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わたしの見てきたある家族の6年間のこと

がらんとしていたわたしのなかに、ふたりが来たのはもう6年も前のことだ。

ここはすごくいいねと、ふたりともが気に入ってくれて。
がらんとしていたここは、すぐにふたりのものでいっぱいになった。

やってきてすぐに、わたしに備え付いていたエアコンが効かなくなってしまった。
夏の、暑い日のことだった。
ふたりに持ち込まれた扇風機が最大限に頑張って、寝苦しい夜をどうにかしてくれたんだったね。

ふたりは、幸せそうだった。


そのうち、ひとりのお腹がどんどんとふくらんできた。
ひとりは、わたしのなかでごろごろ、だらだらする日が増えた。
トイレに駆け込んだり、かと思ったら緊張した面持ちで出掛けて行って、写真を持って帰ってきたり。

もうひとりも、あれでもないこれでもないというひとりのオーダーに応え続けた。
毎朝わたしのなかから大荷物を持って出ていっては、何かしらの食べ物を買って帰ってくる。
ひとりを支えるのに、とても一生懸命だった。

ふたりは、幸せそうだった。


そして、しばらく経って。
ふたりは、さんにんになった。

さんにんめはとても小さくて、ころんと床に寝転んだまま。
わたしの持つ白い天井を、じっと眺める日々を過ごしていた。

それからごろんごろんと転がりだし、あっちこっちへ動くようになるまであっという間。

その間に、大きなひとりは泣いたり笑ったり忙しくて。
もうひとりも、泣きこそしなかったけれど、初めてのことに戸惑っていたようで。
それでもたくさん、さんにんで笑っていた。

ふたりは、さんにんになり。
さんにんは、とても幸せそうだった。


さんにんめはどんどん大きくなった。
1人で動いて、立って、大きくなって。
とうとう、歩くようになった。

わたしは、彼らより少し古くて、そこかしこに段差があったりするのだけれど。
さんにんめはすぐに覚えて、おぼつかない足取りでも上手に段差を乗り越えられるようになった。

そうして、さんにんめの靴がわたしの玄関に置かれた。


最近はもう、小さかったさんにんめは、ごはんも一人で食べられる。
はみがきもお着替えもできるし、お話だってお歌だって、とっても上手になった。

あまり広くないわたしのなかを、跳びはねるように毎日行ったり来たりしている。
床をどんどん鳴らされたって、壁をばんばん叩かれたって、あの小さいさんにんめが、と思うと多少の痛みは目をつぶってやろうと思える。本当は痛いけれどね。


季節が何度も巡って、さんにんめが自分のことをほとんどできるようになったころ。
大きなひとりが、またごろごろだらだらしはじめた。

目立たなかったお腹がどんどんふくらんで。
毎日立っていたキッチンには、あまり来てくれなくなって。
もうパンパンになって、はち切れそうになったとき。

ひとりは、ほんのいっとき帰ってこなくなった。


次に戻ったとき。
さんにんは、よにんになっていた。

もうひとりに抱かれてわたしの玄関からわたしのなかにやってきたよにんめは、今もころりんとしている。
最初は泣いてばかり。最近はやっと、笑うようになったね。
今のわたしは、きみの世界のほとんどだけれど。きっとまだ、よくわかっていないのだろう。

さんにんは、よにんになり。
よにんは、たいへん幸せそうだ。


いちばん小さな、よにんめのきみ。
きみが自分で、わたしのドアを開けられるようになるまで。
一緒にいられたら、こんなに幸せなことはない。


今日の記事は、書く部のみんなで書こう企画「なりきって書いてみよう」をテーマに書きました。

おしまい

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