過度な中国依存の弊害あらわに─低迷続く香港小売業(2015年8月)
国際観光都市の香港で小売業が低迷を続けている。中国本土の景気悪化で、本土から来る富裕層の旅客が減り、購買力も低下したことが主因とみられる。マカオのカジノ産業と同様、香港小売業は本土からの旅客を「上客」として発展してきたが、ここに来て、過度な本土依存の弊害があらわになっている。
■小売売上高、4カ月連続マイナス
香港政府が7月31日発表した6月の小売売上高(暫定値)は前年同月比0.4%減の370億香港ドル(約5900億円)で、4カ月連続のマイナスとなった。本土観光客に依存度が高い宝飾品・時計などは10.4%減と落ち込みが特に大きかった。1~6月の小売売上高は前年同期比1.6%減だった。
また、香港生産力促進局(HKPC)が発表した7~9月期の調査結果によると、香港中小企業の景況感を示す指数は49.6.前期から0.6ポイント上がったものの、中間値の50を2カ月連続で下回った。
業種別では、小売業の指数が6.8ポイントも低下して、43.1になり、最低だった。HKPCの担当者の話によれば、小売業者の4割が「本土からの旅客減少の影響を受けている」と考えているという。
6月に香港を訪れた旅客は延べ436万人で、前年同月比2.9%減った。本土からの旅客は1.8%減の333万人だった。ただ、本土旅客数は過去数カ月、増減を繰り返している。香港小売業の不振は、本土旅客数全体の減少というよりも、本土の不景気や「反腐敗闘争」の影響で富裕層の旅客が減った、もしくは旅客が以前ほど高額品を買わなくなったことが原因だとみられる。
■量販店オーナーが夜逃げ
本土旅客が好んで訪れる化粧品店や宝石店、量販店、高級ブランド店は特に不調だ。
香港の化粧品小売り大手、莎莎国際(ササ・インターナショナル)の4~6月期の売上高は前年同期比8.6%減少した。宝飾品小売り大手、周大福珠宝の4~6月期の売上高も6%減。既存店に限ると、15%減で、うち香港・マカオでは24%も落ち込んだ
今月3日には、家具・家電量販店をチェーン展開していたDSCが突然、廃業を発表し、全店舗を即日閉鎖した。創業者のオーナー夫婦は7月の賃金や卸売業者への代金を支払わないまま、姿をくらました。「夜逃げ」だったとみられるが、夫婦は10日、詐欺容疑で逮捕された。
また、3日のロイター電などによると、フランスの高級ブランド「ルイ・ヴィトン」を擁するモエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)の幹部は、売上高減少と高額な店舗賃料を理由に、香港直営店を閉鎖する方針を明らかにした。
他の欧州高級ブランド店も香港の店舗オーナーに賃料引き下げを求めたり、閉店を検討したりしているという。米ドルと連動する香港ドル高も影響しているようだ。
香港メディアによれば、小売業の低迷を背景に、九竜地区の繁華街・旺角(モンコック)では最近、目抜き通りのネーザン・ロードに面したビル内の宝石店が店舗賃料を4割も引き下げて、賃貸契約を更新した。
■「爆買い」頼みが裏目
旺角などの繁華街は過去十数年、本土旅客のニーズに応えて、宝石店や化粧品店が急増した。本土旅客の「爆買い」が続くことが前提だった。
本土との政治的・社会的摩擦が原因で起きた道路占拠運動(昨年9~12月)で、急進民主派が拠点を置いた旺角のネーザン・ロードの両側がほとんど宝石店だったのは象徴的な光景だった。「本土旅客優先」という小売業界の姿勢が地元住民の本土に対する感情を悪化させる一因になったのである。
本土経済の予想外の減速で、香港小売業界のこうした店舗展開は完全に裏目に出ている。公式統計では、本土の経済成長率は7%を維持しているが、本土以外の専門家の間では「実際には7%をかなり割り込んでいる」「本当の成長率は公式統計の半分程度」との見方もあり、本土経済の実態は相当悪いようだ。
香港島の繁華街・銅鑼湾(コーズウェイベイ)で百貨店「そごう」を経営する利福国際の首脳は3日の記者会見で、香港小売業は今年下半期も「苦境」が続くと悲観的見通しを示している。(2015年8月12日)
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