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「ポスト習近平」は49歳の胡春華氏か─党大会で政治局入り(2012年11月)

 第18回中国共産党大会で40歳代の若手二人が党指導部の政治局に入った。胡錦濤国家主席(前党総書記・前中央軍事委員会主席)直系の内モンゴル党委書記・胡春華氏と温家宝首相系で吉林省党委書記・孫政才氏で、いずれも49歳。胡春華氏が胡錦濤主席と同じく共産主義青年団(共青団)出身の党官僚、孫氏が農学者出身で前農相という経歴からみて、現行の政治体制と人事ルールが変わらなければ、習近平総書記(軍事委主席)が引退する2022年に胡春華氏がその後任となり、孫氏は来年春に首相となる李克強氏(現副首相)の後を23年に継ぐことになりそうだ。
 
■胡錦濤主席の政治的妥協
 
 党大会前の駆け引きで最高指導部の政治局常務委員人事は二転三転。結局、江沢民前国家主席ら長老や引退年齢に近いベテラン幹部に配慮して、江前主席派寄りの保守的な布陣になった。また、胡錦濤氏は総書記だけでなく軍事委主席も辞め、中国共産党のトップとして史上初めて完全引退を決めた(国家主席は来年春に退任)。
 一方、常務委員以外の政治局員や中央軍事委員の人事は明らかに胡主席が主導。この結果、17年の第19回党大会までは派閥均衡の指導体制が続くが、同大会以後は胡主席派が優勢となる見通しになった。
 新指導部が発足した11月15日付の日刊紙「香港経済日報」は以下のように指摘した。
「共産党筋によると、胡錦濤の『完全引退』決定は事実上、江沢民の影響力拡大に対処するものだった。胡は(1)過去に要職に就いたことがあろうがなかろうが、退任後は絶対に政治に介入してはならない(2)軍事委主席を含め、今後は引退を先延ばしにする人事は絶対に認めない─と強調した。つまり、彼は自分が完全引退することにより、引退した老人による政治介入に終止符を打ち、習近平に最後で最大の政治的遺産を残した。
 ただ、胡の譲歩の背景には江との政治的妥協があったとのうわさもある。江は第18回党大会人事に強力に関与し、新しい政治局常務委員の大半は江沢民系の保守派になった。胡は代わりに、世代をまたいで胡春華を第6世代のリーダーに指名し、政治局や地方トップは共青団派(胡錦濤派)が主導することになった」
 
■「小胡錦濤」の異名
 
 胡春華氏は1983年から97年にかけて、チベット自治区で共青団委員会の副書記、書記などを歴任。胡錦濤主席も88年から92年まで同自治区党委書記(自治区指導部トップ)を務めており、胡主席にとって、胡春華氏は共青団の後輩であると同時にチベット時代の部下でもある。胡春華氏は同世代で胡主席に最も近いと言われ、「小胡錦濤」の異名があるほどだ。
 胡春華氏が党官僚として20歳代から共青団のエリートコースを歩んできたのに対し、孫氏はトウモロコシ栽培の専門家から官僚に転じた。温家宝首相率いる国務院(内閣)が、北京市党委秘書長から農相に抜てき。09年、胡春華氏と同時に、閣僚より格が高い省レベルの党委書記に昇進していた。
 中国の官僚は通常、40歳前後で局長、50歳前後で次官になれば、同世代の出世頭なので、40歳代で閣僚級以上の高官になるのは極めて異例の昇進である。
 胡春華氏は近く、経済規模が全国で最も大きい広東省の党委書記に、孫氏は薄熙来氏の失脚で揺れた重慶市の党委書記に栄転するとみられる。北京、上海、天津、重慶の直轄市(省レベル)と広東省の党委書記は事実上、他の省レベル党委書記より格が高く、政治局員が務めることになっている。
 
■5年後に常務委入りか

 「67歳なら留任可能、68歳は引退」という内規が維持された場合、今回新たに政治局常務委員となった60歳代の5人は第19回党大会で全員引退する。常務委員7人体制が変わらなければ、同大会で新たに常務委入りするのは5人。この5人は原則として現在62歳以下の政治局員から選ばれる。
 年齢とキャリアからみて、17年以後の政治局常務委は習近平、李克強の両氏のほか、政治局員から常務委員への昇格が今回見送られた李源潮(前党中央組織部長)、汪洋(広東省党委書記)の両氏、次世代を担う胡春華、孫政才の両氏らが入る可能性が大きい。
 もっとも、人事をめぐる党大会政局は毎回、「サプライズ」がある。第17回党大会(2002年)では次期総書記候補が胡錦濤派の李克強氏から江派が推す習近平氏に代わり、第18回党大会では胡錦濤派の李源潮、汪洋の両氏が常務委入りできなかった。もし第20回党大会(22年)で胡春華氏が総書記になれなければ、将来を見据えた胡錦濤主席のこれまでの妥協人事は無駄だったことになる。(2012年11月20日)

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