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一党独裁堅持の決意表明─習近平総書記の内部講話(2013年3月)

 中国の習近平国家主席(共産党総書記)が昨年11月の総書記就任後、ソ連崩壊を教訓として、党の軍に対する指導や社会主義への信仰により一党独裁を堅持していく決意を表明した内部講話の内容が明らかになった。習氏は総書記就任後初の地方視察先として改革・開放の先進地区である広東省を選んだり、憲政の重要性を強調したりして、改革派のカラーを打ち出していたが、その一方で、党内では「国体護持」を何よりも優先する本音を語っていたことになる。

■改革停滞を否定

 内部講話は今年1月下旬から、その一部がインターネット上で出回り、香港紙がこれを紹介。さらに、香港誌「新維」や「開放」の3月号が内容を詳報した。
 内部講話は昨年12月7~11日、改革・開放路線を敷いたかつての最高実力者、鄧小平氏(故人)に倣って、習氏が広東省を視察した際に行った。講話の要旨は党内で各レベルの幹部に伝達されたとみられる。
 ネット上の情報や香港メディアの報道を総合すると、講話は以下のような内容だった。
    ◇    ◇     
 社会主義だけが中国を救うことができ、改革・開放だけが中国を発展させ、社会主義を発展させ、マルクス主義を発展させることができる。中国の発展は鄧小平同志の指導で我々の党が行った政策決定が英明で正確だったことを実践で証明している。我々は断固として、この正確な道を歩まねばならない。これが強国の道、富民の道なのである。我々はしっかりと進むだけでなく、新たな措置や新たな水準も必要になる。
 現在、改革の推進は矛盾が多く、難度も高いが、改革をしないわけにはいかない。我々は勇気を出し、改革・開放の正確な方向を堅持して、非常に困難なことや危険なことにもあえて取り組み、勇敢に思想観念上の障害を打ち破り、利益固定化の垣根を突破しなくてはならない。
 西側の普遍的価値と政治制度に沿って改めることを改革の定義とし、そうでなければ改革ではないと言う人があるが、それはすり替えの概念であり、我々の改革に対する曲解だ。我々は当然、改革の旗幟(きし)を高く掲げるが、我々の改革は中国の特色ある社会主義の道を不断に前進する改革であり、閉鎖的で硬直した古い道も、旗を改め、のぼりを変える邪道も歩まない。
 中国の改革がある分野で停滞しているとする言い方に、私は賛成しない。ある分野である時期、(改革のペースが)少し速いとか、少し遅いとかということはある。しかし、全体としては、中国がある分野で改め、ある分野では改めていないといった状況は存在しない。問題の実質は、何を改め、何を改めないかだ。幾つかの改めないこと、改められないことは、いくら時間がたっても改めないが、これについて「改革をしていない」と言うことはできない。

■軍に対する指導堅持

 我々は大国であり、根本的問題で転覆するような誤りが生じ、その後、挽回も埋め合わせもしようがないということは決して許されない。我々は決して自ら足並みを乱してはならない。我々は(進むべき)道、理論、制度への自信を強調し、自信を確立する必要がある。
 マルクス主義に対する信仰、社会主義・共産主義に対する信仰は共産党人の政治的な魂だ。理想・信念は共産党人の精神における「カルシウム」であり、理想・信念がない、もしくは理想・信念が確固としていなければ、精神面で「カルシウム不足」になり、「軟骨病」にかかってしまう。
 ソ連はなぜ解体したのか。ソ連共産党はなぜ瓦解したのか。一つの重要な原因は、理想・信念が動揺したことだ。ソ連の歴史、ソ連共産党の歴史を全面否定し、レーニン、スターリンを否定し、否定を続けた結果、歴史虚無主義(ニヒリズム)が生じて、思想が乱れたのだ。
 なぜ我々は党の軍隊に対する指導を揺るぎなく堅持しなくてはならないのか。これこそがソ連解体から得た教訓なのだ。ソ連の軍隊は非政治化、非共産党化、国家化されたため、党の武装が解除された。(1991年のソ連保守派クーデター未遂事件で)何人かがソ連を救おうとして、ゴルバチョフ(当時の大統領)を抑えたが、たった数日で引っ繰り返された。独裁の道具が彼らの手中になかったからである。
 エリツィン(民主派のリーダーだった当時のロシア共和国大統領)が戦車の上で演説したのに、軍隊は全く関心を示さず、いわゆる「中立」を保った。結局、ゴルバチョフが軽々しくソ連共産党解散を宣言し、あれほど巨大だった党が消滅した。(同党には)男らしい男は一人もおらず、闘おうとする者は出てこなかった。

■改革派は失望

 香港誌「亜洲週刊」(3月17日付)も同様の内部講話を報じたが、これは党中央委メンバーの学習会と法制に関する会議で行われたものだと指摘した。広東省視察で話した内容を北京の会議で繰り返したのかもしれない。
 同誌によると、総書記就任後に憲政や法治の徹底を訴えた習氏の一連の発言に対し、首相や全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員長を歴任した李鵬氏、かつて胡錦涛氏(前国家主席)を中央指導者に引き上げたといわれる元党中央組織部長の宋平氏ら有力長老から不満の声が上がった。中国共産党は建前では憲法・法律の順守をうたうが、実際には党内の多くの人々は「自分たちの政治的・経済的利益を守るためには『党の指導』が最優先でなければならない」と考えているからだ。
 同誌は習氏の内部講話について「長老たちを安心させるためだった」と解説した。しかし、統治の基本方針に関して、これほどまとまった話をした以上、習近平体制ではこの講話の内容が指針とならざるを得ないだろう。改革派知識人の間では失望感が広がっているという。
 先の全人代で全人代常務委員長を退任した呉邦国氏は3月8日、全人代常務委の活動報告を行い、次のように習氏の内部講話と同じ認識を示した。
 「我が国の人民代表大会制度と西側資本主義国家の政体の本質的区別を十分認識し、各種の誤った思想・理論の影響を断固として防がねばならない。我々は人類の政治文明の有益な成果を参考にするが、西側の政治制度をそのまま取り入れることは絶対にしない」(2013年3月10日)

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