凱旋門賞の直線はとても長いという話と2012年オルフェーヴルの話

何かと有名な2012年の凱旋門賞。勝ったのは僅差でソレミア(現地12番人気)
現地&日本1番人気のオルフェーヴルは最後にかわされて2着に惜敗となりました。
これは「スミヨン騎手の仕掛けが早すぎた騎乗ミスであり、オルフェーヴルの癖を知っている主戦の池添謙一騎手なら勝てていた」と競馬ファンにはよく言われてますし、最近ではオルフェーヴルの調教師やスミヨン騎手本人からも騎乗ミスを匂わすような発言がありました。私もそう思っていました。

オルフェーヴル残り300m時点で勝つどころか圧勝するのではと感じさせるほどの手応えで外から持ったまま、するすると上がっていき、先頭に立ちます。
そして200m時点でも十分な手応えで突き放し、このまま栄光のゴールへと進むのでは?と思わせたところで、残り100mほどのところでソレミアが迫ってきて残り50mのところで捉えられ負けてしまいます。

これを見ると先頭に立ったところで内に刺さり、気を抜く癖があるオルフェーヴルの仕掛けをスミヨン騎手が50mでも遅らせることができていれば、勝てていたのでは?と思わせます。
しかし、日本の中継映像でアップになった所でも分かるように、スミヨン騎手は先頭に立った後も必死に追い続け、鞭を打ち続けています。
勿論、それでもオルフェーヴルが気を抜いたのを止められなかったという可能性もあるのですが、今年も凱旋門賞の開催が近づいてきて、過去の凱旋門賞の映像を見ていると気がつくことがありました。
凱旋門賞の最後の直線はとても長く感じるということです。


1999年2着のエルコンドルパサーも逃げの戦法をとったからというのもありますが、残り300mくらいのところでは勝つのでは?という手応えで突き放し、残り200mくらいのところでもまだ粘るものの最後の最後、残り150〜100mくらいのところでモンジューに捉えられ、惜敗してしまいます。

2006年3位入線失格のディープインパクトも残り300m付近では手応え十分かのように先頭に立ち、残り200mでもまだ勝ち負けを狙えるように見えるのですが、そこから失速し、1頭だけでなく2頭にかわされ仮にドーピングで失格にならなかったとしても完敗という結果になってしまいます。

日本馬だけではなく、凱旋門賞を連覇し、世界史上最強馬最有力候補の1頭に数えていいほどの名馬・エネイブルでも、連覇を達成した2018年のレースで、残り300m地点で先頭に立ち、残り200m地点ではその後は突き放す一方…かのように見えるほどの手応えだったのですが、残り100m付近でシーオブクラスがまるで2012年のソレミア、1999年のモンジューかのように迫ってきて、なんとか僅かに残して押し切るのですが、あわやというレースになってしまいます。
見事連覇を果たすものの、もし同じレースを何回も繰り返すことができるなら何度か負けてしまいそうな、完璧とは言えない、不安が残るレースにも見えてしまいます。

その翌年、エネイブルは史上初の3連覇を目指して凱旋門賞に出走し、前年と同じように残り300m地点から抜け出し、残り200mでも十分な差と手応えで勝利を目前とするものの、残り100m地点からヴァルトガイストの強襲を受け、前年のゴール前の不安を再現するように惜敗してしまいます。

このように、凱旋門賞の最後の直線は残り200mどころか100m地点で勝ちそうに見えても全く安心できません。

一方、1997年の凱旋門賞を圧勝したパントレセレブルは残り約300m地点で先頭に立ち、約200〜150mくらいから突き放し続けて圧勝しています。
パントレセレブルの鞍上は2012年ソレミアの鞍上でもあるオリビエ・ペリエ騎手で、パントレセレブルを自分が乗ったことがある中での最強馬候補に挙げていて、「2、3歩でトップスピードに達することができる瞬発力」を高く評価していました。
ですが、このレースでは日本競馬的なビュッと抜け出してそのまま突き放す瞬発力というよりは長時間トップスピードを維持することで、それがバテ始める他の馬との差になって現れたという形に見えます。
ただ、この年の凱旋門賞は良馬場で当時のレコード決着の時計が出るような(ロンシャンにしては)高速馬場だったので、現地の馬にとっては最後までバテずにいられるような状態だったとも言えるのかもしれませんが。


2021年のクロノジェネシスも、残り300m地点での手応えの割には200mまではそれなりに粘って、善戦あるか?と思える程度に頑張っています。
しかしそこからずるずると下がっていってしまうのを見ると、最後の100~200mにバテるかバテないかの差が大きく表れるように思います。

こうして見てると、最後の100mで迫られ、惜敗してしまった2012年のオルフェーヴルは騎乗の問題や、気を抜いたせいでまさかの逆転を喫したというより、単純に最後にバテてしまって順当にやられた可能性も高いのではと思えてきました。

凱旋門賞の最後の100mは本当に長い。
道中の上り坂と重い芝で体力が削られるので、起伏の激しいコースと欧州の重い芝に慣れていない日本馬にとっては特にその影響が大きくなり、最後の最後にバテてしまうのです。

逆に言うと、2010年のナカヤマフェスタは他の日本馬と違って最後の最後までバテずに粘り続けての2着で、着差も最小ですが、展開的にも最も惜しかった凱旋門賞だったのではと思います。



2022年の凱旋門賞も近づいてきましたが、タイトルホルダーが逃げるにしても、ドウデュースやディープボンド、ステイフーリッシュらが差してくるにしても、最後の最後まで油断しないこと、最後の最後まで諦めないことが大事だと思います。
タイトルホルダーはやはり早めに仕掛けたくなるでしょうし、その勇気はなかなか出ないかもしれませんが、日本と同じようには行きません。
気持ち仕掛けを遅らせることで最後の最後のバテ我慢粘り勝負に勝つというのが理想なのではと思います。

逆にドウデュースもダービーのように残り400~300mくらいで手応え十分に上がってきて先頭に立ち、残り200mで突き抜けるような走りを目指したくなるかもしれませんが、それでは手応えがよく見えてもオルフェーヴルのように最後の50~100mでバテて後から来た馬にやられる可能性が高いように思います。
ダービーのように最後の200mに体力は残せません。イクイノックスみたいな馬が後ろから来たら今度はもう一伸びでしのぐことはできないでしょう。
手応えが良いなら尚更ソレミアやモンジューのように最後の100~150mで前を捉えるような走りがいいのではと思います。

まあ、タイトルホルダーやドウデュースらがそんな想像を超える馬で、早めの仕掛けから突き抜ける圧勝を見せてくれる可能性もありますし、余計なお世話ですが。

現地でも評価が高いタイトルホルダーはもちろんですが、2012年にオルフェーヴルを破ったソレミアは現地でも人気薄でしたが最後に強襲し勝利を掴みました。
同じく現地で人気薄になると見られるドウデュースやディープボンド、ステイフーリッシュが最後に強襲を見せて1着になるという展開があってもおかしくないはずです。
そのためにも、最後の最後まで期待ができる走りが見たいですね。

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