中国、過度な対外依存是正─5か年計画に「国内大循環」明記へ

 中国共産党政権で「国内大循環」を主体として「国内・国際のダブル循環」の相互促進を図る新たな発展戦略が具体化しつつある。安定した持続的成長のため、外国市場、特に対立が続く米国への過度な依存を是正し、国内市場の整備・開拓により力を入れるとみられる。この戦略は10月の第19期共産党中央委員会第5回総会(5中総会)で決まる第14次5カ年計画(2021~25年)の基本方針に明記される可能性が大きい。

■「閉鎖的ではない」

 習近平国家主席(党総書記)は8月24日、北京の中南海に経済・社会分野の専門家を集めて座談会を開き、第14次5カ年計画について意見を聴取した。習氏は席上、以下のように演説した。
 一、国民経済循環をスムーズにすることを主軸とする新たな発展パターンが必要だ。国内大循環を主体として、国内・国際のダブル循環が相互に促進し合う新たな発展パターンは、わが国の発展段階、環境、条件の条件に基づいて提起された。
 一、供給サイドの構造改革という戦略的方向を堅持し、内需拡大という戦略的基礎をしっかりと固めて、生産・分配・流通・消費をより国内市場に依存させ、供給体系の国内需要に対する適合性を高める。
 一、新たな発展パターンは決して閉鎖的な国内循環ではなく、開放的な国内・国際のダブル循環である。
 人民日報は同27日、この座談会に関する評論員論文を掲げ、「将来の一時期、国内市場が国民経済循環を主導するという特徴はより顕著になり、経済成長の内需潜在力が絶えず解き放たれるだろう」と予測した。
 「国民経済循環」「国内大循環」「国内・国際のダブル循環」は9月9日に習氏が主宰した党中央財経委の会議でも取り上げられた。

■「国民経済循環」後付け

 国内・国際のダブル循環という概念は5月14日の政治局常務委で提起された。その後、習氏は同23日に国政諮問機関である人民政治協商会議(政協)の経済界選出委員たちとの会合で、ダブル循環に「国内大循環を主体とする」を加えた発展パターンを「一歩一歩形成する」と述べた。
 また、習氏は7月21日の企業家座談会で演説し、保護主義が台頭して世界経済が低迷する中で「われわれは国内の超大規模市場の優勢を十分に発揮し、国内経済の繁栄を通じて国内大循環をスムーズにすることでわが国の経済発展の動力を増し(新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた)世界経済の復興を牽引しなくてはならない」と主張した。
 さらに、同30日の政治局会議は5中総会の10月開催を決めるとともに、「われわれが遭遇している多くの問題は中長期的なもので、必ず持久戦の角度から認識しなくてはならない」とした上で、この新たな発展パターン形成を「加速する」方針を示した。
 習氏は改革・開放以前の計画経済時代に多用されたスローガン「自力更生」を口にするなど保守的な考えを持つとみられている。このため、「国内大循環の強調は自力更生路線への回帰を志向しているのではないか」との見方も出た。
 前出の専門家座談会で習氏がダブル循環と国内大循環に加えて国民経済循環を持ち出したのは、こうした懸念を打ち消すためだったのかもしれない。いきなり国内大循環を前面に出すのではなく、国民経済の循環をスムーズにする中で国内に重点を置いて国際的循環との相互促進を図るという表現にすれば、自力更生のニュアンスは薄まる。
 国民経済循環という言葉は過去の中央経済工作会議などで使われており、既存の公式用語を引っ張り出して新政策の正当性を強調した形だ。

■「部分的デカップリング」

 新たな発展パターンの説明は異なる経済循環の概念をどんどん足していったことから、意味が分かりにくくなったが、習氏の一連の発言などから基本的に内向きであることは明らかだ。
 専門家座談会に参加した中国人民大学の劉元春副学長は8月30日、国内インターネットメディアの取材に応じ、次のように語った。
 一、ダブル循環の新たな発展パターンは国内経済の大循環を主体とするので、鎖国であるという理解は重大な誤りだ。国内大循環は本質的に開放的なのだと(習)総書記は再三強調している。
 一、部分的なデカップリング(分断)の可能性は確かにあるが、中米の完全なデカップリングは不可能だ。一方で、新自由主義を基礎とした単一のグローバル化がまだ続くと単純に考えることもできない。
 一、グローバル化は終わらないが、必ず大きな調整がある。われわれがこのような(部分的な)デカップリングに対応する上で重要なのは、中国の国内大循環という基盤を安定させることだ。
 劉副学長の説明から、新たな発展パターンは対外開放政策を維持しながらも、ある程度のデカップリングを想定していることが分かる。

■グローバル化の方式転換

 党中央の管轄下にある主要日刊紙・光明日報のニュースサイト光明網も9月1日、新たな発展パターンに関する劉志彪南京大教授の解説を掲載。劉教授は新たな発展パターンについて「長年堅持してきた経済発展戦略の重大な修正だ」と指摘した。
 劉教授によると、中国は欧米市場に依存する「アウェーのグローバル化」を進め、成功を収めたが、これは長期的に持続できる戦略ではない。国際環境が大きく変化した場合、国が独立性や自主性を失いかねない。
 第14次5カ年計画の期間中に中国は輸出を主な特徴とするアウェーのグローバル化をレベルアップして、膨大な内需を主な特徴とする「ホームのグローバル化」モデルに転換する必要がある。つまり、中国の内需を世界各国に開放して、中国市場をグローバル市場にするというのが論評の趣旨だ。
 劉教授は、人口・市場の規模が大きい先進国の経済がいずれも内需主導型であることも指摘している。新たな発展パターンは新型コロナや米国の経済制裁への対応だけでなく、中進国から先進国への道筋もにらんだ戦略だということであろう。
 この戦略は質の高い発展を図るためにさまざまな分野で独自のイノベーション能力向上を必要とすると思われるが、企業に対する統制を強める習近平路線でそれが可能なのか。また、質的発展より量的拡大を優先している印象のあるシルクロード経済圏構想「一帯一路」も調整が必要になるかもしれない。(2020年9月17日)


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