ばら色ではない「中国モデル」─労働者からの視点(2011年10月)
経済規模が日本を超え、いずれ米国を上回るだろうといわれる中国。その体制は「中国モデル」として内外で称賛の声があるが、実態はどうであろうか。自画自賛が多い当局者や海外で有名ブランドを買いあさる富裕層ではなく、普通の労働者の立場から見ると、実態はあまりばら色とは言えない。
■「iPad」生産の実態
香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストが最近、米アップルの人気商品であるタブレット型多機能携帯端末「iPad(アイパッド)」の製造・販売コストに関する米大学の調査結果を伝えた。
この調査によると、1台399米ドル(約3万8000円)のアイパッドからアップル自身は150ドルの利益を得る。部品メーカー(韓国、日本、ドイツ、台湾、米国)と小売り業者の取り分はそれぞれ88ドル、75ドル。中国本土での組み立てコストはわずか8ドルで、全体の2%弱しかない。工場労働者の賃金が安いからである。
アイパッドが中国広東省深セン市などの工場から米国へ輸出されれば、中国の対米輸出額が増えるが、もうかるのは主に外国企業。工場労働者の賃金は近年、かなり上がったとはいえ、今でも月給は千数百元(1元=約12円)というケースが多い。深センのような大都市では、会社の寮に住まなければ生きていけない水準だ。
■月給1万8000円
中国政府が発表する平均賃金は調査対象が限られているため、水準が実際より高くなっている。深セン市内で商店の店員募集広告を見ると、月給はだいたい1500元(約1万8000円)で、工場労働者と同水準。ファストフード店で時給制のアルバイトをしても、フルタイムで同じぐらいの収入とみられる。
国家統計局のデータ(2009年)によれば、「農民工」と呼ばれる農村出身の出稼ぎ労働者は全国で約2億3000万人。中国経済の中枢である珠江デルタ地区(広東省中心部)と上海市を中心とする長江デルタ地区にはそれぞれ3300万人、2800万人もいる。
その多くの収入状況は上記の工場労働者や店員のようなレベルと思われる。都市部出身者にも同じような境遇の労働者がおり、農村部の収入水準が都市部よりはるかに低い。だからこそ、出稼ぎ者が多いことなどを考えれば、全国にはこのような労働条件の就業者が億単位でいるとみられる。しかも、農民や農民工については社会保障制度が完備していないという問題もある。
中国では近年、マイカーやマイホームが急速に普及。しかし、農民工らが乗用車を買うのは難しく、1平方メートル1万元以上もする都市部の住宅は一生縁がない。
「全体の絶対的収入水準がどんどん上がっているのだから、総じて言えば、うまくいっている」という見方もあるが、人間の感覚は相対的なものだ。経済が発展すればするほど、社会の不満が蓄積するということもあり得る。「中国モデル」の真価は高度経済成長の維持ではなく、弱者に目を向けた社会の調和を目指す努力の成否によって問われることになろう。(2011年10月25日)