立大学に対する補助金は、文部科学省の予算を「日本私立学校振興・共済事業団」という団体が配分しています(この配分のための審査と執行状況が適正であるかの検査が、同団体の主業務です)。以後、私学事業団と略しますが(業界では一般的にこう呼ばれています)、補助金配分以外に、私学で働く教職員の共済・年金組合という重要な業務も担っています。

補助金の算出方法とは

私学事業団HPで全て公開されています。が、まぁ読む気になりませんよね(笑)。これを公表しているからって、社会に対して、納税者に対して何の説明責任を果たせているんだろう、という疑問はあります。

噛み砕くと大まかに以下のような基準です。

①経常経費の1/2を上限として補助します。

②教職員と学生の人数を用いて各種計算を行います。

③教職員の給与や福利厚生費を経常経費とみなします。

④教育研究にかかる経費を経常経費とみなします。

⑤学生の厚生補導にかかる経費を経常経費とみなします。

⑥教員の研究にかかる旅費を経常経費とみなします。

一応、僕の専門分野なんですが不安になってしまうくらい、かなり大まかにバキバキ噛み砕きました。後日訂正するかもしれません・・・が大筋は外していないハズです。

で、上記の③〜⑥の金額の根拠というのは、会計基準によって経理処理された数字です。ここで簿記や企業会計の知識をお持ちの方だと「?そんなのどうやって算出するの?」とお気づきになるかもしれません。

補助金算定のための特殊な計算書 〜資金収支計算書〜

特に④や⑥がネックです。「教育研究にかかる経費」や「研究にかかる旅費」をどうやって判別するのか?そのために学校法人会計基準では、これらを区分するための特殊な計算書、「資金収支計算書(しきんしゅうしけいさんしょ)」というものが生み出されました。なるべくシンプルで、かつ良い例を探していたら国際基督教大学(ICU)さんに行き当たりました。

2ページ目支出の部をご覧いただくとわかりやすいかと思います。勘定科目名が左寄せされている大区分で「人件費支出」「教育研究経費支出」「管理経費支出」というように区分されているのがおわかりいただけますでしょうか。そう、この区分で金額を拾っていけば、補助金算定のための経常経費はわかるのです(大雑把に、ですが。実際はもう少し細かく見ていく必要はあります)。

更に「教育研究経費」と「管理経費」をよく見ていくと、その下層では同じような科目群(消耗品費、光熱水費、福利費・・・)が並んでいるのが確認できます。これはどういうことかと言いますと、私立大学では(学校法人では)例えば同じエンピツ一本を買っても、それが「学生さんや教員が授業で使うもの」なのか、「総務課の職員が使うものなのか」で、どっちの消耗品費になるのかを区分せよ、ということなのです。めんどくさー(笑)。

ここで管理経費に区分されたものは、国からの補助金の対象にはなりませんよ、という仕組みですね。国が大学に期待しているのは、学生さんに対する教育ですよ。その教育の質を高めるための研究ですよ。そのためなら補助金出しますよ、と。職員が出張しまくって京都で遊んでたり(笑)、高いパソコン買ったりして、それで財政悪くなっても知りませんよ、と。

極めて理にかなっておりますなぁ。

しかし全てが理想どおりにはいかないのが世の常。前述した基準の概要の①に戻ってみましょう。

1/2補助されたことは一度たりともない

皆さん、該当のビラ配りや大学構内の貼り紙等で「日本の教育に対する公財政支出は・・・」「OECD加盟国では・・・」なんて文面を、ご覧になったことはありますでしょうか?

ソースは毎年、OECDが公表するリポート(OECDインディケータといいます)で、文部科学省のサイトにもOECD本体へのリンクがまとめられています。これを元ネタとして、毎年のように「日本は国の教育投資が少ない」として署名活動を行う団体等があります。実際には、このレポート(そんなに難しい英語ではないので、ご関心のある方は熟読をお勧めします)での比較はそれほど単純ではなく、例えばOECD加盟国間でも学年の考え方や、公的支出の範囲等には微妙な差があるため、一様に比較して良いものかという議論もあります。それと、初等教育から高等教育までまとめた数字になっていますので、詳細は細かい分析を読む必要がありますし、昨年度から高等教育の無償化等の制度も始まっていますので、今後どういった数字になるかは推移を見守る必要もあるでしょう。

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