見出し画像

中津アンダーグラウンド

異形の楽しさが発見できるアラウンド梅田

ふた昔ほど前、大阪の梅田から歩いて10分ほどのところに住んでいた。最寄りの駅としては、阪急電車の梅田から京都線で一駅目の中津駅で、私の住んでいたマンションは、駅から歩いて3分といったところだった。また、中津は一級河川だった淀川のすぐそばで、そのまま十三(じゅうそう)大橋で淀川を渡れば十三というかなり大衆的な歓楽街がある。もう少し十三の話題を挙げるとすれば、日本で合気道を学んでいた映画俳優スティーブン・セガールが住んでいた町だ。ところで私が中津に住んでいたことを懐かしく思い出すのは、中津ほど不思議な町は少ないからだ。
梅田まで歩いて10分と書いたが、実際は梅田とほぼ町内感覚で、夕食の買い物は梅田阪急百貨店で済ますことが多かった。つまり大阪の都心の真ん中に住んでいるようなものなので、家から歩いて10分以内に阪急梅田、阪神梅田、大丸梅田、阪神梅田百貨店があるので、都市観は満点だった。次に交通の便となるが、JR梅田駅にも、阪急梅田駅にも、阪神梅田駅にもすぐに行けるし、地下鉄の梅田駅も中津駅も近い。家から職場や学校に行くのに、これ以上の交通至便の立地は他にはない。

都市の利便性+釣りの魅力

そこまでは都市の利便性だが、実はもっとユニークな魅力がある。それは自然だ。自然といっても淀川があるだけではないかと言われそうだが、この淀川が面白い。イタセンパラやアユモドキといった天然記念物の魚が住んでいる。しかも、私の住んでいたマンションから淀川までは直線距離で100~150メートルくらいだと思う。淀川では川が汚れて魚が獲れないと思っている人がいるかも知らないが、ちゃんと漁業組合があって、魚を出荷している。私どもが住んでいたところは、淀川も大阪湾の河口近くで、海の魚がよく獲れる。ざっくり言えば家の裏側に淀川があるので、竿さえあれば川岸の石をひっくり返せばいくらでもゴカイや小さな虫が捕まえられるので、それを餌にして釣り糸を垂れると、ハゼなどの淡水魚が面白いほど連れた。最近では、河口に近いところで、イワシ、タイ、アジ、メバル、ガシラ、太刀魚が釣れると聞いている。

映画「ブレードランナー」の不思議な未来観

正直言って、これほどユニークな大都市の立地はめったにないと思うのだ。私はこの中津の町が好きだった。さらにユニークなのは、梅田から中津駅の横を通って十三へと向かう国道176号線の地下には、いくつかに分岐した暗い地下道がある。かつての私鉄や道路の遺構が重なって、このようなアンダーグラウンドができたのだろうが、その奇妙な形のまま、大半は倉庫や駐車場として使われていた。まるで、映画「ブレードランナー」的な不思議な未来観を彷彿(ほうふつ)とさせる空間だった。地域開発、建築、デザインの仲間たちは地域開発の視点から、この特質を生かせばエッジ感のある新しい町が創造できるのではないかと期待して「中津アンダーグラウンド」という私たちだけのエリアの呼び名で読んでいた。

私がこの町を去って久しいので、この中津アンダーグラウンドがどうなったのかは知らないが、おそらく私たちが望んだような町にはなっていないと思う。しかし同時に、中津アンダーグラウンドには癖があるので、そのまままだ居座っているような気もするのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?