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党・軍の大物OBが標的か─習近平新体制の「反腐敗」(2013年3月)

 3月5~17日に開かれた中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の第12期第1回会議で習近平共産党総書記が国家主席を兼務し、同国の新指導部が本格的に始動した。習主席は汚職を取り締まる「反腐敗闘争」を非常に重視しており、香港メディアやインターネット上では早くも、党・軍の大物OBが標的になっているとの説が出ている。
 
■前軍事委副主席、全人代を欠席
 
 全人代では前中央軍事委員会副主席の徐才厚上将(大将に相当)が全く姿を見せなかったことが話題になった。徐上将は昨年11月の第18回党大会前に党中央軍事委副主席・党政治局員を退任したが、国家中央軍事委副主席のポストは保っていたので、本来であれば、全人代に現役指導者として出席するはずだった。
 香港誌・臉譜4月号などは徐上将について、2012年2月に軍総後勤部の副部長を解任された谷俊山中将の汚職疑惑に関連して当局に調べられているため、全人代に参加できなかったと報じた。ネット上では「党規律検査委に拘束された」といううわさも流れている。
 谷中将は解任された当時から「軍上層部に後ろ盾がいた」といわれていたが、同誌など多くのメディアは最近、「後ろ盾は徐上将だった」と指摘している。
 徐上将は胡錦涛時代の中央軍事委で胡主席、習副主席、郭伯雄副主席(上将)に次ぐナンバー4。制服組に限ると、ナンバー2だった。これまでの「反腐敗」では多数の高官が検挙されているが、これほど高位の軍人が疑惑の焦点になるのは極めて珍しい。徐上将は江沢民元国家主席(元中央軍事委主席)に近いといわれている。
 
■前中央政法委書記の周辺、次々検挙
 
 党の大物OBでは、国土資源相、四川省党委書記、公安省、党中央政法委書記を歴任した周永康氏(前党政治局常務委員)の周辺が騒がしい。周氏もやはり江元主席派の重鎮だ。
 周氏の人脈は資源部門、四川省、警察や検察などを管轄する政法部門と幅広いが、第18回党大会の後、中央委の新メンバーで不正疑惑検挙第1号となった四川省党委の李春城・前副書記は周氏の四川時代の部下。また、党中央規律検査委に拘束されたと伝えられている湖北省人民代表大会(議会)常務委の呉永文・副主任(副議長)は同省の前党政法委書記・公安庁長で、最近まで周氏の配下にあった。
 3月22日には国営通信社の新華社が、海外の資源会社を次々と買収していた複合企業・四川漢龍集団の劉漢会長が警察の取り調べを受けていると伝えた。殺人容疑で拘束された弟をかくまった疑いがかけられているとされるが、周氏を含む党・政府高官との癒着が調べられているとの説もある。
 さらに、米国の中国語ニュースサイト・博訊新聞網は同24日から26日にかけて、中国石油天然ガス集団(CNPC)の董事長(会長)から国有資産監督管理委主任(閣僚級)に転じたばかりの蒋潔敏氏と周生賢環境保護相が不正疑惑で調査対象になっていると伝えた。蒋氏も同じ石油部門出身である周永康氏との関係が密接といわれている。また、周生賢氏について、一部の香港紙は「江元主席と特別な関係にあるので、環境保護相に留任できた」と伝えている。
 
■習主席「トラもたたく」
 
 江沢民時代以後、党の最高幹部である政治局常務委員や軍首脳はOBも含め、汚職で検挙されたケースはない。中国では「反腐敗」が政争の道具となっているが、党・軍の最高レベルでこれを使えば、政治体制全体が動揺する恐れがあるからであろう。
 しかし、習主席は1月22日、党中央規律検査委全体会議(総会)で演説し、党の規律や法律に違反した者は地位がどれほど高くても厳しく罰すると言明。汚職摘発では「ハエ」だけでなく、「トラ」もたたくと強調し、大物を検挙する可能性を強く示唆した。
 中央規律検査委の王岐山書記も3月4日、全人代と並行して開かれた人民政治協商会議(政協)のある会合で「反腐敗は持久戦を堅持すると同時に殲滅(せんめつ)戦もうまくやらねばならない」「『トラ』も『ハエ』もたたく必要がある」と語った。
 習主席と王書記はいずれも、汚職を徹底的に取り締まるには「権力を制度の籠の中に閉じ込めなければならない」と述べた。習主席らが社会主義体制を維持するため、一党独裁の制度化を図るのであれば、不正・腐敗が特にひどいといわれる軍や政法部門、国有大企業の綱紀粛正は避けて通ることができない。また、それにより、政界の旧勢力に打撃を与え、習近平体制の権力基盤を早期に固めるという狙いもあるとみられる。(2013年3月26日)

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