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谷内内閣官房参与の「尖閣」発言に中国側猛反発─香港で日米中の民間安保対話(2013年1月)

 「中国は1971年まで領有権を主張していなかったのに、今や力ずくで主張している。国際秩序に基づくルールを破る行為と言わねばならない」―。尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題に関する谷内正太郎内閣官房参与(元外務事務次官)の主張が読み上げられると、会場はシーンと静まりかえった。
 中国人や香港人の出席者の表情は一様にこわばり、日本人や米国人も含め約200人の会場は緊張した雰囲気に包まれた。香港中心部の会議展覧センターで1月20日開催された日米中民間安全保障対話の一幕である。
 
■国有化後初めての意見交換
 
 この対話を主催したのは香港の中国系団体「中華エネルギー基金委員会(CEFC)」。中国の石油会社を経営する葉簡明氏が主席を務め、中国軍との関係が密接といわれる。
 対話は2012年1月から米中間で行われていたが、今回は特に日本の元政府・自衛隊幹部や専門家を招き、3国間の対話となった。尖閣問題で日本側の考えを見極めたいという中国軍の意向を反映して、日米中の民間対話が設定された可能性がある。12年9月の尖閣国有化で日中関係が悪化してから、関係国間でこの種の意見交換が行われるのは初めてだ。
 中国からの主な出席者は元中国国防大学戦略研究所長の潘振強退役少将、中国国際戦略研究基金会対外政策研究センターの張沱生主任(元国防大戦略研究所研究員、元在英大使館副武官)ら。日本からは浜田卓二郎元外務政務次官、元海上自衛隊護衛艦隊司令官の金田秀昭退役海将、元航空自衛隊航空支援集団司令官の永岩俊道退役空将、慶應義塾大学東アジア研究所所長の添谷芳秀教授、東京大学大学院の松田康博教授(東アジア国際政治)ら、米国からは「ジャパン・アズ・ナンバーワン」など日中両国の政治・社会研究で知られるエズラ・ボーゲル氏、元太平洋軍・中央軍司令官のファロン退役海軍大将、前在韓米軍司令官のシャープ退役陸軍大将らが参加した。
 
■「粗暴で常軌逸する」
 
 谷内氏は第2次安倍内閣で官邸入りし、公務で多忙になったことから、同氏の講演はかつて外務省で上司だった浜田氏が代読した。谷内氏は尖閣をめぐる中国側の強硬姿勢を批判した上で、「あなた方(中国側)はこのような中国を世界に見せたいのか。このような中国をあなた方の子供たちは誇りに思うだろうか」と問い掛けた。
 また、中国の経済発展を称賛しながらも、南シナ海での領有権争いも念頭に置いて、中国は日本やベトナム、フィリピンの「良き隣人」になるべきだと主張。このままでは「中国は超大国になるだろうが、(国際社会で)孤立して恐れられることになる」と警告した。
 これに対し、潘氏は「粗暴で常軌を逸し、黒を白と言いくるめ、是非を取り違えるものだ」「奇怪な歴史観、価値観だ」と谷内氏に反論。中国人や親中派の香港人が多い会場からは大きな拍手が起きた。
 潘氏は米国に対しても、第2次世界大戦後に「日本軍国主義の土壌」を除去する努力をしなかった、沖縄返還の際に釣魚島を「勝手に」日本へ引き渡したなどと非難した。さらに、「米国は中国を封じ込めようとすると同時に、中国と協力しようとする」と指摘し、米国の対中政策を「矛盾し、かつ分裂している」と酷評した。
 
■「日本の援助と謝罪、認識を」
 
 ただ、潘氏を含め中国側出席者はいずれも、一般論としては東アジア情勢の安定には日中、米中、日米中の協力が必要との認識を示した。
 中国側は谷内氏の批判に反発しつつも、日米が中国の「核心的利益」を尊重すれば、良好な関係を築きていたいという立場を示した。流ちょうな中国語で笑い話を交えながら、戦略面で相互の誤解を減らしていく努力の重要性を訴えた松田教授の講演には、会場から好意的な反応があった。
 一方、ボーゲル氏は、第2次大戦が終わった1945年から72年の日中国交正常化まで両国間にはほとんど接触がなかったため、「日本がいかにして軍国主義を完全に放棄したかを中国人は知らない」と強調。日本が国交正常化後、中国に多額の経済援助をしたことや、歴史問題で既に多くの日本のリーダーが謝罪していることも中国ではよく認識されていないと指摘した上で、中国側はこれらの事実を国民に広く知らせ、鄧小平時代の80年代のように日本と冷静に付き合うべきだと主張した。
 ボーゲル氏は近年、鄧氏に関する大著を執筆し、その中国語版が中国本土で最近出版された。鄧氏をプラグマチストとして高く評価するボーゲル氏としては、「反日」に拘泥する90年代以後の中国ナショナリズムは行き過ぎと映っているようだった。(2013年1月28日)

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